ゾロゾロと人が集まりだす、朝の時間。私はいつもの様にりりんと話すことはせずに、真剣に友達から借りてきた本を読んでいた。まぁ、本とは言っても少女漫画のことなんだけどね(いや、ちゃんとした本も読むよ!)って言うか、普段なら漫画なんて学校で読んだりしないんだけど、りりんが今日の朝は用事があるらしく教室にはいないから偶然借りていた少女漫画を読み出したってわけだ。だけど、読みだしたら読み出したらで、なかなか面白い。あぁ、でも気をつけて読まないと風紀委員に見つかってしまったら没収されてしまうよ!!友達の本だから、それは何とか阻止せねばならない(それなら読むのを止めればよいだけの話なのだけど)
「(・・・小さい頃を思い出すなぁ)」
そうだ、小さい頃は少女漫画のように可愛い主人公になりたいと願ったものだ。うんうん、小さい頃は可愛いお嫁さんに憧れて、少女漫画の主人公に憧れて忙しかったなぁ。私にも可愛い時代があったのだと、思ってしまったのは今はそんな事少しも思っていないからだろう。だって、私はどこからどう見ても、普通の女の子で可愛くなんてない。こんな奴が少女漫画の主人公になれるわけもないし、可愛いお嫁さんなんて夢のまた夢。そりゃ、小さい頃はどうやったらこの主人公の様になれるんだろう!なんて考えたけど、今はそんな事考える時間が無駄だ(そんな時間があるなら私は数学の宿題を優先させるよ・・・・)
「でね、彼氏がね」
「私も早く彼氏が欲しい!」
漫画を読みながらさりげなくクラスの会話に耳をすませば、この時期の女の子なら誰でも興味のある話(悲しい事に私には関係の無い話だけどね!)そうだ、実は今読んでるこの漫画だってそんな話だったりする。好きな男子がいて、けなげに頑張る女の子の話。これだけ、聞けば普通に現実の世界のどこにでもありえそうな話だけど、漫画と現実はやっぱり違う。だって、漫画では好きな男子がその主人公の女の子を好きって言うのが前提で話が進んでいく。まぁ、なんて楽な物語なんでしょう!!現実の物語はそんな楽な物語ではないのに。
「、おはよう」
「え、あ、綱吉くん。おはよう」
ふと目の前に人の気配を感じ(って言うか、影ができたから気付いただけなんだけどね)声をかけられて、初めて目の前に綱吉くんがいる事に気付いた。わざわざ私のところまで朝の挨拶をしてくれるなんて何かあったのだろうかと思えば、綱吉くんの手には数学のノートがあった。(・・・数学を聞きにきたんだね)なんだか数学の為だけに朝から私のところに来たのかと思うと、少しだけ寂しい気持ちになった。
「で、綱吉くんは数学を聞きに来たってわけかな?」
「えっ、なんで分かったの?!」
「ふふ、君のその手に握られた数学のノートがすべてを語ってるのさ!」
「ちょっと、キャラ違うから!!・・・・また悪いんだけど、教えてもらっても良い?」
「もちろん!さぁ、どんと聞いて!」
私の前の席に座って、後ろを向く綱吉くん。私も、読んでいた漫画を机の上において、綱吉くんが開いたノートを見た。あ、これは結構難しかった問題だ。まぁ、もちろん私は昨日のうちにちゃんと解いてるんだけどね(どうだ凄いだろ!)綱吉くんに教えれば、今回は綱吉くんもすぐに理解したらしく、「あ、そうだったんだ」と言いながら問題を解いていく。自分で問題を解けるようになったらしい、綱吉くんのノートから顔をあげて私が教室を見渡せば、既に京子ちゃんは来ていた。何で、綱吉くんは京子ちゃんに聞かなかったんだろう。この前は京子ちゃんがいなかったから仕方がなかったとしても今日は、京子ちゃんがちゃんといる。それも綱吉くんの隣の席にだ。それなら京子ちゃんの方が私なんかより頭が良いし、京子ちゃんに聞いたほうがよっぽど良いと思うのに。
「ありがとう、。今日、多分だけど俺当たるんだよね」
「うわ、それは大変だね!あの先生何かしらムカつくもんね!(ちくしょー、この前のノートは絶対忘れない!)」
「まぁまぁ、落ち着いて」
綱吉くんが苦笑しながらなだめるかのように私に言う(私はそんなに子供じゃないよ!)あぁ、もしかしたら綱吉くんは京子ちゃんに良いところを見せたかったのかもしれない。だって、京子ちゃんに数学ができないなんて知られたらかっこ悪いと考えているのかもしれないし、それなら私に聞いて来たのも納得だ。男なら好きな子に良いところを見せてやりたいって言うのが本望だろう。私は男じゃないからそこらへんの気持ちは分からないのだけど。よし、今度山本か持田先輩にでも聞いてみよう「好きな子にはやっぱり良いところ見せたい?」って。持田先輩は絶対頷くだろうな・・・それが、中学の時の綱吉くんとの決闘の1件に繋がったんだと思うし。あの先輩、単純馬鹿だもん。
「って、漫画読むんだ?」
「あ、うん」
私が机の上に置いてあった漫画を見ながら、意外そうな顔で綱吉くんは言った。・・・・うん、意外そうな顔?これってもしかして私が少女漫画読むようには見えないってことですかね?あははー、喧嘩なら買っちゃうぞ、綱吉くん?なんて思えば、まぁ、だけど私って確かに少女漫画読まないからそう思われても別に関係ないかという答えにいきたいた。
「綱吉くんも読む?」
「俺、男だから!」
「そんな即答しなくても。最近じゃ男子だって少女漫画読んだりするんだよ?」
「えぇ?!本当に?!」
「・・・多分」
「多分なのかよ!」
いや、でも最近少女漫画読む男子っているような気がするんだけどなぁ。それに綱吉くんが少女漫画読んでても違和感ってあんまり無いと思うんだよね。これが獄寺くんだったり、山本だったりしたら違和感がかなりあったと思うんだけど。(ごめん、獄寺くん。君が少女漫画読んでるところ想像して思わず笑ってしまいそうになってしまったよ)そう思いながら、机の上にあった少女漫画を手に取れば、丁度良くといったところでチャイムが鳴り響いた。そのチャイムを聞いて、みんなも席に戻っていく。(えらいよね。普通、先生が来るまで立っておしゃべりするクラスもあるのに!!)もちろん、綱吉くんも立ち上がって前の席の椅子を直した。
「、本当に助かったよ。ありがとう」
「どういたしまして。今度、何か奢ってね!」
「えっ」
「あはは、嘘だよ。嘘。ほら、早く席に着いたほうが良いよ」
私の嘘に簡単に騙されるなんて、綱吉くんもまだまだだなぁと思いつつ、私は自分の席へと戻っていく綱吉くんの後ろ姿を見送った。自分の席に戻った綱吉くんに、隣の席の京子ちゃんが話しかける。本当に、この2人は早く付き合わないのかなぁ!すごくお似合いなのに!!(・・・・チクリ)なんだか、そう思っていると自分の胸がチクリとなった気がした。だけど、なんでチクリとなったのかなんて自分じゃ分からなくて、そのチクリが痛いものなのかすら分からなかった。
「(やっぱり京子ちゃんは可愛いなぁ)」
漫画を鞄の中に戻して、再び前を見れば綱吉くんと話している京子ちゃんの横顔が見えた。嬉しそうに微笑む京子ちゃんは、どんな少女漫画の主人公よりも可愛くて、京子ちゃんなら世界で一番可愛いお嫁さんも夢じゃないとまで思えた(さすがにそれは飛躍しすぎだと思ったけどね)そうだ、きっと京子ちゃんは少女漫画の主人公なのだ。だって、京子ちゃんと綱吉くんが好きあっていて、初めから結果はわかっているのだ。そう考えると、私は現実の世界で少女漫画を読んでいる気分になった。(・・・・どんなに頑張っても私は少女漫画の主人公なんてなれない)
少女漫画みたいな恋について
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(2007・10・03)
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