我に戻った時は既にがどこに行ったのか分からない状態で俺は困り果てた。あののことだ、大人しく教室に戻れるとはとても思えない。折角両想いだと分かったのに、これなんて俺ってつくづく運がなさすぎる。駄目ツナ。本当に駄目ツナすぎて自分でも驚きそうだ(って言うか、驚いてる)



階段を降りて行けば、若干もう既に息がきれていた。あまり走ったつもりはなかったけどここにくるまでの間に全速力で走ってきていて、確かに息がきれるのも頷ける。あぁ、俺って本当にを捕まえたいんだ。そんなの当たり前のことだけど、改めて自分のへの思いの大きさを実感した。









早くこの腕に抱きしめて、俺も同じ気持ちなんだ、と伝えたい。






そして、今まで困った顔をさせていた以上に笑った顔をさせてあげたい(これは俺のエゴかもしれない)(俺がただの笑った顔を見たいだけなんだ)!と名前を呼ぶもその声にこたえる者はいなくて、人気の少なくなった学校の声にその声は響いた。本当に何処に行ったんだ、と思っていれば目の前には見知った後ろ姿。あれは――










「持田先輩!」









俺の声に持田先輩は驚いた顔でこちらを振り向いた。きっと、普段なら話しかけることなんてしない俺が声をかけて驚いているんだろう「沢田?!」動揺しすぎな持田先輩。いや、本当は俺も持田先輩には声がかけづらかったりする。中学生の時、どんなに死ぬ気になっていたとしても、持田先輩には申し訳ないことをしたと思っているから(だけど、はそれを覚えててくれて、)(だから持田先輩には悪いけど俺は、後悔は、していない)持田先輩はやっと落ち着いて来たのか、俺が目の前に来たときには既にいつものの横にいるときのような顔をしていた。




持田先輩、知ってますか?俺がどれだけ持田先輩を羨ましいと思っていたのか、を。がどんなに持田先輩をないがしろにしていても、それは仲が良くないとできない証拠だと、思う。それに、いつも持田先輩の隣にいるは楽しそうに笑っていた。











「……あー、沢田か。なんだ?」



、知りませんか?」











額から流れる汗を拭いながら目の前にいる持田先輩に聞く。持田先輩は何を勘違いしたのか「なんだ。鬼ごっこでもしてるのか?あー、俺も良くやったな」なんて言っている。別に鬼ごっこをしているわけじゃないんだけどな、と思いながらも何も言わずに持田先輩の言葉を待っていれば、持田先輩は少しだけ笑った。なんで、笑っているんだろうか。その事に俺は頭をかしげる。


持田先輩は微笑んだあと、バツの悪そうな顔をしながら「悪ぃけど、は見てねぇや」と言った。俺はその言葉に肩を落とした。俺はを捕まえる事ができるんだろうか。好きな子に好きだと言われたと思ったら本気で逃げられて、少し自信がなくなってしまう。相手が本気で逃げているのに、俺はそれを追いかけて良いのか、と言う疑問が頭の中を駆け巡った。俺は捕まえたいと思う。でも、それは逃げているの気持ちを無視することにはならないのか。








「そうですか、」









ありがとうございます、と言って俺はその場を後にしようとする。急いでを見つけないと思うのに、もしかしたら捕まえない方が良いのかもしれないと言う気持ちが交差する。持田先輩はそんな俺を見ながら「沢田」と名前を呼んだ。俺はその声に歩き出そうとしていた足を止める。一体、どうしたんだろう「はきっとお前に捕まえて貰うの待ってると思うぜ?」と言う持田先輩。


あぁ、この人は全部お見通しなんだ。俺が別に今鬼ごっこをしているわけじゃなくて、ただを捕まえたいと言う事を。そして、俺がのことを好きだということも。持田先輩はきっと、全部知っている。だから、さっき、笑っていたんだ。そして、俺が今迷っていたことも持田先輩にはお見通しだったと言うわけか。







ひらひらと俺に手を振りながら背を向けて去っていく持田先輩の言葉を心の中で反芻して、俺はまた走り出した。絶対に見つけてみせる。と仲が良い持田先輩が言ったんだ。も俺に捕まえて欲しいと思っていると。

なら、が嫌がらないと言うのなら俺はを捕まえてみせる。何処に行ったのかなんてわからないけど、でも、俺はを捕まえられるような気がした(もしかして、これも超直感なのか?!)






いや、違う。絶対に捕まえてみせるんだ!












(2008・03・06)