綱吉くんから距離を置こうと決めて、数日が経った。たまに綱吉くんから話かけてくれるときは、笑顔で話すけれど、私から話しかけることはあまりしなくなった。少しずつ、少しずつでも良いから綱吉くんと距離をおければ、と言う私の願いはどうやら叶っているらしい。周りに何を言われる事もなく、自然と私と綱吉くんは以前より話す回数を減らせたような気がする。だけど、それはそれで悲しいと思うなんて、自分はどれだけ身勝手な人間なんだろうとも思う。
「あー、次数学なんて嫌だー!」
「うるせぇぞ、」
「いやいや、獄寺くん。だって、次数学だよ?あの数学だよ?」
「テメーは数学が嫌いなんじゃなくて、数学の教師が嫌いなだけだろうが」
「うーん、まぁ、その通りなんだけどさ!」
その代わりと言っては何だけど、以前より獄寺くんと話す回数が多くなったような気がする。きっと、獄寺くんの場合はと隣の席だから話していることが多いんだろうと思うんだけど、獄寺くんはあまりクラスの女子と話さないから変な勘違いをされてしまって困った(本当、なんでこの年の女の子はすぐに、付き合ってると勘違いするのかなー)それに、まさか山本との関係も勘違いされているなんて知りたくもなかった。まったく、仲が良いからってすぐに付き合っていると勘違いされる、こっちの身にもなって欲しい。私は、未だ綱吉くんのことが諦めもできていないのに、彼氏を作れるような人間じゃない。
そう思うと、私はいつになったら彼氏ができるのかと、ふと思った。いや、まぁ、私なんかモテないからできないとは思うんだけど、それだけじゃなくて綱吉くんのことをいつになったら諦めきれるのかと思う。綱吉くんのことを諦めがつかなければ、彼氏なんて作れない。だったら、いつになったら綱吉くんを諦められるんだろう。できれば、早く綱吉くんのことを好きじゃなくなりたい(別にだからと言って嫌いになりたいと言う訳でもないけど、)
「よーし、授業始めるぞー」
チャイムと共に教室へと入ってきた教師に心の中で舌打ちをした。あぁ、もう数学の授業が始まってしまうと思うと少し気がめいる(私はどれだけ数学が嫌いになっているんだ)学級委員の号令でみんなが立ち上がり、礼をすれば先ほどまで騒がしかった教室には教科書のページをめくる音と、シャーペンで文字を書く音しか聞こえなくなる。先生の声が前から聞こえてくる、どうやら隣の獄寺くんは先生の話を聞くつもりはないらしく、携帯をずっと扱っている。なんで、コイツは数学の係りじゃないのにこうして真面目に受けている私が数学の係りなんだ。
「(絶対理不尽だー!)」
だって、私はこれでも真面目に受けているんだよ?!きっと、先生は獄寺くんに数学の係りをさせるのが恐かったから、私にさせたんだ。なんて、弱い先生なんだ!と先生への不満を募らせながら、私は何だかんだ言って授業を真面目に受けていた。しかし、別に分からない訳でもなく退屈な授業で、私の口からは自然と欠伸が。しかし、さすがに授業中に欠伸をどうどうと出来るわけもなく、欠伸をかみ殺し黒板へと目をやる。今頃、綱吉くんは必死に授業を聞いているんだろうなーと思うと、自然と笑みが零れそうになった(さすがに、笑わなかったけどね。授業中に一人で笑うなんてどれだけ可哀想な子なんだ、私は!)
前の黒板を見つめたまま、綱吉くんのことを考えていた。どれだけ、考えても思い知るのは自分がとても綱吉くんのことが好きだということだけ。綱吉くんが告白されている所を見たときは、好きな人には好きになって欲しいなんて思っていたけど、今は違う。好きになって貰わなくても良いから幸せになって欲しいと思っている(いや、本当は、)
「(本当は私のことを好きになって欲しいと思ってる)」
だけど、綱吉くんが京子ちゃんをどれだけ好きなのかは、あの告白されている時に知ってしまったから、私は何もできないんだ。あの時の綱吉くんの愛しそうな笑顔は今でもしっかりと覚えている。きっと私は、自分を好きになってもらえることが絶対に無いと分かっているからこの恋を諦めている(綱吉くんと、京子ちゃんの邪魔をしたくない、なんてただのいいわけだ。)そして私は綱吉くんとの仲が良い友達という関係を壊したくないと思っている。なのに馬鹿な私は、この関係も壊したくないと思っているにも関わらず、私は自分から綱吉くんに距離を置いて、自分からこの関係を壊そうとしているんだ。
告白して壊れる関係
告白しないでも壊れる関係
もしかしたら、私と綱吉くんの関係なんて所詮ちっぽけで、壊れやすいものだったのかもしれない。綱吉くんと京子ちゃんの関係は何があっても壊れなさそうな関係なのに。いや、京子ちゃんだけじゃなくて、獄寺くんも山本も、彼との関係はそんな簡単に壊れる関係ではないと思う。だから、彼らは綱吉くんの横が似合うんだ。私とは違って、彼らは綱吉くんとの関係が深いから。
「・・・・、!おい、!!」
「あっ、えっ、はい?!」
突然大声で名前を呼ばれて咄嗟に返事を返せば、先生がこちらを見ていた。先生だけの視線だけじゃなく、みんなの視線が私に集中している。あれ、一体何があったんだ?と思い、キョロキョロと周りを見渡す。それでも、私は未だに状況がつかめずにいた「さっきから何回も名前を呼んだだけどな。お前、一体何を考えてたんだ?」・・・・・あー、状況がしっかりと飲み込めました。どうやら私は授業中に考え込んでしまい自分の名前が呼ばれたことに気付かなかったらしい。そして、大声で呼ばれてやっと気付いた、と。
「・・・・すいません!!」
「ったく、罰としてお前に数学の資料室の掃除をしてもらう」
「えぇぇ、そんなぁぁ?!」
声を上げて抗議をするもそれは先生には聞いてもらえなかった。どうして、隣で授業が始まってからずっと携帯を扱っている獄寺くんには何も罰がないで、ちょっと考え事をした私が罰を受けなければならないんだ(こんなの理不尽だ!)それも数学の資料室って物も多くて、一人で掃除なんて絶対に無理に決まっている。嫌だ、嫌だ、と思うも私は何もできないで、はぁとため息をついた。今日帰れるかがとても不安になってきた。
「しっかし、あの教室を一人ではきついだろーしなー。よし、誰か手伝いをっと、」
そう言いながら先生は教室を見渡す。きっと、今みんなが先生から視線をずらしているんだと言う事はもう分かりきっていることだ(だって、掃除なんて誰だってしたくないと思うし!)それにしても、別に先生が決めなくても私は、自分で手伝ってくれる人を探すのに。りりんとかに手伝って貰えるように頼むのになーなんて考えるも、きっとりりんのことだ。私を見捨てる事は間違いないだろう。だったら、先生に決めて貰った方が良いかなって思えた。しかし、先生があまり仲の良くない人を指名してもそれはそれで困る。
「・・・・・先生、私一人でできますから大丈夫です!」
「そうかー、じゃあ、頑張れよー」
それに、先生に指名された人に怨まれては困る。それなら一人でした方が何倍も良いに決まっているじゃないか。あー、だけど、一人で掃除って嫌だな。この後誰かに手伝ってくれないかお願いしてみよう。獄寺くんは手伝ってくれるわけがないから却下。もちろん、りりんも。京子ちゃんや花ちゃんに手伝わせるなんてできるわけがないし、と考えて、思い浮かんだのは、綱吉くんだった。だけど、そんなお願いできるわけがないよ。私は誰か頼めるような人がいないかと、教室を見渡す。
「(うわー、山本まだ寝てるよー!)」
・・・・・・って、山本がいるじゃないか。山本ならきっと手伝ってくれる事は間違いないだろう。あいつ良い奴だし、頼みやすいと言ったら頼みやすい。よし、じゃあ、授業が終わったら山本に頼んでみることにしようと、思っていれば授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。授業が終われば私は急いで山本の席へと行き、山本を叩き起こす。普通に起こすんじゃなくて、叩き起こす「う、なんだー?」と起き上がる山本に私は掃除を手伝って貰えないかと頼む。そして、思ったとおり山本はあっさりと了承してくれた(やっぱり、馬鹿だけど良い奴だな!)
「別に良いけどよ、二人で資料室の掃除って大変じゃね?他に頼める奴っていないのかよ」
「う〜ん、わかんないな」
「あっ、じゃあ、ツナは?アイツ、今日暇だって言ってたぜ」
山本の言葉に一瞬顔が強張る。しかし、私は平常心だと自分に言い聞かせて、笑顔をつくったまま山本に言う「だけど、綱吉くんに手伝って貰うの悪いから」なんて、ただの言い訳「俺なら良いっていうのかよー」と言う山本に、私はただただ笑いを返す事しかできなかった。
簡単に壊れる関係について
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(2007・12・31)
2007年最後の更新だぁい!
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