私は綱吉くんから逃げるように屋上をでた。













一刻も早く家に帰る為に教室に戻って荷物を取りに行こうと思い走っていれば、目の前に獄寺くんの姿を見つけた。その姿に私の足は思わず止める。このまま、教室に行くには獄寺くんとすれ違わなければならない。獄寺くんはさっき、私が綱吉くんに連れて行かれていくところを見たからもしかしたら何か聞かれてしまうかもしれない。
その時、私は何て答えればよいの?私は、もう綱吉くんに迷惑をかけてしまった。それは、獄寺くんとの約束を破ったようなもの。心配をさせるのも、迷惑をかけるも、対して差はないに決まっている。















?」
















私に気付いた獄寺くんが、私の名前を呼んだ。私は何もいえなくて、だけど、ここにいては駄目だと思えて、「ご、ごめ、」と咄嗟に出た言葉を残して、また踵を返して走り出した。獄寺くんの事だから、綱吉くんに私と会ったことを伝えるかもしれない。それが、恐かった。綱吉くんと、もう友達という関係に戻れないのなら、もう綱吉くんが私の名前を紡ぐのも嫌だった(私は、綱吉くんに名前を呼ばれると心が痛むから)泣くことはしたくない。泣いてしまったら、また目がはれるまで私は泣いてしまう。そんなのは駄目だ。明日も、ちゃんと笑って学校に来ない、と。




息がきれた私は、綱吉くんも獄寺くんも追いかけてくることはないと分かっているのに、近くの教室に逃げ込んだ。はぁ、はぁ、と乱れる息を落ち着かせながら、先ほど綱吉くんに言った言葉を思い出す。今さらだけど、あそこで逃げずに、友達として好き、と言い直せば良かったと後悔した(本当、馬鹿だ私)リボーンくんには、友達として綱吉くんが好きだと伝えられたのに、本人には伝えられないなんて。確かにあの時とは、私の気持ちは大きく変化した。綱吉くんのことは友達として好きなわけじゃなくて、異性として好きになった。だけど、私はあそこで友達として好きなんだ、と伝えなければならなかったんだ。

















友達という関係に戻る為にも、













なんて、今さら後悔してもすべてが遅い。きっと、綱吉くんは私の本当の気持ちに気付いてしまったはずだ。なんで、あそこで逃げたんだよ、私は!!綱吉くんの言葉に動揺してしまった自分も憎い。それに、綱吉くんも綱吉くんだ。私が綱吉くんを嫌いなわけが無い。なのに、なのに、酷いよ(嫌いと思わせるような行動をしたのは、私だけど、)あぁ、本当は私は綱吉くんに気付いて欲しかったのかもしれない。本当は、綱吉くんのことが好きだ、と。そう思うと、笑いがこみあげそうになった。気付いて欲しくないと思っていたのは、自分なのに。今は気付いてもらえて、少し胸のつっかえが取れたような気分だ。












ガラッ











ドアの開く音が聞こえて、私の体に力が入る。恐る恐る開いたドアの方を見てみれば、そこには持田先輩がいた(本当、間の悪い先輩だよね!)











じゃん。こんなところで、お前何してんだよ」







「・・・・・・鬼、ごっこです」












自分でも言ったあと後悔した。鬼ごっこって!高校2年生で放課後に鬼ごっこなんてあんまりしないよ!その言葉に「あぁ、確かに鬼ごっこ楽しいもんな〜」とか言っていた。この人が、本当に馬鹿で良かったと思った瞬間だ。まぁ、だけどここは持田先輩の馬鹿さに感謝する事にしよう。この人はこの言い訳でも納得してくれてるみたいだから。







「それで、は逃げてるってわけか?」





「そうですよ。って、なんで持田先輩ごときにそんなことが分かるんですか」




本当、お前俺のこと先輩って思ってないよな。そりゃ、普通鬼がこんな誰もいない教室で隠れたりしねぇだろ」





「あぁ、確かに(持田先輩の癖にそんなことに気付くとは)」




「それに、」












持田先輩からは、なかなか続きの言葉がでてこない。まるで、この前持田先輩と話していたときのようだ。この前も何か言おうとして途中で止めてた。まったく、言おうとしたことを途中でとめるなんて、その先が気になるから止めて欲しい。だけど、私はその先を聞こうとは思わなかった。持田先輩のことだ。どうせ、くだらないことでも言おうとしたのだろうと、思った。














「まぁ、だけど、たまには鬼に捕まってみるのも良いかもしれねぇぞ?」




「はぁ?何言ってるんですか」













訳の分からない持田先輩の言葉。本当にこの先輩、大丈夫だろうか。だって、鬼ごっこをしていると先ほど言ったばかりなのに、鬼に捕まってみるのも良いかもしれないなんて、そんなことあるわけがない。鬼ごっこ、と言う遊びを持田先輩は知らないのか、とさえ思ってしまう。鬼ごっこじゃ、鬼に捕まらないようにする遊びなのに。鬼に捕まってみるのもよいかもしれないなんて、どんなに考えても可笑しい言葉だ。なのに、持田先輩はそんな私の気持ちに気付かずに目の前で笑っている。














「たまには、逃げずに捕まったほうが良いんじゃね?」



「それじゃあ、鬼ごっこにならないじゃないですか」



「まっ、確かにそれもそうだけど、」



「私は、逃げますよ」












だって、そうしないと自分が傷ついてしまうに決まっているから(なんとも、身勝手な理由だ)しかし、私を追いかけてくるものなんてない。私が勝手に綱吉くんから逃げているだけ。綱吉くんは、私を追いかけてはいない。だから、逃げることはないんだよ。持田先輩はそれ以上何も言わず、「じゃ、せいぜい逃げ切れるように頑張れよ」と言った。あぁ、持田先輩は頼りなくて、殴りたくなる先輩だけど、やっぱりどこか良い先輩だとおもいますよ。なんて、持田先輩は私が遊びで鬼ごっこをしていると思っているからこの言葉を言ってくれたんだと思うんだけど。

















「・・・・・だけど、俺は逃げ切れねぇと思うぞ」






「(えぇぇ、今応援してくればばっかじゃないですか!)」













だけど、その後すぐに持田先輩はその言葉をボソリと呟いた。なんか、鬼ごっこにトラウマでもあったのだろうか、と思わず思ってしまうような持田先輩の暗さに私は何もいえなくて、やっぱり頼りないなこの先輩と思った。そんな逃げ切れないのは困る(追ってくる人なんていないのは分かってるけど)逃げないと、私は笑顔をつくれなくなってしまう。少しだけ目の前の暗い持田先輩にイライラを募らせながら、時計を見ればもうあと少しで5時になると言う時間帯だった。









いつもなら、教室にはもう誰もいない時間








放課後に数学の宿題をして帰るとき、この時刻にはほとんどの人たちは教室からいなくなっている。もう、教室に戻ってもきっと大丈夫だろう、と思い私は教室に戻る事にした。いつまでも、持田先輩といるのも無駄だと思うしね(そういえば、持田先輩ってここに何しにきたんだろう・・・・・まぁ、今さら聞くのも面倒くさいし、別に気にしなくて良いか)

















「じゃあ、私そろそろ教室に戻りますね」





「おう」











結局、私は持田先輩がこの教室に何をしに来たのか分からないまま、ドアを開けて、廊下へと出た。放課後の廊下は自分が思っていた以上に静かで、人の気配はまったく感じなかった。今頃、綱吉くんは獄寺くんと、家に帰っているのだろうか。それなら、良いのだけど。教室にいられては、困る。ましてや、京子ちゃんと仲良く話している所なんて見てしまったら、私は泣いてしまうに違いないから、教室には誰もいないで欲しい。






ふと廊下の窓から外を見れば、野球部が練習している姿が目にはいった。山本も今頃あの中で真面目に練習しているんだろう、な。そう思うと同時に山本の昨日の言葉を思い出した。















「・・・・・・お前、あんまり無理すんなよ」












きっと無理はしてない、と言ったら嘘になる。だけど、もう無理をしなくても良くなったのかもしれない。私が一番隠しておきたかったことは一番バレてはいけない人にバレてしまった。一人で歩く、廊下は、まるであの時のようだ。綱吉くんから初めてハルちゃんを紹介された日の、帰り道。少しだけ心細い。寂しい。一人は嫌だ。と思ってしまった、あの帰り道。だけど、今回は誰も助けてくれる人はいない。涙は見せないと決めた。それは、私にとっては無理をしないと、できないことだった(だって、無理をしないと、私は今すぐ泣いてしまい、誰かにすがってしまいそうになってしまうから)



前から聞こえてきた足音に私は足を止めた。その足音は段々と近付いてくる。一瞬、また踵を返して逃げたい気持ちになったけれど、この足音が綱吉くんのわけがない。私はそう思いながら、再び教室に向けて視線を落としたまま歩き出した。大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせる。
ドクン、と鼓動が早くなるのを感じながら、私は早く足音が遠のいていくのを願った。しかし、足音はすぐ近くまで来たと思えば、「」と名前を呼ばれて、顔を上げて、私は、足をとめた。









鬼のいない鬼ごっこについて













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(2008・01・30)