未だすぐ後ろに綱吉くんがいる。私のなかでこの時間はとても長く、そしてゆったりと時が進んでいるような気がした。時計の針の音もいつも以上に遅く感じられるのは、ただの勘違いなのか、それとも勘違いではないのかは分からないけど、実際に時間が進むのが遅いのは確かだった
とすぐ後ろから声をかけられて思わず肩が揺れる。早く、早くいつもどおり接しなければと思うのに、体は言う事を聞いてくれそうにない。どうにか、早く綱吉くんがすぐ後ろからどいてくれないかと、願いはするものの綱吉くんはそんな私の気持ちはまったく知らずにその状態のまま口を開く。












「・・・・・・俺ってそんなに頼りない?」








綱吉くんのいつもよりトーンの低い声に、私はまた肩が揺れた。そんな、頼りないわけが無い。むしろ、私は頼ってしまいそうで嫌なんだ。本当は頼りたくないのに、頼ったらもっと好きになってしまうのに、そう思っているのに、綱吉くんは優しいからいつも頼りたくなってしまう。だから綱吉くんが頼りないわけが無いんだ。私にとって綱吉くんは誰よりも頼りになる、存在なんだから。













「そ、そんなことないよ!」





「だけど、今だって、」





「あれは見た目が軽そうだったから大丈夫かなって思って、別に綱吉くんが頼りないわけじゃないよ」








はっきりと、綱吉くんに伝える。綱吉くんの顔は見えないから、今はどんな顔をしているかまったく私には分からなかったけど、「そっか」と後ろから聞こえてくる声が先ほどのトーンの低い声とは違って少しだけ安心そうな声に聞こえたからきっと、私は間違った事は言ってないんだろうとは思った。だけど、どうやったら今のこの状況を打破できるんだろう。よし、だいぶ心臓は落ち着いてきた。うん、この調子でゆっくりと離れればきっと大丈夫の、はず。顔の赤みもきっとひいたはずだし、早く綱吉くんから離れないと、と思いいざ行動にでようと出た瞬間に、頭の上におりてくる手と、またもやすぐ後ろで聞こえてきた私の名前をつむぐ声。











、」









また一気に心臓が早くなるのが自分でもわかった。もちろん、顔が赤くなっていくことも。あぁ、ちょっとまた綱吉くんが声を出すから!なんて、綱吉くんを責めたところでこの状況から抜け出せるわけでもない。それに、綱吉くんを責めるなんて筋違いなんてことはもう分かりきってる事だ。すべて、私が悪い。綱吉くんの言動で一喜一憂してしまう自分。綱吉くんを好きになってしまった、自分。どちらも、私の責任、だ(自分が全部悪いんだよ、ね)










「な、何?」







「・・・・・・それならさ、今度からもっと、俺に頼って良いから」










とまどいがちに言う綱吉くんの言葉に私は思わず目を見開いた「ど、どうして、」どうして、そんなこと言うの?私のこと好きでもないくせに。京子ちゃんのこと好きなくせに。そんなこと言われたら頼ってしまいたくなるし、もっと好きになってしまうじゃない。嫌だ
(何が?)そんな事言われるのが(どうして?)自分がもっとみじめになってしまうから(本当は嬉しいくせに?)だけど、そんな嬉しさならいらない(何故?)きっと、最後に私は泣く事になるから。あぁ、最悪だ。今にも泣いてしまいそう。綱吉くんが後ろにいるのに、泣く所を見られるなんて、赤くなった顔を見られるよりも、嫌だ。獄寺くんとの約束を破ってしまうことにもなる。















「今まで、あんまり人に頼られたことないから、嬉しいだよ、ね」















やっぱり。頼られるのは私じゃなくても良いんだよね。本当は京子ちゃんのほうが良いに決まってるよね。それに、綱吉くん、それは間違ってるよ。山本も獄寺くんも、京子ちゃんも、みんな君を頼りにしているんだから。ただのクラスメイトに頼られるより、仲の良い人たちに頼られたほうが綱吉くんだって嬉しいはずでしょう?だから、私なんかに、そんな優しい言葉をかけないで。




私は何も言えなくなって、体だって動くわけもなくて、だけど何か言わないといけないことだけは分かっていた。でも、何か一言でも言葉を発してしまったら涙が零れそうで、何もできない。お願いだから、早く山本が来てくれないかと願う。その瞬間にガラッと扉を開ける音と共に元気の良い山本の声
「悪ぃ、遅れた!」その声に、私はホッと息を吐いた。山本が来てくれたおかげで安心、することができた。もう大丈夫。山本がここの空気を変えてくれたおかげで、綱吉くんにも普通に話しかけることができる、はず。











「や、山本・・・・・もう終わったよ。ね、?」






「そっか、悪いな、。手伝うとか言っておいて、結局何もできなかったな」












「いや、綱吉くんが手伝ってくれたし大丈夫だったから。それに山本も部活だったんだししょうがないよ!」











笑顔をつくり、ドアの方へといる山本の方へとかけよって山本を後ろを向かせて、背中を押す「ほらほら、もう終わったし帰ろ!」無理やり山本を資料室から出して、綱吉くんのほうへと振り返り「綱吉くんも、ありがとうね!早く帰ろう」と言葉をかける。明かりをつけていなかった資料室は暗くて、ドアからあまり綱吉くんの顔は見えなかったけど、綱吉くんからは「あ、うん」と言う声だけが聞こえてきた。教室に戻れば、そこには獄寺くんがいて、自分の席でまた携帯を扱っていた(本当、なんで獄寺くんは先生から何も言われないんだよ!)













「10代目!」





「あー、獄寺くん、もしかして待ってたの?」





「もちろんですよ!!」







「(綱吉くん待つんなら掃除手伝ってくれれば良かったのに・・・・・・!)」








「はは、それなら掃除手伝えば良かったんじゃね?」











私が思っていたことをはっきりと山本が口にした。その言葉に獄寺くんはきっと怒ることは間違いなしだと思っていたのに、獄寺くんは何も言わずに黙った。はっきり言っておかしすぎる反応だ。獄寺くんが、山本にこんなことを言われたらいつもなら絶対に怒るに決まってるのに、黙るなんて、一体どうしたんだろうと、思っていると綱吉くんが口を開いた。









「まぁ、掃除も無事に終わったんだし、もう早く帰ろうよ?」





「それもそうだな!」




「・・・・・・・・・」





「じゃ、私も帰るね!綱吉くん手伝ってくれてありがとう!!みんな、また明日」











さすがに、男三人と帰るなんて変な勘違いをされてしまうに間違いないと思い私は鞄を持つと、三人に声をかけた。その瞬間に、「俺、送るよ!」と声を出す、綱吉くん。私はその声に、咄嗟に顔が歪む(駄目、迷惑かけてはいけないんだから。早く笑顔を作らない、と)








「いやいや、獄寺くんは綱吉くん待ってたみたいだし、それはできない、よ」





「だけど、」




「じゃあ、俺が送っていってやるよ」




「や、山本」









「それなら、ツナも安心だろ?」










そういうと、山本はさっさとドアの方へと歩き出しだす。私もそれに小走りでついていく。後ろを振り返り綱吉くんのほうを見て、バイバイ、と声をかければ綱吉くんは笑顔で手を振ってくれた。ごめんね、綱吉くん。本当は送ってくれるって言ってくれてすごく嬉しかったんだ。だけど、君と一緒に帰るなんて、多分もう一生無い。いや、もしかしたら私が綱吉くんのことを諦めきれたら、綱吉くんと二人で帰ることもできるかもしれないなー、なんて、その時にはきっと綱吉くんの隣には京子ちゃんが立っているに違いない、か(彼女がいるのに、他の女の子と二人きりで帰るわけが無いよ。綱吉くんは好きな子のこと、大切にするに違いないから)










「なぁ、




「何?」








「・・・・・・お前、あんまり無理すんなよ」













山本の言葉に私は何もいえなかった。別に無理をしているつもりはまったくない。それに、なんでこんな事言われなくてはいけないんだ。あぁ、もしかしたら山本、変なところで勘が鋭いから私が綱吉くんのこと好きって気付いているのかもしれない。だから、さっきも綱吉くんが私のことを送ってくれるといったとき助け舟をだしてくれのかな。だけど、お願いだから私のこの気持ちには知らないふりをして欲しい。今日の私は、自分からなにかをしようとせずに、願ってばかりだ(願いを叶える為には自分でどうにかしないといけないと分かっているの、に)









願っても無駄なことについて










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(2008・01・28)