幸せなこの時がずっとずっと続きますように
そう毎日願わずにはいられない――――
あせない想い.9
誰もいない放課後の教室で私は若の部活が終わるのを待っている。
若と付き合い始めて1週間、こんな日が来るなんてあの日までの私は考えもしなかった
今の自分が幸せな人間だと思えて仕方がない。それに、若を待っているこの時間でさえ愛おしいものに感じられるから不思議だ
「(まだかな)」
教室の時計を見ればテニス部が終わるまで、まだ時間はある。本当はテニスコートで見たいと言ったのに若は許してくれなかった
確かにあの若のことだから先輩なんかに冷やかされるのは嫌なんだろうな。だけど、若と仲直りした次の日に鳳に
自分の彼女だって紹介してもらえた時はすごく嬉しかった。顔を真っ赤にして言う、若に私まで照れてしまった
喉に渇きを覚えた私はジュースでも買おうと、自動販売機のところまで向った。その途中、まるであの時を再現したかのように
再び手鷲さんが複数の女の子に囲まれているのが見えた。それも、また同じ女の子だ。
懲りないな、と思いつつ私は財布を握り締めたまま走り出していた
「あんた、いい加減やめようとか思わないわけ?」
「うざいんだけどー」
「あんた達のほうがよっぽどうざいんだけど」
私の言葉に振り向く女子。まったく代わり映えのしないメンバーがそこにはいて、私を見て驚いた顔をしていた
だけど、一番驚いたように見えたのは手鷲さんだった
「さ、ん?」
「あら、最近、日吉君と付き合い始めたさんじゃない?」
「貴方も困ってるんじゃないの。こんな子が日吉君と周りをうろちょろしたら」
あぁ、そういえば手鷲さんは若の事が好きだったんだ。雨の日に顔を真っ赤にして言う彼女は明らかに若に好意を寄せている感じだった
確かにこんな可愛い子が若に告白したら私なんてかなわないかもしれない。だけど、
「別に。あんた達みたいに表では何も出来ない人なんかが言えたことじゃないと思うけど」
正々堂々と好きな人に自分から積極的に行動なんて私には出来ないし、出来なかった
それに裏でこんな事をしている人に比べたら全然普通の事じゃないか。好きな人に好きになってもらいたいと思うのは当たり前のことで、
こんな風に呼び出されても変わらない気持ちは素直に凄いと思う
「あ、あんたなんかに私達の気持ちが・・・!!」
「分からない。だけど、あんた達だって手鷲さんの気持ちを分かってないじゃない」
その言葉に、女の子達は目を見開いたままとまった。一人の女の子が振り上げた手もそのまま動かずに止まっている
私はそれを無視して手鷲さんの腕を持ち、立たせると言葉を続けた
「こんな目にあってでもテニス部のマネージャーでいるのはただ男目的じゃできないと思うけど」
「・・・!!」
「・・・さん」
女の子達はそれ以上、何も言わずその場を去っていった。この気持ちが彼女達に届けば良いと思うけれど、どうなんだろう
ハァと息を吐けば、隣で黙っていた手鷲さんが口を開いた
「さん、ごめん、なさい」
「えっ?」
「わ、私ね、本当はさんと若君が幼馴染って知ってたの」
手鷲さんの瞳からは涙がこぼれていた。まさか、私と若が幼馴染だと知っていたとは、じゃあ、雨の日に私が若と話したことが無いと言った嘘にも
手鷲さんは気付いていたのか。なんだか手鷲さんに酷い事をしてしまったのかもしれない
「だけど、若君が好きだった」
「う、ん」
「だ、から、雨の日にあんな事言ったの。私が若君のこと好きだと知れば、さんは優しいからもっと若君に近付かなくなるんじゃないかって」
あんな事・・・と言うのは、若に言わないでって言った事だろうか。誰だって、あんな風に言われれば若のことを好きだと分かる
まぁ、あの時の私は若とほとんど話すことはなかったけど、手鷲さんも不安だったんだろう。
「手鷲さん、私は別に優しくないよ。ずっと若の傍にいられる手鷲さんがうらやましかったし」
「・・ごめ、んなさい」
「あはは、別に怒ってるんじゃないよ。ただ、私も手鷲さんみたいな女の子になりたかっただけ」
素直に自分の気持ちを表せることのできる女の子。私には到底無理だと分かっていたけど、夢見ていた。
「私は若の事が本当に好きだから、若の事は譲れない」
「・・・」
「だけど、もし良かったらこれからも私と仲良くしてくれたら嬉しいな」
「あ、りがとう」
そう言って微笑む手鷲さんの笑顔はあの私が手鷲さんを庇った日のようにキラキラと輝いていた
それでも私はあの日とは違って、しっかりとその笑顔を見ることができた。
「じゃあ、私まだ仕事が残ってるから行くね」
「分かった。。また明日ね!」
「うん。さん、本当にありがとう!!」
手鷲さんは背中をこちらに向け、走って行ってしまった。私はその背中をずっと見ていた
もしかしたら、彼女がいなかったら私と若は仲直りできなかったかもしれない。そう思い、私は心の中で手鷲さんにお礼を言った
そんな事を思っていると、突然後ろから足音が聞こえてきた。振り返ればそこには思ってもみなかった人が立っていた。
「」
「わ、若?!なんでここに・・・?」
「たまたま手鷲が呼び出されるところを見て。」
「じゃあ、もしかして初めからいたの?」
「あぁ」
若の言葉に思わず、カァと顔が赤くなる。初めからいたと言う事はもしかしなくても、あれを聞かれたという事じゃないか
いや、もしかしたら聞いてなかったかもしれない。聞かれていたとしたらすごく恥ずかしいんだけど
「まさか、あれほどの告白が聞けるとは思ってなかったけどな」
「聞いてたの?!」
「もちろん」
若がニヤリと言う効果音のつきそうな顔で笑う。その顔に少しだけ、私の顔が引きつった。
そんな私に気付いていないのか、若は少し考え込むと顔を上げる
「しかし、俺だけ良い思いするのもフェアじゃないな」
「え?」
若が私の頬に手を置く。
どうしたんだろうと思い、若のほうを見上げれば夕焼けの中、若の顔がいつも以上に綺麗に見えた
「俺もの事が本当に好きだから、の事は誰にも譲れない」
少しだけ優しく微笑んで言う若の言葉に私の顔はさらに真っ赤になった。
どうか、この夕暮れが真っ赤になった顔を隠してくれますように。
そして願わくば、この愛しい人の隣に一生いさせてくれますように。
fin.
*****
あれ、終わり方めちゃくちゃ半端じゃない?(激汗
やっと、終わりました。前回から、やく3ヶ月後の更新・・・申し訳ありません(土下座
これからはとりあえず、日吉視点で話が書いていければ良いんですけど。とりあえず、他の連載の目星がついてからそれは考えます
こんなヘボ連載でしたが初めて完結を迎える事が出来ました。読んでいただいた、皆様、本当にありがとうございした!!
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(2007・08・12)