今日は一日、いつも以上に綱吉くんをさけてしまった。話しかけられても、そっけない返事しか返せなくて、自分が嫌でいやで仕方がなかった。優しい綱吉くんに、嫌な思いをさせている思うと胸が痛む。だけど、私は自分がこれ以上傷つくよりも、綱吉くんに嫌な思いをさせることを選んでしまったんだ(最悪だ、)思わずハァと、ため息がでそうになる。だけど、ここはまだ学校。誰にも、私が元気が無い事をバレてしまってはいけない。
「じゃあ、。私、先に帰るからね」
「うん、ばいばい!」
放課後の教室で、人がどんどん減っていく中で、教室から出て行くりりんに声をかける。私も早く帰ろうと思っていたけれど今日は数学の宿題が出されたから教室でするつもりだ(こんな時まで数学の宿題出しやがって・・・・・・!)隣の席ではまだ獄寺くんが携帯を扱っているらしい。本当、獄寺くんが何で頭が良いのか聞きたいぐらいだよ、と思いながら獄寺くんを見ていれば(いや、正しくは睨んでいたんだけど)、獄寺くんが顔を上げてこちらに気付いた。
「なんだ?」
「いやぁ、獄寺くんが教室に残ってるって珍しいなって思って」
教室にはまだ人が残っていると言っても、もう大半の人は部活に行ったり、帰ったりしている。獄寺くんは、学校に意欲の無い人だから放課後になったらすぐ帰るのに、今日はまだ残って携帯を扱っている(私は数学の宿題しようと思ってるのにね!携帯なんか扱って、何様だ!)そんな珍しいことに疑問を持つのは当たり前のことだろう。
「・・・・・10代目がまだ残っていらっしゃるからな」
「あー、なるほ「?」」
私の言葉を遮るなんて一体誰だ!最後まで言わせてよね!なんて思いながら勢いよく後ろを振り返れば綱吉くんが立っていた。あぁ、なんて事だ、と思いながらも私は瞬時に笑顔を作る。隣には獄寺くんがいる。大丈夫、二人きりと言うわけでもない。それに、獄寺くんとの約束を破っては駄目だ。
「どうしたの綱吉くん?」
「、前に数学の宿題は放課後するって言ってたよね?」
「あー、うん」
「今日、数学宿題出されたから、さ。一緒に宿題しない?」
綱吉くんの言葉に私はずっと前に言った一言にとても後悔した「俺、今日宿題出されたところで分からないところあってさ」それに、なんで綱吉くんはそんな事覚えてるんだよ。忘れてくれて良かったのに。いや、忘れてくれた方が良かったのに。一体、どうしようかと、考える。断るべきだと言う事は分かっているけれど、これ以上綱吉くんに嫌な思いをさせたくはない。それに、獄寺くんはさっき綱吉くんが残っているからまだ教室にいると言っていた(二人きりと言うわけじゃないんだよ、ね)どうしよう、どうしよう。なんて、考えても私の答えは最初から決まっていた。
「ごめんね、私今日は家で宿題しようと思ってたんだ」
さっきまで教室で残って数学の宿題をしようと思っていた奴の言葉とは到底思えない。だけど、さすがに私にはそんな気力は無かった。綱吉くんに嫌な思いをさせることでしか、弱い自分を守れない(本当にごめんね、綱吉くん)私は、立ち上がって獄寺くんの方を見て「じゃあね、獄寺くん」と声をかける。一瞬だけ獄寺くんが目を見開いて驚いた顔をした。きっと、今の私、また笑えてない私になってる。そんな顔を綱吉くんに見せるわけにもいかず、私は綱吉くんの顔を見る事もできない。なんて、最悪なんだろう、ね。そう思いながら、別れの挨拶は言っておかないと、と思い綱吉くんのほうを見ずに声だけをかけようとする。
「・・・・じゃあ、綱吉くんも、」
また明日、と言おうとした瞬間につかまれる腕の感触。そして、私はそのまま引っぱられた。何が起こったのか、わけがわからない私は腕を引っぱっている人物を見る。私の腕を引っぱっているのは、他の誰でもない綱吉くんだった。綱吉くんは何も言わないまま私の腕を掴んで、教室から出て行く。その行動に獄寺くんも驚いた様子でこちらを見ていて、腕をつかまれている私自身も何が起きているのか分からない状態だった。
なんで、綱吉くんが私の腕を引っぱってるの?
教室から出て行く瞬間に振り返れば、楽しそうに花ちゃんと話す京子ちゃんの姿が目に入った。なんで、京子ちゃんがまだ教室にいるのに、私を何処に連れて行くの?と、言いたいことはたくさんあったけど、もしかしたら綱吉くんは怒っているのかもしれないと思うと私は何もいえなかった。怒らせたのは誰でもない私。綱吉くんは悪くないのに、自分からさけて、綱吉くんに嫌な思いをさせていた私なのだ。階段を上がっていけば、綱吉くんに連れてこられたのは屋上だった。バタンッとドアを開き、屋上に着けば、綱吉くんは私の掴んでいた腕を離す。そして、綱吉くんが私の方を振り返った。その綱吉くんの表情が、つらそうな顔で、私は自分のやってしまった愚かさに気付かざるをえなかった。
「(だけど、どうしてこんな所まで連れてきたんだろう)」
私は何もできないまま、ただ綱吉くんの言葉を待った。静かな時間が流れる。二人きり、と言う状態に私は否応なしでも胸が高まるのを感じ、そして、顔が赤くなってしまうのではないかと不安を感じた。今からもしかしたら、綱吉くんに怒られるかもしれないのに、そんな事を考えるなんて自分は、本当に馬鹿、だ。
「・・・・ねぇ、さ。最近俺のこと、避けてない?」
予想通りと言っても良い綱吉くんの言葉。もう、友達と言う関係には戻れないのではないかと、一抹の不安が私の頭の中をよぎった。私は、綱吉くんと友達と言う関係を崩したかったわけではない。私は、本当は友達と言う関係でいたかったんだ(だけど、その関係でいるには私は綱吉くんと仲良くなりすぎた)そう、だから前のような関係に戻ろうと思ったんだ。クラスメイトよりは仲が良い友達と言う仲へと戻ろうと。さけていることは紛れもない事実。だけど、私は綱吉くんには嫌われたくは無い。
「そんなことないよ?」
「だけどさ、山本や獄寺くんとは話すのに、俺とは以前より話さなくなったと思うんだけど、」
「それは、」
思わず言葉につまる「それは、獄寺くんは席が隣だし、山本とはただ単に話す機会が増えただけだよ」笑顔をうかべて言う。目の前の綱吉くんには、いつもの優しい笑顔は無かった。私は、その表情にズキンと胸が痛んだ。ごめんね、綱吉くんの言っている事はその通りなんだよ。だけど、認めてしまったら綱吉くんは、私のこときっと嫌いになっちゃうんでしょう?それに、もう仲良く話す関係にも戻れなくなってしまうんでしょう?私は、それは嫌なんだ。自分からさけているくせに、綱吉くんと話せなくなるのは、嫌なんだ(なんて、我侭なんだろう)
「ねぇ、。本当のことを言ってよ」
もしかして、綱吉くんは私の気持ちに気付いているんだろうか、と思ってしまうような言葉だった。まっすぐにこちらを見る瞳に、私の胸のうちをすべてはきたくなってしまう。すべて伝えたくなってしまう。だけど、私はその時教室を出る前に見た、京子ちゃんの姿を思い出した。駄目だ、自分の気持ちを伝えてしまっては。京子ちゃんが悲しむし、私も綱吉くんと元の関係には戻れなくなってしまう。きっと、優しい綱吉くんのことだから、私が好きだと認めなければ、知らないふりをしてくれるから。
「本当の、ことって?」
偽りの笑顔を、つける。私は何も知らないふりをする。こうすれば、綱吉くんはきっと私の好きな優しい笑顔をうかべてくれると、思っていた。でも、綱吉くんは私の言葉に視線を落として、今まで以上につらそうな顔をして言葉を紡いだ。その言葉は私の思いもしなかった言葉だった。
「・・・・・、俺のこと嫌いになったんじゃないの?」
私はその言葉に、まるで思いっきり頭を殴られた感覚に陥った(なんで、そんな、)今にも、泣きそうだ。だって、そんな事無いのに。むしろ、大好きなんだよ、綱吉くん。私はその言葉に、動揺してなんと言って良いか分からなくなってしまった。
「ちが、違うよ!!そんな、嫌いなんかじゃ、ない。私は、綱吉くんのこと大好きだよ!」
言ってしまった後に、自分でも驚いた。綱吉くんも私の言葉に目を見開いて驚いている。カァと、顔が赤くなると同時に、なんて事をしてしまったんだと、思った。言ってしまった。言わないと決めていたのに。唇を噛み締めて、私はその場から走り出していた。後ろから、「!」と名前を呼ばれたような気がしたけど、それは気のせいだと決め付けて私は、とにかく走った。後ろから、綱吉くんが追いかけてくるわけがない(綱吉くんが、私を追いかけてくる理由がない)そうは分かっていても、私は走る足を緩める事は出来なかった。もう、後戻りはできないと言う事に、気付いてしまった。私はもう、綱吉くんと友達という関係にも、戻れなくなってしまったんだ。
もう戻れないことについて
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(2008・01・29)
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