もう少しで昼休みも終わるという時間に、私は一人で職員室に来ていた。「じゃあ、頼んだからな」そう言われて、私にだけは何故か厳しい数学教師に渡されたのはクラス全員分のノート。これは昨日出された数学の宿題で、不運なことに数学の係りになってしまった私は昼休みと言う大事な時間に呼び出されてこのたくさんのノートを運ばされる事になったのだ(あぁ、なんて最悪な先生なんだ!)クラス全員分のノートは、思ったよりも重くて私の腕はもう既に悲鳴をあげはじめている。












「・・・先生、重いんですけど」







「大丈夫、お前ならやれるさ!」







「(うぜぇぇ!!)」












無駄に爽やかな笑顔で送り出された私は自分の教室まで必死にこの多くのノートを運ぶ。まったく、この学校の先生は一体なんなんだ!シャマル先生と言い、あの先生といい、明らかに教師としておかしい先生ばかりじゃないか。雲雀さんも、生徒を咬み殺す前にこうして職権乱用している先生たちを咬み殺してくれればよいものを!(・・・いや、それはやっぱり良いや)それにりりんも、りりんだ。手伝ってくれても良いものを何だか嫌な予感がするから行かないと言って職員室までついてきてもくれなかった。まぁ、りりんの予感どおり、私は今こうしてたくさんのノートを運んでいるんだけどね!












「(お、重い・・・!)」













あまりの重さにフラリと体が傾くのが分かる。おっと、このままじゃ、このノートすべてを床に落としてしまうではないか!それに今は生徒が活気をみせる昼休みの廊下だ。そんな場所でノートを落としてしまったりしたら、迷惑。そして、私がものすごく恥ずかしい(結局、私は自分の事しか考えていない)そう思いながらも、私はノートの重さに耐え切れず、あぁ、こけてしまう!












「大丈夫か?」












かけられた声とノートと私を支える腕。一瞬、白馬の王子様が現れたかの思った私を誰か殴って欲しい。この人は白馬の王子様でもなんでもない、ただの持田先輩だ。そう、ただの持田先輩。しかしながら、助けられたことは確かなのでお礼は言っておこうと思う。(私って本当に良い子だね!)










「ありがとうございます。持田先輩に助けられたことにはちょっと、アレですが、多分感謝してます」







「・・・・お前、それ助けてもらった奴に言う台詞じゃねぇ」







「いやぁ、相手が持田先輩じゃなかったらもう少し愛想良くするんですけどね!」







「お前なぁ!」










何だかうるさい持田先輩をほっておいて、私は再び重いノートを持って歩き出した。持田先輩とは中学の時から委員会で知り合って、まぁ、なんと言うかできる後輩と出来ない先輩のような仲だ。りりんから言わせれば仲が良く見えるらしいんだけど、私としては一切そういうつもりは無い。クラスメイトよりは仲が良くて、友達よりも仲が良い、親友5歩手前と言ったところだろうか(微妙だ・・・)









「って、無視かよ!」







「もう、持田先輩うるさいですよ」







「ま、そう言うなって。頼りになる先輩が半分持ってやるから」









いつの間にか私の隣まで来ていた持田先輩はそう言うと、私が持っていたノートから本当に半分ピッタリだけとって持ってくれた。本来なら半分でも持ってくれたことに感謝しなければならないと思うんだけど、男の癖に女の私と同じだけしか持ってくれないなんてどうなんだろうと思ってしまった。いやいや、だって、普通女の子が重いもの持ってたら全部持ってくれたりするんじゃないの?あぁ、これだから持田先輩はモテないんだよ!!(・・・それは私も同じか)










「で、これどこまで持っていけば良いんだ?」







「教室の手前まででよろしくお願いします」







「なんで教室手前なんだよ?教室にこれもっていくんじゃないのか?」







「だって、教室まで持ってきてもらって変な噂がたったら嫌じゃないですか。それも持田先輩と







「お前なぁ・・・」










持田先輩に教室までノートを持ってきてもらったら絶対、クラスの女子に色々、持田先輩との関係に聞かれるに決まっているんだ。それに、違うと言っても恋愛話好きな女子に信じてもらえるはずが無い。りりんはりりんで面白がって、高みの見物とか言い出して助けてくれるとも思えないし、そうなったら私が持田先輩なんかの付き合っていると勘違いされてしまう。そんな事勘違いされたら、私もう学校にこれない・・・・!!好きな人なんていないけど、相手が持田先輩と言うのが納得できない。いや、まぁ、相手が違ったとしても噂されるのはマジ勘弁って感じなんだけどね。












「私、持田先輩と噂されるくらいなら死にますもん」







「おいおい、実は嬉しいんだろ?もう少し素直になろうぜ!」







(うぜぇぇぇ!!)・・・持田先輩いい加減な事言ってると怒りますよ?」







「そ、そんなマジで怒るなよ!冗談に決まってるだろ!!」












私がニッコリと言えば焦ったかのように持田先輩は言った。本当にこの人、先輩かよ。まぁ、年齢的には年上なんだから落ち着こう私、とほぼ無理やりに自分を落ち着かせる。それにしてももう少し素直になれなんて私には無理な話だよ(私が素直なんて気持ちが悪い!)あぁ、素直と言えば、京子ちゃんのような女のこのことを言うんだろう。うんうん、京子ちゃんは素直で可愛くて本当に理想な女の子だと考えていれば、私はあることを思い出した。そう言えば、持田先輩は中学の時、お得意の勘違いで京子ちゃんに言い寄っていた。もしも教室まで運んでもらったら持田先輩と京子ちゃんが会ってしまうじゃないか!きょ、京子ちゃんが危ない!(私は一体先輩のことを何だと思っているんだろう・・・)










「・・・絶対、教室手前でよろしくおねがいしますね!」







「そんなに言うほど、俺と噂されるのが嫌なのかよ?」







「まぁ、それもそれでカナリ嫌なんですけど」







「(酷ぇぇ!)」







「私、京子ちゃんと一緒なんですよ。クラスが!」







「は・・・?」







「持田先輩、京子ちゃんと会ったら持田先輩の持ち前の勘違いで京子ちゃんが危ないじゃないですか!」







「・・・お前、いつの話してんだよ」







「中学のときですかね?」







「今は京子のことなんて何とも思ってねぇよ・・・そう言えば、そんな時期もあったなぁ」










まるで思い出を楽しむかのように言う持田先輩。(軽々しく京子ちゃんのこと京子なんて言うな!)私もその時のことを思い出してみる。確かあの時は、持田先輩と知り合って間もない頃だった。結構その頃から仲は良かったけど、それでも並中のアイドルである京子ちゃんに近付いていく姿はあまりに浅はかで見ている限り不愉快だった。別に持田先輩が好きだから不愉快だったと言うわけではなく、京子ちゃんの気持ちを無視するかのような持田先輩の態度が気に食わなかったのだ。だから、あの時、名前は知らなかったけど沢田くんには深くお礼を言いたいような気持ちになったのだ。この馬鹿を京子ちゃんのような女の子の周りから排除してくれてありがとうと、本気で思った。














「ついでに言うと沢田くんも同じクラスですよ」







「べ、別に俺は恐くなんか無いぜ!」







「(あぁ、恐いんだ)」














あの剣道場での対決で持田先輩は沢田くんから髪の毛を抜かれ、その後いっときの間はハゲだった。ハゲだなんて悪口では言えるけど、実際本人がハゲだったりすると言えなくなる。(なんだか申し訳ない気持ちになってしまうから)あの後、私は初めて沢田くんが沢田綱吉だと言う名前だと言う事を知って、・・・そう言えば、名前で呼んでって言われたんだよね。なんて呼べば良いんだろうか。ツナくん?綱吉くん?ここはいっそのこと呼び捨てで、ってそれはさすがに出来ない。そもそも、名前で呼ぶなんて私にとっては恥ずかしすぎるのだけど(だけど、あの時の空気じゃ言い出せなかった)












、もうすぐ2年の教室だけど」







「あ、じゃあここまでで良いです。ありがとうございました」







「おぅ!!また何かあったら言えよ!」












何だかんだ言いつつ、持田先輩は良い人なのかもしれない。まぁ、半分しか持ってくれなかったにしても大分助かったのは事実だ。そんな風に思いながら持田先輩の背中を見送り、さっきより重くなった荷物を運ぶ。教室まではあと少し。頑張れ、私!と自分で自分を励まし(悲しいね!)一歩を踏み出した。
未だ違和感の残るその声で呼ばれ、振り返ればそこには沢田くんが立っていた。













名前も知らなかった君について




















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(2007・09・27)