誰もいないのは、と考えて思い浮かんだのはいつも山本や獄寺くんと弁当を食べる屋上だった。俺はの腕を引っぱりながら、階段を上る。少しだけ自分の手が汗ばんでいるのが分かって、緊張している自分がいることに気づき、それがにバレなければ良いと思った。
好きな子の腕をつかんで、緊張するなんて本当に余裕がないようで、かっこ悪い。俺の後ろで大人しく着いてくるは何もしゃべろうとしないで、俺は今がどんな顔をしているのか見ることもできずに想像することしかできない。





屋上のドアを開ければひんやりと冷たい風が頬を撫で、少しだけ頭が冷めてきた。俺は一体なんてことをしてしまったんだろう。をここまで連れてきて俺はどうするつもり?何を聞くつもり?








それに聞いて、どうするつもりなんだよ







ずっとが好きだった、と伝えるべきなんだろうか。だから、俺を避けるのは止めてほしい、と。

でも、もしそれで今まで以上に避けられたらどうすれば良いんだよ。だけど、もうここまで来てしまったんだ。屋上は俺の思ったとおり誰一人いなくて、目の前のは不安そうな顔で俺のほうを見ていた。その顔に、俺はドクンと胸がはねた。
最近の俺はにこんな顔をさせてばかりだ。本当は笑っていて欲しいのに。だけど、俺が近づけはは困ったような顔をする。俺の手でを笑わせたいという思いとは裏腹に、俺がいるとは笑ってくれなくなる。山本や獄寺くんや持田先輩といる時の方がは良い笑顔で笑っている。









「・・・・ねぇ、さ。最近俺のこと、避けてない?」









俺がいるとは笑えない。だから、俺を避けるんだろう?(俺が一緒にいると笑えないから、俺を避けているんだろう?)目の前のは一瞬だけ驚いた顔をしてすぐに笑顔を作った。その笑顔だって、俺の知っている笑顔じゃなくて、少しだけその笑顔はぎこちなかった。こんな顔をさせてしまっているのは俺なんだ。そう思うと、胸が痛んだ「そんなことないよ?」と言う





嘘。嘘。嘘。そんな下らない嘘をつく。俺が傷つくって分かってるからそんな風に言ってくれるんだろ?本当は俺を避けてるんだろ?そんな事に気づかないほど、俺は馬鹿じゃない。これでも一応、昔より少しは成長したんだ。確かにまだまだ駄目ツナな俺だけど、好きな子が自分を避けていることに気づかないほど馬鹿じゃないんだよ。でも、俺は臆病だから、それは嘘なんだろ、なんてに言えない。肯定なんてされたら、俺はどうして良いのか分からないんだ。











「だけどさ、山本や獄寺くんとは話すのに、俺とは以前より話さなくなったと思うんだけど、」



「それは、」








の言葉がつまる。あぁ、やっぱり、避けていたんだ「それは、獄寺くんは席が隣だし、山本とはただ単に話す機会が増えただけだよ」そんな顔で言われても説得力なんてないよ、。その顔じゃ、その質問に肯定しているようなものだ。山本や獄寺くんと良く話すようになったのは意図的なんだろ?俺を避ける為に二人と仲良くなったんだろう?

どんどん俺の頭を支配していく言葉は卑屈な言葉ばかりで、俺は自分が嫌になった。周りの人たちに嫉妬したところで、が俺を避けることには変わりがないのに。俺自身に悪いところがあるはずなのに、俺はに避けられるようになったことを周りの人たちに責任転嫁してしまっている。あぁ、そうか。だから、俺は駄目ツナなんだ。自分の悪いことを認めることができない。








「ねぇ、。本当のことを言ってよ」






僅かにの顔が曇る。本当のことなんては優しいから言いたくないんだろう、と思った。だけど、僅かに曇ったその顔からどんな言葉が紡がれるのかが予測できる。避けられて、本当のことを言ってと言えば、曇る顔。これは、もう、俺がに嫌われていることなんて簡単に予想できることだ「本当の、ことって?」笑顔を作っている

どうせ俺が言いたいことは分かっているくせに、とにまで卑屈なことを思ってしまう。俺って、最悪だな……でも、分かってはいるけど俺はこのまま知らないふりをすることはできない。避けられるなら、理由を知りたいと思うし、嫌われてるならその理由を知りたい。が嫌いなら、そんなところはちゃんと直す。

だから……避けないで、そして、お願いだから嫌いになんてならないでくれよ。好きな子に嫌われるなんて、本当は考えたくもないことなんだ。好きになって欲しいなんて我侭なこと考えたりはもうしないから、友達、と言う関係でも俺は、と一緒にいられるならそんな関係でも構わないんだ。本当は恋人になって欲しいなんて思ったりしたこともあったけど、がそれを望まないのなら、俺は友達でも構わない。一緒にいられるならそれで良いんだから。










「・・・・・、俺のこと嫌いになったんじゃないの?」







俺の言葉には今まで以上に目を見開くと、顔を真っ青にしていた。もしかして、この言葉は事実、だったんだろうか(あぁ、それなら言わなければ良かった)(ずっと知らないフリをしていればよかった)はカタカタと僅かに唇を震わせて、俺の目を見た。今さらかもしれないけど、本当に言わなければ良かったかもしれない。に、好きな子にこんな顔をさせて、それで自分も傷ついてんじゃ、世話ないじゃないか。










「ちが、違うよ!!そんな、嫌いなんかじゃ、ない。私は、綱吉くんのこと大好きだよ!」








の言葉に俺は一瞬何が起こったのか、が何を言ったのか、理解する事ができなかった……じゃあ、も、もしかして今まで俺ってただの勘違いをしていたの?(うわーそれって凄く恥ずかしいかも、)あまりにも必死に言うからはこの言葉が嘘だなんて、思えなくて、顔を真っ赤にさせて言うにこの言葉が友達としての好きじゃないことに気づいて、俺は固まった。も同じ気持ちだった。俺と。はずっと俺を見ていてくれたんだ。そう思うと、凄くうれしくなって、今すぐにでもを抱きしめたい気分になった。

だけど、はこの言葉を紡いだ後に一気に青ざめて、踵を返して走って屋上から出て行ってしまった。俺はただ、「!」と叫ぶ事しかできずにいた。を逃がさまいと、伸ばした腕が、掴むのはただの屋上の冷たい風だけだった。





って、何してんだよ俺!を早く捕まえないと!












(2008・03・05)