野球ボールが肩に
クリーンヒット★すると言う最悪な日の次の日、私はまだ誰もいない通学路を一人で歩いて学校へと向っていた(なんだか、寂しいね!)しかし、これには訳があるんだよ、訳が。私は基本的に宿題を出されたら、その日の放課後して帰ると言う素晴らしくて偉い習慣がある。まぁ、ただ家では集中して出来ないから学校でして帰るだけなんだけどね。だけど、昨日はなんと沢田くんが送ってくれて学校に残って宿題なんて出来やしなかった。だから、と言うわけではないんだけど朝、学校でしようと思い、こうして一人で学校へと向っているわけだ。それも出された宿題と言うのは数学で、もしも宿題を出さなかったりしたらまたあの先生にパシられてしまう!(あの先生、私にだけは厳しいんだよ!職権乱用だ!)












「(絶対あの先生覚えてろよ!)」












心の中で数学の先生に悪態をつきながら学校に着けば、たまには朝早くに学校に来るのも良いかも知れないと思わず思ってしまった。だって、いつもなら校門には学ランを着た強面の風紀委員がいたりするんだけど、朝早い為か校門には誰一人いなかった(昨日とは違って、ラッキーだよ!!)ふふん、と思わず歌いだしそうになるのをこらえながら下足箱で自分の上靴を取り出す。バタンと音を立ててそれを床に落とせば、誰かにいきなり声をかけられた。
さん?」その場に私しかいないと思ってた私は、その声に思わず肩がビクリと揺れた。












「さ、沢田くん」





「あ、ごめん、ビックリさせちゃった」





「いや、少しだけ驚いただけだから(本当はかなり驚いたけどね)」





「そっか。さんおはよう」





「うん、おはよう」











誰だって誰もいないと思っていた場所でいきなり声をかけられたらビックリするだろう。それも学校なんて、恐いじゃん。私だってこれでも女の子だから幽霊なんて恐くてたまらないんだよ?(恐いビデオは見るけどね!!この前見た、ホラー映画はかなり怖かったよ。やっぱり日本のホラー映画は恐いね!)だけど、そんな事、沢田くんに言えるわけがないじゃない。もしもね、これが仮に山本だったりしたら、ちょっと殴ったりしてたかもしれないけどね(沢田くんはただのクラスメイト、山本は友達。この違いは大きい)沢田くんは自分の下足箱から上靴を取り出し、靴を履き替える。私もそれを見てハッと我に返って靴を履き替えた。












「それしても、さん朝早いね。いつもこんなに早いの?」





「ううん。今日は昨日の数学の宿題をしようと思って」





「あ、そうなんだ。・・・・肩、大丈夫?」













二人でまだ誰もいない廊下を教室に向って歩く。(いや、だって沢田くん私が靴履き替えるのを待っててくれてたんだよ!優しいね!!一人で廊下を歩くのは結構勇気がいるからね!)心配そうな顔でこちらを見る沢田くんは、まるで子犬だ。雨に濡れた、子犬。今にもクーンと鳴き出しそうな感じで、そして、私はそんな子犬にとことん弱い。そうだよ、雨の日にダンボールに入っている犬がいたら迷わず家にもって帰って、お母さんに怒られるのは誰でもない私だ。












「全然、大丈夫だから!!ほら、ね」












ブンブンと効果音がつきそうなぐらいの勢いで肩をまわす。途中、少しだけ痛くて思わず顔をゆがめてしまいそうになったけど、沢田くんに心配させるわけにはいかなかったから必死で我慢した。さん!もう分かったから!!」沢田くんが少しだけ、焦ったような顔で私を制する。正直、助かった。これ以上、肩をまわしてたら私、痛みで死んでたかもしれない(いや、それは大げさだけど)私が肩をまわすのをやめれば、沢田くんはハァと安心したように息を吐いた。













「ところで、沢田くんはどうしてこんなに朝早いの?いつもは遅刻してるよね?」





「言っておくけど、いつも遅刻してるわけじゃないから!」





「(・・・からかいがいがあるなぁ)嘘だよ、嘘。それで、どうして今日は早いの?」





「えっと、さんと同じで数学の宿題しようと思って・・・」





「沢田くんって意外と偉いんだね」








「意外とはいらないから!!」










あまりに必死な様子の沢田くんに私は思わず笑ってしまった。なんだ、沢田くんって私が思っていたよりも楽しい人かもしれない。これだけ仲が良くなったのにまだただのクラスメイト?それとも友達?そんな疑問が私の頭の中にふとうかんだ。もちろん、その中に好きな人なんて選択肢は無い。友達の好きな人に横恋慕するほど私は度胸は無いんだよ(横恋慕って古くない?)そう思っているといつの間にか、私達は教室についていた。もちろん、ドアを開けても誰もいるわけが無い。










「・・・さん」





「なんだい、沢田くん?」





「数学の宿題一緒にしてもらっても良いかな。俺分かんないところありそうだし・・・」





「あ、うん。良いよ。一緒にしよ!!」








沢田くんからの提案をに私は喜んで頷いた。だって、沢田くんと話すのは楽しいし(それは友達としてだけど)それに、こんな誰もいない教室に2人離れたところに座って黙々と数学の宿題をするなんて何だか悲しい気がする。それなら、2人でした方が全然私も嬉しい!私は自分の机に鞄を置いて、その中から数学のノートと、教科書を取り出して、この前と同じように沢田くんの前に座った。本当は隣に座ろうかとも思い、迷ったりしたんだけど、沢田くんの隣は京子ちゃんの指定席のような気がして座れなかった。









「じゃあ、沢田くん、分からないところあったどんどん聞いてね!」






「・・・最初から俺にわからないところがあるって前提?」





「えっ、いや、そんな事無いよ。うん、そうだ、そ、そ、そんなこと思ってなんかないからね!」








さん、どもりすぎだから」








「ご、ごめん」





「ううん。俺多分・・・って言うか絶対わかんないところがあると思うからよろしくね」





「うん!」








沢田くんは失礼な事を考えていた私に優しく言い放った。本当にこの子、怒ったりすることあるんだろうか!(私は一度もそんなところ見た事が無いけど)私は体を前に向けて、黙々と宿題をこなしていく。大分多いかと思っていた宿題もやってみるとそこまで多くなくて、意外と早く終わってしまった。










「(・・・・暇だ)」









もう一度だけ見直しをしてもまだまだ時間はここについてから全然経っていない。その証拠にいまだ私と沢田くん以外の生徒は来ていないし、来る気配も見られない。もしかしたら、この学校には私と沢田くんだけしかいないんじゃないかと思えるくらい、静かだった(沢田くんは終わったのかな・・・?)暇になった私は、椅子を動かし後ろを向いた。沢田くんは未だ、半分も終わっていない様子で必死に数学と戦っているように見えた。








さん、もう終わったの?!」





「うん。意外と簡単だったから」




「・・・・もし良かった教えてください」





「了解しました」







この前のように、沢田くんと向き合い、なるべく分かるように解説していく。この前はもうこんなことしないだろうと思っていたのに、今私は現に沢田くんに数学を教えている。そして、沢田くんはこの前と同じように頷きながら、私の説明を必死に聞いてくれている(何だか嬉しいんだけど)






ガラッと前のドアが開く音がすれば、そこには朝から爽やかな山本が少しだけ驚いた様子で立っていた。












「お、2人とも早ぇじゃねぇか!!」





「や、山本?!」





「・・・・山本も十分早いと思うんだけど」





「あはは、今日、朝練あるかと思ったら実は無かったんだよな!!」




「(・・・馬鹿だ)」











山本のあまりの馬鹿さ加減に呆れていると、自分の荷物を席に置いた山本が私と沢田くんの方へと寄って来た。そしてあろうことかコイツは沢田くんの隣の席の、京子ちゃんの席に腰をおろした(あぁ、そこは京子ちゃんの指定席なのに!)だけど、山本に沢田くんの隣は良く似合った。別に変な意味ではなくて、沢田くんの隣は京子ちゃんだけでなくても山本も似合うのだ。多分、獄寺くんでも違和感は無いんだろう。(沢田くんの隣が似合わないのは私だけなのか・・・)











「2人とも何やってんだ?」





「数学の宿題」





「偶然、朝早く来たらさんと会って教えてもらってたんだ」





「へぇ、そうなのか!」












パッとまるで花が咲いたかのように笑顔を山本はうかべた。ところで山本は数学の宿題をやっているのだろうか。こいつのことだからやっていないと思うんだけど。だって、授業中は睡眠時間だと思っているような先生からしたら最悪な生徒だよ?(それでも先生受けは良いからムカつく・・・!!)そんな山本が数学の宿題をやってきてるなんて到底思えないんだけど。








「そっか、コイツ教えるの上手いからな!!」





「・・・山本もさんに教えてもらってことあるの?」





「あぁ、あるぜ!な、!!」





「あ、うん」










山本は教えたらすぐできるようになる。それも教えた本人よりもできるようになってしまうから厄介だ。そのせいで私が何回、悔しい思いをしたことか!!クソッ、思い出すだけで腹立たしい!!









「山本ってさんのこと名前で呼ぶくらい仲が良かったんだ」











「まぁ、小学校の時からの付き合いだしな!」





「あんたが勝手に呼んでるだけでしょ」




「まぁまぁ、友達なんだから別に良いだろ?」





「ねぇ、さん」








山本と軽く言い合っていると、沢田くんが今まで下げていた顔を上げて私の名前を呼んだ。その声に反応して、沢田くんの方と見れば、沢田くんはゆっくりと微笑んだ。(りりん、やっぱり沢田くんはかっこ良いんだよ!)












「俺もさんのこと名前で呼んでも良いかな?」











「は・・・?」





「そうだ。俺のことも名前で呼んで良いよ。俺のこと名字で呼ぶのさんくらいだし」





「確かにそれもそうだな。みんなツナの事はツナってよぶしな!!」











いやいや、そんな問題じゃないですよ、山本くん?だって名前で呼ぶって私のなかでは結構なことなんだけど。それに、名前で呼びあいだしたら、もうただのクラスメイトなんていえるはずもないじゃないか。さて、どうしたものだろう?断るのも何だか失礼で出来ないし、だけど名前で呼ぶなんてそんなたいそれた事したら獄寺くんに怒られてしまうんじゃないの?だけど、目の前の微笑む沢田くんを見ていればやっぱり断るなんてできるはずもない、私は頷く事しか出来なかった。














「よろしくね、














初めて呼ばれた名前に少しだけ、ドキンとした。そりゃ、この年になったらしたの異性にしたの名前でよばれることなんてほとんどないから仕方がないかもしれない。そう思うと、私この年で未だに彼氏ができたことないってどうなんだろうと少しだけ自己嫌悪した。今頃彼氏がいたら、たかが名前で呼ばれたくらいでドキンとすることなんて無かったと思うのに。それとも沢田くんから名前で呼ばれたことにドキンとしたのだろうか。いやそれはあってはならない事だ。だって、沢田くんと私はただのクラスメイトから仲の良い友達になったことだけのことなんだから。













名前で呼び合う仲について
























Next



(2007・09・23)