保健室の前に来ると、まだ授業中のためか廊下は静かだった。とりあえず、ドアを開ければ私の目の前に・・・・顔?いやいや、なんで保健室をあけた瞬間顔があるんだと思っても、目の前にあるのは確かにシャマル先生の顔だった。












「かわいい女の子いらっしゃーい!!」




「ギャッ!!」











ガンッ











咄嗟に開けたばかりのドアを閉めて、私は深呼吸をする。ドアの向こうから大きな音がしたから、多分私のしめたドアでシャマル先生は顔をぶつけたんだろう。でも、普通生徒に向ってあんな堂々とセクハラしようとする先生なんていないだろ!そうだ、今のは不可抗力なんだ。私は悪くない、私は悪くない。もしも、このままシャマル先生がドアをあけて息をしていなかったとしても私は何も悪いことはしてないんだと自分に言い聞かせていれば、廊下の向こうから足音が聞こえてきた。歩いているにしては、早くこちらに向ってきている気がするけど(もしかして既に警察が・・・?!って、それはないだろ自分














さん?!」







「あ、沢田くん。どうして、ここに?」






「・・・保健室に危ない奴がいることを思い出して」












沢田くんの言葉にあぁ、と納得してしまった(ごめんね、シャマル先生!!)だけどそれだけのために、ここまで来てくれるなんてどんだけ優しい子なんだ沢田くんは。そう思いながら、意を決して保健室のドアに再び手を伸ばす。もしもシャマル先生が死んでたら沢田くんには見なかったことにしてもらって、シャマル先生がまたセクハラしようとしたら沢田くんに助けてもらおう。そうだそうしようと思った瞬間、私がドアに触れる前に、目の前のドアは開いた。思わずビックリして肩が震えた。













ちゃん、流石に酷いぜぇ。おじさんの綺麗な顔に傷がついちゃったじゃねぇか」







「いや、誰だって目の前にシャマル先生の顔があればドア閉めちゃいますよ」






「ずいぶん、きっつい事言ってくれるねぇ〜。って、おや、ボンゴレじゃないか。お前何してんだ?」







さんの付き添いだけど、「そっか。それは良かった。本当は俺が見てやりたいところなんだがな、呼び出しくらってよ。ボンゴレ悪いがちゃん治療してやってくれ」






「え、あ、ちょっと、ドクターシャマルー?!」






「じゃあ、任せたぜ!」






「任せたぜじゃないんですけど、先生ー?!仕事しろよ!!」









「悪いがこっちも仕事なんだ」
















それだけを言い残すとシャマル先生はこちらに背中を向け歩き出した。本当にあの先生は保険医としての仕事をしっかりしているんだろうか。給料泥棒って奴じゃないのかな・・・。って、シャマル先生、沢田くんのこと「ボンゴレ」って言ってたけど一体何なんだろう?沢田くんって意外とニックネーム沢山あるんだなぁ。どれも意味は分からないものばかりだけど。獄寺くんの10代目と同じくらい意味が分からない。












「・・・さん、とりあえず保健室入ろっか」








「うん」











なんだか困ったような笑いを浮かべた沢田くんに言われ保健室に入れば、保健室独特の消毒液の匂いがした。だけど、どこに湿布なんかあるんだろう。私、シャマル先生とは結構仲は良い方だけど保健室なんて滅多に使わないからどこに何があるかなんて知らないよと思っていれば、沢田くんがどこから捜してきたのか既に湿布を持っていた。なんで、場所を知ってるんだろう。まぁ、そこは気にしない事にした。だって、気にしだしたら止まらなくなっちゃうしね!!それに沢田くんもシャマル先生と仲が良さそうに見えたから、もしかしたらよく保健室に来るのかもしれないし。














さん、そこの椅子に座りなよ」




「う、うん」












私は沢田くんに言われ、すぐ傍の椅子に腰を下ろして、体操服の袖をまくった。見事にそこは痣になっていて、女の子としてはアウトな傷だ(かるくショック!)これでお嫁にいけなくなったらどうしよう・・・普通ならこういう時、怪我を負わした人が「俺が責任をとって結婚してやるぜ!」とかドラマじゃ言ってくれるんだろうけどね。相手は沢田くんだし、沢田くんには京子ちゃんがいるし。私、結婚できなかったらどうすればよいんだろう・・・・!!いやいや、まだ諦めるのは早いよ。と頭を振って最悪な未来予想を吹き飛ばした。













「はい、湿布」




「ありがとう、沢田くん」










受け取った湿布を痣のところに貼れば、冷たさが一気に体を突き抜けた。これは冷たすぎる・・・!!だけど、そこはガマンしなくてはと思い私ははぁと息を吐いた。湿布を貼っただけでは取れちゃうのではないかと思っていれば、目のまには丁度良いぐらいに切られたテープ。本当、沢田くんって保健室に何がどこにあるか知り尽くしてるんだなぁと思いながら、お礼を言ってそれを受け取って、私はしっかりと貼り付けた。














「ごめん、すっごい痣になってたよ・・ね」





「大丈夫、大丈夫!!このぐらいすぐに治るから。それにこれは場外ホームラン記念ってことで」





「いやいや、そんな記念いらないし!それに、」





「それに?」






さん、女の子だし傷とか・・・」












まるで先ほどの私の考えを見透かしたかのような答えだ。だけど、君と私はただのクラスメイトなんだから、そんな事気にしなくても良いのに。もしも、もしもこれが山本だったりしたら責任とってくれるの?なんて聞いたりもしたかもしれないけど(冗談に決まってるが)さすがに沢田くんにはそんなこと、言えない。京子ちゃんに悪いし、ただのクラスメイトだし冗談でも言えるわけが無いんだ。それにしてもそこまで気にしてくれるなんて沢田くんは人が良すぎるよ。でも、責任もとれないのに軽率な発言はやめて欲しい。仮にその一言で私が沢田くんに恋をしたとしても、君は私の気持ちにはこたえられないのだから。(まぁ、すべては仮の話なのだけど)














「傷なんてこのぐらいじゃ残らないよ!(本当は私は医者じゃないからそんな事分からないけど)」





「・・・・」






「ほらほら、もう手当ても終わったし教室に戻ろう?」








「う、うん」












本当そこまで気にする事ないよ、沢田くん。私って本当に丈夫なんだよ?小さい頃は怪我なんて日常茶飯事だったし。そう思いながら、沢田くんに別れを告げて女子更衣室へと向った。そこは既にみんな着替え終わった後で誰一人いなかった。どうやら自分が思っていた以上に長い時間保健室へといたらしい。そこまで長い時間いた気はしないんだけど、それは多分沢田くんと一緒にいる空気が心地よかったんだろう。だから時間が経ったのも気にならないぐらいだったのか。なんて自己解決しながら一人女子更衣室で着替える。今頃、沢田くんも男子更衣室で着替えてるんだろうか・・・













「(いや、だけど沢田くんには山本も獄寺くんもいる)」












2人の事だから更衣室で沢田くんを待っていたかもしれない。特に獄寺くんは沢田くんにゾッコンだからその可能性は高まる。もし、男子更衣室にいなかったとしても教室では確実に待っているだろう。もし私の方が沢田くんよりも早く着替え終わって、2人の待つ教室へ行くのは何だか気まずい。よし、ゆっくり着替える事にしよう!!え、私の友達であるりりんはって?なんと酷い事に、もう先にかえたって言うメールが携帯の方に届いてたよ。まぁ、別にいつもの事だから気にしないけどね!!





























着替え終わり、そろそろ3人とも帰っただろうと思いながら私は女子更衣室を出た。学校の外からは既に部活動の声も聞こえてきていて、その中に野球部の声も聞こえてきた。あの中に山本はいるんだろうか。それなら待っているのは獄寺くんだけだったかもしれない。それはそれで、ゆっくりと着替えて良かったと思った。だって、獄寺くんなんてほとんど話したことないし、その中で2人きりは気まずい。教室について、気分揚々とドアを開ければ、そこには誰もいないと思ったのに、制服に着替えた沢田くんが自分の席に座っていた。それも獄寺くんも山本もいない。
彼、一人だ。













「さ、沢田くん?」






「え、えっと、さんが良ければで良いんだけど送って行こうと思って」





「はっ?」






「その肩じゃ、荷物持つの辛そうだし、俺送っていくよ」





「えぇっ?!そんな悪いから良いよ!!」










確かに、この学校のカバンは肩掛けだから正直助かると言ったら助かるけど、別に反対側の肩にかければすむ話だし、荷物を持たせるなんてそんなことできるわけがない。それもあんなにゆっくりと着替えて来たのに待っていてくれるなんて沢田くんはなんて優しい人なんだ!!でも、荷物を持たせるなんて魔性の女みたいで私には出来ないよ!












「俺がそうしたいからじゃ、駄目かな?」





「・・・」












こんなこと言われたら、もう断れるわけがないじゃないか。本当に良い人すぎるよ沢田くん。だけど、2人きりで帰ったりして、噂にでもなったりしたらどう京子ちゃんに言えばよいんだよ。あ、だけどこれはまだ私の勘であって、沢田くんと京子ちゃんは付き合っているというわけではない。そうだと分かっていても、何だか気がひけるのは2人がその内付き合いだすと私が思っているからなのか。
























2人で初めて歩く帰り道。何とか、会話も弾み、荷物も沢田くんが持ってくれて実はとても助かってたりする。私の家が目の前にせまり、私は沢田くんと向かい合った。学校から私の家までの距離(そこまで遠くは無いけど)鞄を2つ、私との自分のをもって重たかったと思うのに沢田くんは一瞬たりともそんな顔は見せなかった。なんだかボールが当たったのが私で申し訳ない気持ちにまでなった。












「沢田くん、家ここだから。本当にありがとう」





「俺のほうこそごめん。明日まだ痛かったら遠慮しないで言ってね」









「うん、分かった。じゃあ、また明日」













ニッコリと微笑みながら言えば、沢田くんも
「また明日」って笑顔で言ってくれた。沢田くんは今来た道を戻っていく。沢田くんの家がどこにあるかは知らないけど、どうか遠く無ければよいと思った。別に私が沢田くんと家が近かったらよかったのになんて淡い期待をしているわけじゃなくて、今から帰る沢田くんが少しでも早く自分の家について休めれば良いと思ったから。きっと、彼も体育があったから疲れているはずだろう。











駄目じゃない君について


















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(2007・09・17)