数学の資料室の片づけをする為に、私は放課後一人で資料室へと訪れていた。どうやら、山本は野球部のミーティングが終わってから手伝ってくれるらしい。とりあえず、そのミーティングは早く終わるらしいから、別にそれは良かったんだけど、目の前に広がる、資料室のあまりに汚さに私は思わず泣きたくなった。
「(あの数学の教師め・・・・・!)」
何で私が、と言いたいのは山々ではあったけど、授業中に考えていたのは確か。あの数学の教師ばかり責めてはいけないとは、思う。いや、だけど、この汚さだったら責めても良いんじゃないかな・・・・!(絶対あの教師自分が掃除したくないから私に任せたに違いないよ!)とりあえず、山本が来るまでにはある程度綺麗にしておかなければならないと思い、私は片づけをはじめた。早く山本が来ないと、私絶対泣くな!と思いながら片づけを続けていればガラッとドアが開く音が聞こえた。
「(やっと来たか、山本!)山本はそっちよろしくねー!」
重い荷物を持ち上げながら、私は山本に言う。あぁ、もうなんでこの荷物重いんだよ!と心の中で悪態をつきながら、荷物を置けば「」と私の名前をつむぐ声。あれ、この声、山本じゃない?山本だったらもっと、こう馬鹿っぽくて無駄に大声で・・・・・・・と考えていれば、私は一気に青ざめた。こんな優しい声を持ってるのは一人しかいない。いや、だけどその人がここにくるわけがないじゃないか。そう思いながらも、どうか私の考えている人じゃありませんように、と確認をするようにドアの方を見れば、そこには黒い短髪の背の高い山本じゃなくて、蜂蜜色の髪の毛をした綱吉くんが立っていた(私の考えていたとおりの人だった、)
「つ、つ、綱吉くん?!」
「・・・・あー、えっと、山本じゃなくてごめん、ね?」
「いやいやいや、なんでそこで謝るの?!別に山本じゃないから、がっかりなんて本当してないから!!そんなのするわけないから!むしろ、綱吉くんでありがとうって感じだから!」
「あ、ありがとうって・・・・・・そっか、だけどそれなら良かった」
そう言って微笑む綱吉くんに私の胸はドクンと高まった。こんなこと思っちゃ駄目なのに、また好きだと思ってしまう・・・・・・それにしても、私どれだけ焦ってるんだよ。先ほど自分が言った言葉を思い出してはぁ、とため息をつきたくなった。むしろ、綱吉くんでありがとうって感じだからって、一体どんな感じなんだよ。それにしてもどうして綱吉くんはここに来たんだろう。山本に用事だとしても、山本はまだ野球部のほうだし、もしかしてそれを知らずにこっちに来てしまったんだろうか
「(まさか、私に用事なんて絶対にありえないしね)」
最近話していないのだから、綱吉くんが私に用事があることなんて絶対にあるわけがない。その状況を自分で作り出したんだ(だから、悲しいと思うのは間違ってるんだよ)「?」と再び名前を呼ばれて私は顔をあげる。綱吉くんが不思議そうに私の方を見ていて、私が顔を上げれば綱吉くんと目が会った。綱吉くん、お願いだから私と目を合わせないで。綱吉くんの真っ直ぐな瞳で見られると、綱吉くんが好きだと言う気持ちに罪悪感を感じてしまうから。
綱吉くんには京子ちゃんがいるから好きになってしまっては駄目だと分かっていたのに、好きになってしまった。その想いは自分の中に閉じ込めておけば、別に大丈夫だと思っていた。だけど、綱吉くんの瞳を見ると、そんな気持ちさえ抱いてはいけないような感覚に陥る。それは、なぜ?きっと、それは綱吉くんの瞳に見られるとこの気持ちをすべて綱吉くんに伝えたいと思ってしまうから、だ。だから、綱吉くんのあの瞳で見られると罪悪感を感じてしまうんだ(この思いは絶対に自分の中だけで押し込めておかなければならないのに、それができなくなってしまいそうになるから、)
「それで、どうしたの綱吉くん?山本ならここにいないよ?」
「いや、山本に用事があったわけじゃなくて。今日、俺暇だから片付け手伝おうと思って」
・・・・・・あれ、今綱吉くんなんて言った?綱吉くんの言葉に私の思考は一瞬だけストップした。だって、そんな手伝ってもらうなんて出来るわけがない。どんなに山本が来ると分かっていても、山本は現にまだいない。そんな中で綱吉くんと二人きりで資料室の片付けなんて、私にできるわけがないんだ。それに、京子ちゃんに申し訳ないじゃない、か。
「そ、そんな別に大丈夫だよ!綱吉くんに迷惑がかかるから!」
「そんな事気にしなくても良いよ。いつも数学お世話になってるしさ」
「だ、けど、」
「だけどじゃないよ。俺が手伝いたいって言ってるんだから、は気にしなくて良いんだよ」
ニッコリと微笑む綱吉くん。そんな問題じゃないんだよ、綱吉くん。綱吉くんは私がどんな気持ちなのか知らないからそんな事が言えるんでしょう?なんて、神様は意地悪なんだろう。そして、綱吉くんはこんなに優しいんだろう。だけど、その優しさが今の私を苦しめているんだ(それでも、すごく嬉しいとも思っている自分に腹が立つ)山本が来るまで一体あとどれだけあるんだろう。こんな意地悪をしたんだから、できることなら早く山本をここに連れてきて欲しい。三人でもあまり良くはないけど、二人よりは全然まだ頑張れる、と思うのに。
「そっかー!綱吉くんありがとうね!!じゃあ、私こっちやるから、綱吉くんそっちやってくれないかな?」
「うん、分かった」
できるだけ同じ資料室の中でも私の場所から離れたところを綱吉くんにしてもらうことにした。綱吉くんは笑顔でそれを了承してくれる。私が、まさか離れたところをしたいからその場所を頼んだなんて思ってもいないんだろうな。ごめんね、綱吉くん。この前から、私は心の中でだけでしか謝ってない。いつか、声に出して綱吉くんに謝れれば、良いのに(でも、そんな勇気私にはきっと一生もてないんだろう、な)さて、片づけを再開しようかと思い荷物を持ち上げれば、綱吉くんがまだこちらを見ていた。一体どうしたんだと思いながら、その疑問を私は口にした。
「綱吉くん、どうしたの?」
「ううん、なんでもないけど、その、・・・・重い荷物があったら俺に言ってね」
その言葉に、私はまた鼓動が早くなるのを感じた。なんで、そんなかっこ良い事を言うだよ、綱吉くん。思わず、その言葉に甘えたいと思ってしまうじゃないか。だけど、私はそんな事を言われても重いに持ちは自分でどうにかするんだろう。綱吉くんに甘えてはいけないと、私はちゃんと分かっている。
「あ、うん、ありがとう」
「山本よりは全然頼りないと思うけど、これでも男だからさ」
何故ここで山本の名前がでてくるんだろう。私にとっては、山本よりも綱吉くんのほうが頼りになる(だけど、頼ってはいけないということが分かってるから、私は綱吉くんには頼らない。いや、頼れない)静かな資料室で荷物を動かす音が聞こえて、たまに綱吉くんから聞こえる声に私は過剰な反応をしてしまう。なんで、こんなことに、なんて今さら後悔しても遅いのは分かっている。このさい、早くこの資料室を片付けるしか今の自分にできることはない。早く終わらせて、綱吉くんと離れなければ。
やっとの事で自分のほうの片づけが終わり、綱吉くんのほうを見れば綱吉くんに視線をうつせばどうやらまだ綱吉くんは終わっていないらしかった。さすがに、この資料室の片づけを言い渡されたのは私なのに、片づけを手伝わないわけにはいかないと思い綱吉くんのほうへと向う。少しだけ、足が重い。「綱吉くん」と声をかければ綱吉くんはゆっくりとこちらを振り返った。
「私の方終わったから、そっち手伝うね」
「あ、うん、ありがとう」
「いやいや、本当ならお礼を言うべきなのは私だから!」
笑って、綱吉くんと話す。この笑顔なんて偽りのものだ。だけど、綱吉くんはそれに気付かない。そう、これで良いんだ、と自分に言い聞かせて荷物を片付けていく。はぁ、と思わずつきたくなるため息も我慢した。そして、一つのダンボールを持ち上げればそれは自分が考えていた以上に重く、私の眉間に一瞬だけ皺がよった(思ってたよりも重いんですけど・・・・!!小さいからって騙された!)だけど、綱吉くんには頼らないと決めた私は、すぐに顔をもとにもどし、荷物を上へと持ち上げて、棚へと入れようとする。
「って、、大丈夫?!」
「つ、なよしくん」
スッと後ろから手がのびてきて、荷物が棚へとおさまった。どうして、気付くの、この荷物が私が思っていたよりも重かったことに。ダンボールの箱は小さくて、とても重そうには見えなかったのに(それに私も騙されたんだけどね・・・・・!)あぁ、頼ってしまったのか、と思いつつ、ふと私はあることに気付いた。綱吉くんが私のすぐ後ろにいる?スッと伸ばされた手は私の後ろから伸びていて、綱吉くんの声はすぐ後ろから聞こえてきた。
「・・・・(って言う事は、)」
「さっき重い荷物があったら俺に言ってて、言ったのに」
はぁ、と綱吉くんがため息をつくのがわかった。あぁぁ、どうしよう、この状態!!ドキドキなんてもうはるかに超えてしまって私の心臓がこれまでにないってぐらい動いている。どうしよう、どうしよう。すぐに離れないとと思っていても、私は何も言えずに、体も動かなくなってしまっていた。こんなに近くに綱吉くんがいるなんて、私には耐えられるはずがないんだよ。だけど、平静を装わなければならない。こんな真っ赤になった顔、絶対に綱吉くんに悟られたらいけないんだ(綱吉くんに、この気持ちを知られるわけにはいかないから)
真っ直ぐな君の瞳について
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(2008・01・05)
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