何を言って良いのかも分からず、私は何もできなかった。先ほどの言葉にまた、逃げ出したいと思っている「」と綱吉くんに名前を呼ばれてハッと、綱吉くんの顔を見た。その瞬間に蘇ってくる言葉は先ほど綱吉くんに言われた言葉「そんなの嫌だ。聞かなかったことに出来るわけが無いよ」と。何が嫌なのか私には分からない。だけど、私はここにいたくなくて、笑顔をつくると、強くなると決めたばかりなのに、私の足はまた綱吉くんから逃げようと動こうとしていた(逃げちゃ駄目なのに、)でも、私は綱吉くんから逃げる事は叶わなかった。
「に、逃げないでよ、」
両腕を綱吉くんに掴まれる。それに、綱吉くんの声色があまりに必死で、私は逃げたくても逃げれなくなってしまった。少しだけ強く掴まれる両腕が痛い。そして、その腕を掴む力の強さに綱吉くんはやっぱり男の子なんだと実感した。目の前の綱吉くんが、先ほどよりも近くにいて高鳴る鼓動に、否応なしにどれだけ自分が綱吉くんを好きなのか自覚をせざるをえない。遠いと思っていた恋が、今近くにある。叶わない恋ではあるだけど、それは確かにここにあるのだ。
私の腕を掴む綱吉くんの腕が、また少し力が入る。その手は僅かに震えているような気がした。
「・・・・・・綱吉くん、逃げないから、もう少し力抜いてもらえないか、な」
「あっ、ご、ごめん!本当、ごめん!」
「う、うん。逃げようした、私が悪いんだよ」
そう、逃げないと決めたのに、逃げようとして、強くなりたいと思ったのに、弱い、私が悪い。私が言えば、綱吉くんが私の腕を掴む力は弱くなっていた。でも、離してはくれないらしく、綱吉くんは私の腕を掴んだままだった。また、沈黙が二人の間に訪れる。「俺、」だけど、その沈黙を破るような綱吉くんが、言葉を発する。その一言だけで、私はとても緊張した。今から何を言われるんだろう、と。綱吉くんがどんな言葉を紡ぐのだろう、と。できれば、嫌い、と言う一言じゃなければ良い。その一言だけは、どんな言葉よりも聞きたくは無いから。
「俺、のことが好きなん、だ」
「・・・・・は?」
綱吉くんの言葉に思わず私の口から出た声はとても、女の子とは思えないような声だった(またかよ!)・・・・・・って、誰が誰を好き、なんだ?綱吉くんが、私のことを好き?いやいや、そんな、聞き間違いだよ。聞き間違いと思いながら怪訝そうに綱吉くんの顔を見れば、綱吉くんはゆっくりと笑いながらもう一度「が、好きなんだ」と発した。どうやら、私の聞き間違いではないらしい。私はその言葉に、顔が一気に赤くなるのを感じた。好き、と言う言葉を綱吉くんから言われたことに、私は心が、高まった。でも、落ち着いて、よく考えてみる。だけど、綱吉くんは京子ちゃんのことが好きなんでしょ?じゃあ、この言葉はきっと、友達として好きなんだろう。そう思うと、その好きと言う言葉が、一気に悲しい言葉へと変わってしまったような気がした。
一瞬だけでも、心が高まってしまった自分が憎らしい
そうだよ、私と、綱吉くんの好きが一緒なわけがない。綱吉くんの好きは、友達として好き(それは、確かに嬉しい、けど)私の好きは綱吉くんとは違う。異性として、男の子として好きなんだ。心が冷めていくような気がして、だけど、友達として好きでも良いじゃないか、と自分に言い聞かせた。あんな告白してでも、友達として綱吉くんはいてくれるんだ。それは、自分が一番望んでいたものじゃないか。綱吉くんと友達でいたい。私の望みは、それだったじゃない。
「?」
零れる涙は意図的なものではなかった。いつの間にか、ホロリ、ホロリ、と零れてくる涙は、私の頬を伝って、私の腕を掴んでいた綱吉くんの腕へと落ちていった。綱吉くんの制服に出来ていくしみは、紛れもなく、空から降ってきた雨なんかじゃなくて(空は、雲が少しあるだけで、とても晴れていた)、私の涙だった。本当は、本当は、綱吉くんに私と同じ好きで、好き、と言う言葉を紡いで欲しかった。友達としての好きだなんて、聞きたくはなかったん、だ「ご、ごめんね」謝っても、涙が止まるわけでもなく、私の涙はどんどん、綱吉くんの制服を濡らしていった。笑顔なんて、できてないじゃない。逆に泣いて、綱吉くんを困らせてるじゃない。
でも、涙は一向にとまる気配をみせなかった。止めようとしても、涙は止め処なく溢れてくる。
「・・・・・・・ねぇ、。言っておくけど、俺はのこと友達としてじゃなくて、女の子として好きなんだから、ね」
綱吉くんの言葉に私は思わず下げていた頭をあげた。今、綱吉くんは何て言った?もしかしなくても私のことを女の子として好き、と言った?それはつまり、私が綱吉くんが好きだと言う意味と同じような意味としてとらえても良いんだろうか(いや、だけどそんな事あるわけがない)でも、女の子として好きということは、私と同じ好きだと、言う事じゃないの?まっすぐに、驚いた顔で綱吉くんを見つめていれば、綱吉くんはゆっくりといつもの優しい微笑をうかべていた。
「そ、そんな、ことあるわけ、」
「あるよ。嘘じゃない。」
「だって、綱吉くんは、」
と言おうとして言葉がつまった。綱吉くんがこんな嘘をつくような人じゃないってことは、分かっている。でも、綱吉くんが京子ちゃんのことが好きだいうことも分かっている「京子ちゃんのことが好きなんじゃないの?」その言葉に、目の前の綱吉くんは目を見開いて驚いているようだった(なんで、そこで驚くの・・・・?何か、私が間違った事を言ってしまったみたいじゃないか)流れていた涙は、止まっていて、私もどうして良いか分からずに、呆然としている綱吉くんを見つめた。
「まさか、そんな勘違いされてたなんて、」
「つ、綱吉くん?」
「結構分かりやすかったと思ってたのに・・・・・」
「えっ、ちょ」
項垂れる綱吉くんに何故か焦る私(いや、だって急に項垂られたら誰だって焦るものでしょ?!)ど、どうにかしたものか、と思うけれど、手は綱吉くんに掴まれているから動かす事も出来ないし、何かを言おうと思っても何を言って良いかも分からない「山本とか、獄寺くんにもすぐバレちゃったのに、」と、呟く綱吉くん・・・・・・・・いや、本当これってどうすれば良いの?あぁ、もう本当に意味が分からないんだけど!私が、綱吉くんに嫌われてはいない、と言う事は分かった。でも、この今の状態は訳が分からない。何か綱吉くんはボソボソと呟いているみたいだし、私は一体どうすれば良いんだよ!
「あの、えっと、」
「・・・・・・・・、今から俺が言う事しっかり聞いてね」
バッと下げていた顔をあげて、こちらを見る綱吉くん。その瞳は、とても真っ直ぐに私と瞳を見ていた。私は目を逸らすこともできずに、綱吉くんの瞳を見つめ返していた。
「俺は確かに、京子ちゃんが好きな時もあった」
綱吉くんの言葉にズキンと心が痛む。これは、分かっていたことじゃないか。綱吉くんが京子ちゃんのことを好きだった事なんて。中学一年の持田先輩との決闘だって、私は自分の目で見た。あの時、綱吉くんは京子ちゃんの為に、持田先輩と戦ったはずだ。そんなこと、分かりきっていたことだ・・・・・・えっ、でも、ちょっと、待ってよ。何で、綱吉くんが今言った言葉は「あった」と言う、過去形なの?普通は、そんな言い方しないに決まっているのに。
「だけど、今はのことが好きなんだ。京子ちゃんでもなく、他のどの女の子でもなくて、俺はが好き」
「つなよ、し、くん」
「は、俺のことどう思ってくれてるのか、な?」
さっきの言葉が俺の聞き違いじゃないと良いんだけど、と笑う綱吉くんに私の瞳からはまたホロリと涙が零れた。まさか、本当に綱吉くんが私と同じ気持ちだったなんてそんな事あるわけがないと思っていた。この恋は、きっと届かないものだと思っていた。だけど、私が綱吉くんが好きなように、綱吉くんも私を好きでいてくれて、その気持ちは友達としての気持ちではなくて、綱吉くんの好きという気持ちは、私がずっと心のそこで望んでいたものだった。
「私も、綱吉くんが好き。誰よりも、好きだよ」
こんなはっきりと綱吉くんに自分の気持ちが伝えられるなんて思いもしなかった。ずっと、この思いは自分の中で閉じ込めておかなければいけなかいと思っていたもので、さっきだって思わず言ってしまわなければ綱吉くんに、好き、だなんて一生言うことは無かったに決まっている。私の言葉に目の前の綱吉くんは、少しだけ恥ずかしそうに笑うと私の腕を引っぱって自分の腕の中に閉じ込めた(は、恥ずかしいんですけど・・・・・・!)「やっと、捕まえた」耳元で聞こえてきた綱吉くんの声。とても、優しい声に、私はまた涙がでそうになった。確かに、持田先輩の言うようにたまには捕まってみるのも良いのかもしれない、と思えた。
君への想いについて
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(2008・02・02)
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