走って走って、もう学校のあちこちを回ったと言うのには見つからなかった。どれだけ、は俺から本気で逃げ出したのかを知ってしまったような気がして、少しだけかっこ悪いけど泣きたくなったのが正直な話で、でも俺は足を必死に動かした。あぁ、もうだけど何処に言ったんだよ!と、ふと視線を廊下の奥にやればそこにあるのは見知った後ろ姿。そして、その目の前には山本がいる。
見つけた……
ハァと安堵の息を吐く。だけど、まさか俺よりも先に山本がを見つけるとは俺もつくづく運がない人間かもしれない(必死に探していた俺にはを見つけることができなかったのに)走るのをやめてゆっくりと一歩一歩をまるで確かめるかのように歩く。もし、に本気で拒否されてしまったらどうしようと思うと、恐くなって歩く足が震える。この駄目ツナ。もう後戻りなんてできないんだ。進むしか出来ないんだから、ちゃんと俺はを捕まえないといけないんだ。山本がこちらに気づき一瞬だけ目が合う。その後、歩き出そうとしたを必死にとめようとしている山本が俺の為に頑張ってくれているんだと思えて、良い友達が持てたと思えた。もう少し、もう少し、と高鳴る胸を押さえて少しずつに近付く。
のすぐ後ろに立った俺に山本の視線が自然と移る。俺はの肩に手を置いた。ビクッと跳ねる肩に何となく今がどんな顔をしているのかが想像できた(きっと怯えているんだろうな)(本当はそんな顔させたくないのに。だけど、そんな顔させるのはこれが最後だから)「。やっと、捕まえた・・・・・山本、ありがとう」と言えば山本は笑顔を作り、「いや、気にすんな!」と言ってくれた。肩から伝わるの体温に、やっと本当に捕まえたんだ、と実感する事ができて、良かった、と心の底から感じた。こちらを向こうとしない。寂しい。
「じゃあ、頑張れよ」
山本の言葉に俺は肩を掴むのをやめ、の腕を掴みなおした。山本と目を合わせる。あぁ、頑張ってくるよ。と言う言葉を含めて。歩き出す俺にまたは何も言わずに大人しく着いてきてくれる。本気で嫌ならきっとこの手を振り払ってでも逃げるはずだ、と思えば、少しだけ安心した。持田先輩の言葉のとおりは今、俺に捕まってよかったと思ってくれているんだろうか。やってきた屋上には誰一人いない。
「ねぇ、」
向かい合ったは下を向いて、こちらを見ようとしない。俺はその事が堪らなく悲しくての名前を呼んだ。お願いだから俺のほうを見て。俺の気持ちを聞いて、と自分の気持ちを言おうと口を開こうとした瞬間にの顔が上がる。の顔は笑顔だ。だけど、それは作られた笑顔で、俺はまだにこんな顔をさせてしまっているんだ、と思い目を伏せた。に自分のこの思いを伝えれば本当には笑ってくれるんだろうか、と不安になる。微笑むに俺の胸は軋んだ。ごめんよ、。そんな顔しかさせれない俺を許して。でも、俺はこの気持ちを君に伝えたいんだ。
「綱吉くん、さっきのは聞かなかったことにしてくれないかな?」
の言葉に俺は思わず表情をゆがめた。そんな事できるわけがない。が俺のことを好きだといってくれたのに、その言葉を聞かなかったことにしろ?好きな子が俺のことを好きだって言ってくれたのに、そんな事できるわけがない。それも、そんな泣きそうな顔で笑いながら言われたって、納得できるわけがない。本当に聞かなかったことにしても、は良いのかよ。それでがいつものように笑ってくれると言うのなら、聞かないことにしても良い。でも、そんな事ないんだよね、?「そんなの嫌だ・・・・・・聞かなかったことになんて出来るわけが無いよ」真っ直ぐとの目を見て言えば、は視線をずらした。
こっちを、俺のほうを見て欲しくて俺は、「」と名前を紡ぐ。その声には驚いた顔でこちらを見る。やっと目があった、と思った矢先に今にも足を動かそうとする。また俺から逃げようとするの?と思うと俺は今度こそは逃がさないと、の腕を無意識のうちに掴んでいた。「に、逃げないでよ、」声がどもり、自分がどれだけ今、緊張しているのかが分かる(こんな時に声がどもるなんて本当にかっこ悪い……!)少しだけを掴む腕が震える。
「・・・・・・綱吉くん、逃げないから、もう少し力抜いてもらえないか、な」
「あっ、ご、ごめん!本当、ごめん!」
いつの間にか強く握っていたらしい。女の子の腕を自分の力に任せて掴むなんて最低だ、と思いながらの腕を掴む力を緩めた。また逃げられてしまうんじゃないかと思うと、の腕を離す気にはなれなかった。こんな俺には何を思っているんだろうか。かっこ悪いと笑うだろうか。駄目ツナだと思ったりするんだろうか。だけど、俺は君の事になるとそのぐらい余裕がなくなってしまうんだ。確かに今でも駄目ツナだということは自分でも分かっている。でも、成長はした。数学は今だって苦手だけど、成績だって昔に比べれば全然良くなった。運動だって、ドベだったのに、大分何でもこなせるようになった。
成長した俺。余裕だってできたはずなんだ。だけど、好きな子のまではいつも駄目ツナに戻ってしまう。君の前じゃ余裕なんてとてもなくて、どうして良いのか分からなくなってしまうんだよ。
「う、うん。逃げようした、私が悪いんだよ」
が悪いわけないのに、と言う言葉は飲み込んだ。「俺、」それよりも俺にはに伝えなければならない事がある。だから、逃げないで聞いてよ。友達からも応援して貰って、持田先輩からも応援(といって良いのか分からないけど)してもらって、それなのにこのまま臆病な俺のままでいるわけにはいかない。好き、と言う一言をに伝えたい。告白された時、浮かぶのはいつもの顔なんだ。俺もこんな風に告白する勇気があれば、といつも思っていた。だから、聞いて。
俺のに対する大きな想いを
(2008・03・09)
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