好きだなんて今まで怖くて言えなかった
それは今でも変わらない
だけど――――――
あせない想い.8
「手鷲とは別にそんなんじゃない」
若の声がさらに低くなって怒っているかのように聞こえて、その声に私は恐怖を覚えた。
まるで、今日の朝の感じた視線のようだったから
しかし、若が怒っていると分かっていても私の口は止まるすべを知らない
「でも手鷲さんは若のことを下の名前でよんでたじゃない」
「あれって"特別な女の子"だからじゃないの?」
本当はこんな事自分から言いたくないし
若にも言って欲しくない
本当はこの質問の答えなんて聞きたくないんだ
「俺が好きなのはだけだ」
その一言を言う若の声はさっきとは違って優しく私をなだめるかのようだった
だけど私にはこの言葉を信じてよいか分からない
だってあの日、私に迷惑だって言ったのは誰でもない目の前にいる若だ
あの日のことを一度も忘れた事なんて一度もない。
忘れようとしても忘れることは私には出来なかった
私のことを迷惑だと確かにあの日若は言った。それは変わらない事実のはずだ
「のことを迷惑だなんて本当は思ってなかった」
その言葉に思わず顔を上げる。だけど、言葉はでてこない
「あの日の昼休みに偶然、のクラスの前を通ったらお前はクラスの男子と楽しそうに話していた」
それが鳳だったのには後から気付いたことだけどな、と付け加えるように言った
そういえば1学期の間は隣の席は鳳だった
あの日まで休み時間は私の知らない若のいるテニス部のことを知りたくて、テニス部のことをたくさん聞いていた気がする
多分だけど、鳳には私が日吉のことを好きなことはバレていたんだと思う
「それが許せなかった」
「そんな気持ちのまま放課後お前に会って、イラついていた俺は思ってもない事を言ってしまった」
「だが、迷惑だ何て思ったこと本当は一度もなかったんだ」
若の顔は悲痛に歪んでいて、この言葉に嘘はないんじゃないかって思った
だけど、一年間の心の傷はなかなか若の言葉を信用しようとしてなくて私は何も言えない
「あの日からこのままじゃいけないと思っていたのに、何も出来なかった」
「この前、に名字で呼ばれたときこのままじゃ嫌だと思った」
「今日の朝、鳳と教室まで歩いてきたとき、俺は無意識のうちに鳳に嫉妬していたんだ」
じゃあ、今日の朝睨まれたと思っていたのは別に私を睨んでいるわけじゃなかったんだ
その言葉に少しだけ安心した
「もう、遠慮はしない。俺はのことが好きだ」
若は私のことを真っ直ぐと見つめて言った。その目には私しかうつっていなかった
私も若のことが好きだ。そう言いたいのになかなか声にすることが出来ないのはなんで何だろう
ただ若の顔を見つめながら私は静かに涙を流した
好きだと伝えるのがとても怖い
若が迷惑だと言ったのは本心では無いと言うけれど、本当にそうだったのだろうか?
私はあの日から何が若にとって迷惑だったのか、何回も何十回も考えた
だけど考えれば考えるほど私は若にとって迷惑な存在だと思い知った
若がいなければ何もできなくて
そんな存在なのに
このままだったらいつの日か若は本当に私のことを迷惑な存在だと感じてしまうのではないかと思うと何もいえなくなってしまう
若のことは小さい頃から大好きだった。いや、だったじゃない。今でも好きなんだ
私にとってはかけがえのない存在で
「私は・・・・・」
やっとでた声は小さくてもしかしたら若には聞こえなかったかもしれない
だけど私はそのまま続けた。今の私には精一杯の声だったから
「若・・・が、好き」
本当は私の気持ちなんてこんな一言におさまるぐらい小さいものじゃない
どんなに傷ついても私は結局若から離れることが出来なくて、叶わないと分かっていても恋心を抱いていた
手鷲さんに勝手に嫉妬していた私
そんな私でも若は好きなってくれるだろうか
「若と、手鷲さんが仲良く話すのを見て、壊れてしまえば良いっ・・て思ってた」
なんで若の隣にいるのが自分じゃなくて手鷲さんなんだろう。本当はそこは私の居場所なのに、って勘違いしていて
沈黙が私と若の間に訪れる
これ以上、話したら私のことを嫌いになってしまうのではないかと思うとなかなか続きを言い出せない
「でも、お前は手鷲を助けたんだろ?」
「えっ・・・」
「呼び出された手鷲を庇って、顔をはたかれた」
なんで若がそのことを知っているのか
手鷲さんは私に若には言わないように言ってきたから手鷲さんの筈がない
じゃあ誰が・・・・?
「鳳がその現場を見たって教えてくれた」
鳳は私の頬の傷のことを知っていた。なのにあえて理由を聞いてきたんだ
「次の日、やけにテニス部がお前のクラスに来ただろ?実はそれ、手鷲がまた呼び出されないよう交代で見に行ってたんだ
」
だからその日、若は私の教室に来たのか
いつのまにかカーテンの開かれた窓からは赤い暖かい光が入ってきていていて
その向こう側に久しぶりに若の家が見えた
「俺としては、手鷲よりものことの方が心配だったから見に行ったんだ」
私はあの日若から逃げるかのようにあの日、屋上に向った
だって若がこんな事を思っているなんて思っても見なかったから
私のことを軽蔑の眼差しで見ているんじゃないかって、いや、私の存在をないように扱っているんじゃないかって思ってた
なのに違った
それが本当に嬉しくて、それまで以上に涙がでてきた
パジャマの袖は涙でもうびしょ濡れで冷たくなっていたけれど、それにかまわず私はパジャマの袖で出てくる涙を拭った
既に先ほどまで明るかったのに、電気のついてない私の部屋では若の顔は見えないぐらい暗くなっていた
でも、若の顔が見えないということはこの私の泣き顔も見られないって事で良かったと思った
「私、若に迷惑って言われてつらかったんだから」
「・・・・悪かった」
私が言うと若は覇気のない声で言った。思えば若が謝るなんて小さい頃から一度もなかったかもしれない
いつもケンカしたら私から謝って、なんだかそう思うと、少し笑ってしまった
先ほどまでの暗い思いは確かにまだ私の中にあるのだけれど、それよりも今は――――
「これからどんなに迷惑って言っても離れないんだからね」
覚悟しておいてねって笑いながら言えば
「あぁ」
若から笑みを含んだ声でかえってきた
君と離れていた一年間
それはこれまで君といた時間より短いはずなのに私にとってはとても長く感じた
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(2007・05・20)