すべてを話終わった時にはもう日が傾けかけていた。誰一人、私の話を途中で遮るような人はいない。
隣にいる猿飛さんの表情は分からないけれど、少なくとも目の前にいる真田さんとお館さまが私の話を真剣に聞いてくれていることだけは感じれた。あぁ、やっぱりこの人たちは優しい人だ。
きっと、この人たちが信じてくれなかったとしたら、この世界で私の話を信じてくれる人なんていないのかもしれない。
すべてを話し終わった時、私はそんなことを感じていた。
「……って、ことなんです」
誰も何も言わない。静かな雰囲気がその場を包んでいた。私もこれ以上、何を言って良いのか分からずに苦笑を浮かべながら「こんな話いきなりしても信じてもらえませんよね」と言った。
「そ、そ、そんなことはないでござるっ!」
「うむ。」
その言葉に僅かに驚きながら、何も言わない猿飛さんの方を見る。この人は先ほど私が記憶喪失じゃないといった時、僅かに鋭い視線をこちらにやった。
猿飛さんはもしかしたら私の話を信じてくれてはいないかもしれない、と思う。そんなことを思いながら猿飛さんと目があえば、彼は、アハーと笑いながら私を見た。
この笑みは何を示すのだろうか、と考えていれば、猿飛さんは「まぁ、大将達が信じるって言うなら、俺も信じるよ」と言った。じゃあ、猿飛さん自身はどうなんですか?なんて、聞けるわけもなく私はただ、頭を下げて「ありがとうございます」と口にしていた。
「よくぞ話してくれたな、。では、その帰る方法とやらが見つかるまでここにいると良い」
お館さまのその一言で、私はホッと息を吐いた。言ってよかった。彼らに真実を話すことが出来て。
そして、彼らに信じてもらうことができて。
もう一度頭を下げれば、親方さまは話す前と同じ笑顔で微笑んでくれていた。暖かい笑みに、私もフッと思わず笑みがこぼれた。
「疲れた……」
再び先ほど自分が眠っていた部屋に戻ってきた私はこれでもか、と言うほどだれきっていた。先ほどの話で精神をすべて使いきってしまった私にはもう気力なんてほとんど残っておらず、自分ひとりしかいない部屋で、寝転んで天井を見上げていた。
目を瞑って、開けたら元の世界に戻ってたりして。
ふとそう考えて私は瞼を閉じた。ここに来た時も、いきなりのことだったし、帰るときももしかしたらいきなりなのかもしれない。目を閉じて、すべての感覚を無に戻す。
目を開ければ、これはすべて夢できっと私は元の落ちたはずの階段の下にいるはず。
そして、目をあけていれば、あのうざったいような女子の悲鳴も、驚いている生徒達の姿が目に入るはず。
そう考えながら、私はゆっくりと瞼をあけた。
見えるのは木目模様の天井。聞こえてくるのは、鳥の鳴き声と、あと、なんか叫び声(誰と誰の叫び声なのかは先ほどのアレを見たら言うまでもないと思う)あぁ、戻れなかったか。
目を開けても何も変わらなかった現状にそれほど悲観することもなく私は立ち上がった。
「それにしても、そう言えばさっきの可愛い子ちゃんどうなったんだろ」
今の今まであまりに自分のことで頭が一杯になってたけれど、あの女の子はどうしたんだろうか。真田さんがいたから、問題はなかったと思うけれど少し心配になった。
「あの子なら、大丈夫みたいだよ」
「あっ、そうだったんですか!」
「うん。それに、あの子、ここの女中だったみたいでさ〜。買い物の途中に絡まれたらしい」
「へぇ、なんだかそれは運命感じますねー」
「いやいや、感じないっしょー」
「そんなことないですよー……って、誰だぁぁ?!」
いきなり聞こえてきた声。思わず普通に会話をしていたけれど、ここのふすまが開いた気配なんてなかった上に、ここには私しかいなかったはず。咄嗟に声のしたほうを振り返れば、そこには猿飛さんが笑顔をうかべながら立っていた。
一体どこから?!と思っても親方様の話いわく猿飛さんは全然忍べてない忍びらしいので、多分天井からなんだろう。
こんなに派手な忍びはありなのか?(いや、なしですよね!でもそんな事言えるわけがないですよね!)
「うんうん、やっぱりちゃんは良い反応してくれるねぇ」
「あ、どうも」
「いや、別に褒めたつもりはないんだけど」
「あはは……分かってますよ。」
私はどちらかと言えばツッコミ担当なんだから。、と言う言葉を飲み込んで私は「さっきの子、ここの女中さんだったんですか?」と猿飛さんに聞けば「うん」と、返事が返ってきた。
あぁ、だから、真田さんのことを始めから知ってたのか。そう言えば、今思い出したけど真田さんが破廉恥!って叫んだ時私と周りの男は呆気にとられていたのに、あの子だけ呆れてたもんな。あの時はきっと、またか、とか思ってたんだろう。
……そりゃ、あんな場面でさえ破廉恥なんて叫ばれたら呆れたくもなるよね。うん。
それに、未だに真田さんの破廉恥基準がどこなのか気になるし。
沈黙。これと言って話題もない、私は一息ついた。さっきから聞きたかったこと。それを猿飛さんに聞くために。
「猿飛さんは、私の言ったこと信じてないんでしょう」
「……どうしてそう思うの?」
「さっき、猿飛さんは"大将達が信じるって言うなら、俺も信じるよ"ってことは猿飛さん自身はどうかと思いまして」
大将達が、信じる。だから、俺も。と言うのは部下としてのことばだろう。きっと猿飛さん自身の気持ちではない。
「まぁ、忍は疑うのが仕事みたいなもんだからねぇ。まさかそう思われているとは思わなかったけど。じゃあ、ちゃんに聞くけど、俺様がちゃんを信じてないって言ったらどうするつもり?」
「いや、別にどうもしないですけど」
「えっ?!」
むしろ、どうにもしようがないと思う。私はここではただの居候で、何もできることなんてない。
自分を信じてくれないからって、地味に嫌がらせをするほど陰険な性格をしているつもりもないし、むしろ猿飛さんを相手にしてそんなことできるわけないと思う。っていうか、普通に無理。
どっから現れるか分からないは、クナイは器用に使うは、そんな人を相手に何か出来るなんて思ってもみやしない。返り討ちにあって、自分がどんな目に合うかなんて容易に想像ができてしまう。
「普通信じる方が珍しいと思いますから。私だったら絶対に信じません」
「言い切ったね……」
「だって、怪しすぎますからね!」
「自分でそれ言っちゃうの?!」
私がもしも猿飛さんの立場だったら、信じるなんてことできないだろう。むしろ、真田さんとお館さまはこの世界でも珍しい分類に属すると思う。
普通異世界から来ました、なんて言って信じるわけがない。私の世界だったら、即病院行きなのは間違いないはず。
そんな相手に対して、信じられないのは当たり前のことだ。だから、猿飛さんが悪いとか、そんなことは思っていない。
ただ、そりゃ、信じてくれたら嬉しい、とは思うけど。でも、信じることを無理強いするのはいけないことだと思うし、私はそれは悲しい。
信じる、と言う言葉を口にするなら本当に、信じてくれた時にして欲しい。期待して、裏切られるのだけは嫌だから。
「だから、まぁ、あのですね。信じてくれなくも良いです……が、ここではどうやらまともな人は猿飛さんくらいしかいないみたいなんで、無視だけはしないでくれると助かります」
さすがにまともな人から無視されるのはなー、と思いながらそう言えば猿飛さんは何が可笑しかったのか噴出して笑った。
本当失礼だな、この人。いささか、殴ってしまいたいと言う気持ちを抑えて私は引きつった笑みを浮かべた。
「なんか、ちゃんと話してたらちゃんを疑っているのが馬鹿らしく思えてきた」
「……は?」
「いやいや、こっちの話。大丈夫。無視なんてしないからさ!」
「あ、はぁ、それは、どうも?」
どうやら、無視はしないでくれるらしい。少しだけ馬鹿にされているような気もしないこともないけれど、ここは気にしないでおこうと思う。
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(2009・04・01)
とりあえず、武田軍と。妄想の赴くままに書き上げました。アニメが楽しみでなりません。本当に・・・!
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