毎年大晦日は大掃除をして次の日の新年を迎えるためにおせちの準備をすることで一日をおわれる。ましてや今年は両親も海外出張からどうしても帰ってこれないらしく、例年以上に私は家の中を走り回った。とはいってもなんだかんだ言いつつ吾郎も手伝ってくれたおかげが(あまり役にたたなかったうような気が大いにしないこともない)、夕方近くにはすべての仕事は終わりゆっくりとした年越しを迎えられそうである。

年越し恒例の歌合戦をリビングで見ながら欠伸を一つかみころし、テーブルに置いておいたみかんに手をのばした。

皮をむきながら今年一年の出来事を改めて考えていれば、今年の大変な一年だったと改めて感じ思わずため息が一つ零れる。例年とかわらず吾郎の世話はもちろん、色々な、たくさん人との出会いがあった。



そのすべての出会いに私はきっと感謝しなければならないんだろう。確かに、面倒だ、と思わなかったわけではない。巻き込まれる出来事は現実にありえることなんだろうか、と思ったこともあるし、考えすぎて頭が痛くなったこともあった。そ
れに出会う人々がそろいもそろって美形な人たちばかりのせいだったことも相まって女の子から睨まれる回数も増えた。

あの人たちと行動するのは私にとって厄介なことばかり。良いことのほうが少なかったような気がする。


けれども、出会った一人一人が私にとって大切な人になったことは間違いがなく、精神的にも私はこの一年で成長できたんじゃないだろうか。ソファーの上にあるクッションをだきしめながら、クッションに顔を埋めみかんを一つ口のなかにいれた。



「…アイス食べたい」



みかんの果汁のせいか、それとも考えすぎたせいか、なんだかいきなりアイスが食べたくなってきた。普段なら買い置きが(もちろん私が買ってきている)冷蔵庫の中にあるはずなので、私は立ち上がると冷凍庫を開けてみた。


しかし、そこにはあるはずのアイスがない。可笑しい。


昨日はちゃんとあったはずなのにと首をかしげていれば、後ろから「アイスなら昨日俺が食べたよー」と、とても軽いノリの声が聞こえて来た。もちろん、この家にいるのは私と吾郎だけなのでその声の持ち主も吾郎であるということは分かりきったことである。

振り返ってみればお風呂から上がったばかりなんだろう濡れた髪の毛をタオルでガシガシと拭きながら、こちらを見ている吾郎がそこにはいた。
我が兄ながら、それなりに成長したせいもあってか最近では少しは男らしくなってきたように見えないこともない。髪の毛から滴る雫がリビングの床へと跳ねるのを見て私は眉をひそめた。

「ちゃんと拭いてでてきなさいよ」吾郎の頭の上にかけられたタオルを手に取り、ガシガシと吾郎の髪の毛を拭いていく。ニヤニヤと嬉しそうに笑っている吾郎の表情が癪に障り髪の毛を拭く力を強めた。
その瞬間にイタイイタイ、と涙目になりながら訴えてくる吾郎。
良い気味だ、と内心で呟いておいた。しかしこれ以上強くするのも将来的に髪の毛に悪影響のように感じた私は力をぬき、それでもしっかりと吾郎の髪の毛を拭いていく。



「で、昨日食べたって、」
「いやさー、我慢できなくてつい?」


「……」


ついじゃないよ、ついじゃ!とは思いながらもたかだかアイス一つで怒るのも馬鹿らしく私はまぁ良いか、と息を吐いた。でも、一度食べないと思うとなかなかその欲求を拭うことはできない。
しかしながら、とコンビニまで買いに行くにしてもこの寒さの中じゃどうも面倒くさいと思ってしまうし、もう時間も時間。
私がどんなに平凡だとしても危ないことには代わりはない。とりあえず、痴漢の心配よりも不良なんかに金をだせと絡まれるほうが可能性として考えられるのがちょっと悲しいところではあるが、不良に絡まれたとしても雲雀さんの名前でもだしておけばよいかもしれない。そう考えるとアイスを買いにでようかとも思ってします。

一体どうしようか、冷蔵庫の前でもんもんと考える。吾郎が冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップへとうつし、それを一気飲みした。
よし、決めた!


アイスを買いに行く
面倒くさいので家でのんびりしておく