心の痛みはいつまでもひくことはない
ひくどころか痛みは日々増している――――――――
あせない想い.3
日吉と手鷲さんが仲良く話していたあの日、りりんと放課後ケーキを食べに行った日から数日経っていた
いつもなら日吉に会わないように急いで帰るけど、
今日は日直だったせいでもう教室が赤く染まりつつあるというのにまだ教室に居残っている
日誌を書き終えると職員室に急いでだしに行った
以前、友達に聞いた話ではテニス部はもうそろそろ練習が終わる時間らしい。
ぐずぐずしていたら日吉に帰り道会ってしまうかもしれない。
ふと廊下の窓から外を見ると、ジャージを着た女の子が数人の女の子に囲まれているのが見えた。
あのジャージ姿の女の子はもしかしなくも手鷲さんだ。自分でもよくわからないうちに私は裏庭まで走っていた。
乱れる息を整え、先ほどの集団がいたと思われる所に近付くと女子の怒鳴り声が聞こえてきた
「あんた何様のつもり?!」
「テニス部のマネージャーだからって調子にのってんじゃないわよ!!」
私が思ったとおり手鷲さんはテニス部のファンから呼び出しにあっているみたいだった。
はっきり言って、テニス部の人たちは裏でこんなことする様な子を好きになるはずがない。
とりあえず、手鷲さんを助けないといけないと思った私は集団の中に飛び出そうとした
はずだった―――――
「日吉君を名前で呼ぶなんてずうずうしいのよ!」
私はそれを聞いた瞬間、体が思うように動かなくなった。
私も心のそこではそう思っていたことに気付いてしまったから・・・
なんて、自分は汚い人間なんだろう。
何も関係のない手鷲さんに嫉妬して、もしかしたらこうなることも望んでいたんじゃないかと思ったら自分が嫌になった
「若君は呼んでも良いって言ったわ」
私はハッと我に戻ると手鷲さんを庇う様にして手鷲さんを囲んでいる女子たちの前に立った。
「さん・・・・?」
「あ、あんた誰よ!!」
女子たちは突然現れた私に驚いているみたいだった。私は女子たちの言葉を無視してにらみながら
「裏でこんなことしている人たちにテニス部の人たちが振り向いてくれると思ってるの?」
この言葉は自分に向けた言葉でもあった。
もう好きになってもらえないことは十分分かっているのに、他人を妬んでいた自分への戒めの言葉
「な、なによ!!」
一人の女子が少し震えた声を出しながら私の左の頬をぶった
ぶった女子は私をにらんでどこかへ走っていってしまった。それを追うように他の残された子達も行ってしまった。
「さん大丈夫?!」
手鷲さんは泣きそうな顔で私のほうを見ていた。
大勢の女子に囲まれた時には泣かなかった手鷲さんが他人の怪我でこんなにも泣きそうになるなんて思ってもみなかった。
私の心配なんてしないでほしい。私は貴方を妬む、あの女子たちと同じなのに
私には心配される資格なんてこれっぽっちもない
それに、今は頬の痛みよりも心の方がはるかに痛かった
泣きそうな手鷲さんに心配されないよう私は精一杯の笑顔をつくった
「私は全然大丈夫だよ!!それより手鷲さんのほうが大丈夫だった?!」
「あ、うん。私はさんのおかげで大丈夫だよ。ありがとう」
そう言った手鷲さんの顔は夕焼けの中でキラキラしていて、とても綺麗だった。
でも私には手鷲さんの笑顔を直視することは出来なかった
私にその笑顔は眩しすぎたから
私は腫れた左の頬をおさえながら、鞄をとりに教室に戻った。
教室につく頃には先ほどまで赤く染まっていた教室も暗い闇に飲まれたように、黒く染まっていた。
暗い教室の中に私の鞄だけがたった一つ机の上に取り残され、まるで今の自分みたいだと思った。
校門まで行くと手鷲さんが制服に着替えて誰かを待っているように立っていた。
手鷲さんは私と目が合うと、私のほうに走りよってきた。
「さん、さっきは本当にありがとう!!」
手鷲さんの笑顔はこんなくらい闇の中でも輝いているように見える。
私は手鷲さんに別に良いよ、と言って歩き出そうとしていた。
「あ、あの私テニス部の人たちにいつも送ってもらうんだけど、さんももう遅いし一緒に帰らない?」
それを聞いた瞬間、ドキリとした。
テニス部の人たちということはもしかしたら日吉も入っているかもしれない。
ならば私は早くこの場から立ち去らなければならない。
自分の嫌いな奴が手鷲さんといたら日吉も良い思いはしないはずだ。
これ以上、日吉に嫌われたくない
「悪いけど行かないといけないところがあるから。じゃあね、手鷲さん!!」
別に行かないといけないところなんてない
でも、私はそれを言うと後ろを見ずに走り去っていた。
手鷲さんには不快な思いをさせていないか心配だったけど、今はそんなこと考えられなかった
家に帰ると、お母さんが私の頬を見て何か聞きたそうだったけど私は転んだだけだと言い張った。
鏡を見ると結構はれていて、お母さんが心配するのも仕方がないし、多分だけどあの女子は力いっぱい叩いたんだと思う。
それでも痛いと感じなかったのは、心の痛みの方が勝っているからなんだろうと鏡に映った泣きそうな自分の顔を見て分かった。
次の日は雨がふるから傘を持っていきなさいとお母さんに言われたけど、外を見れば雲ひとつない澄み切った綺麗な青い空だった。
お母さんを信用していないわけでない。それでも、私には傘を持っていかなければならない天気には見れなかった。
左の頬は昨日より腫れは引いていたけれど、まだ叩かれたことが分かるぐらい痕が残っていた。
でも湿布を貼るほどでもないし、湿布を貼っていったら無駄に目立ってしまうだろうと思った私は特になにもせずに家をでた。
もちろん傘も持たずに
「!!」
急に声をかけられて思わずビックリしてしまった。
後ろを振り返れば、一年のときに同じクラスだった鳳がいつものあの笑顔で立っていた。
一年の時は席が隣だったこともあって仲は悪い方ではなかったけど、
二年になってからは鳳が日吉と同じクラスになったこともあって顔をあわすこともなくなっていた
「な、なに?」
鳳はテニス部のレギュラーでかなりモテる。
まだ通学時間より少し早いくらいだから、生徒の姿はまだらだけど数人の女子がこちらを見ているのが分かった。
「それ、どうしたの・・・?」
私は一瞬何を言われたのか分からなかった。
鳳が私の左の頬を指差したのでやっと私は腫れた頬のことを言っているということがわかった。
「あー、これね。昨日、前見ないで歩いてたら電柱にあたったんだよ」
馬鹿だよね、って笑いながら言った。
自分でもこの言い訳はありえないと思った。でも、手鷲さんが呼び出しにあっている所に飛び出したからなんて言いたくはなかった。
「あ、そうなんだ?意外ともドジだね」
鳳は満面の笑みをこちらに向けて言った
私はドジではないけれどこの言い訳で納得で通用したならそういうことにしておこう。
その時、ホッと胸をなでおろした私を鳳が少し困った顔で見ていることに気がつかなかった。
その後は学校に着くまでつまらないことを話しながら来た。
これが、通学時間の真っ只中だったら私は女子の視線に耐えられていなかったかもしれない。
鳳はテニス部の部室に用事があるらしく、途中でわかれた。
教室に着くと、もうりりんがいて私に気付くと走ってこっちによってきた
「あんた、どうしたのよ。その顔?!」
私の顔はそんなにやばいのだろうかと思ったけど、りりんの顔は本当に心配しているみたいだったから口に出すのはやめた。
さすがに鳳に言った言い訳がりりんに通用するわけがないと今までの経験上分かっていた私は昨日のことを簡単に話した。
りりんがなにか言いたそうな顔をしていたけど、先生が入ってきて私たちの会話はそこで終了した
本 当 は 見 え る 痛 み よ り 見 え な い 痛 み の 方 が 痛 い ん だ
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(2007・04.03)