「おはよう!」
月曜日の朝、私は獄寺くんと約束したとおり笑って、元気に、学校に来た。私は自分が綱吉くんを好きな事に気付いたからって別に何をしようとか考えてはいない。京子ちゃんと、綱吉くんは、とてもお似合いなのだから、私はその間にわってはいろうなんて、考える気も起こらなかった。ただ、私の目の前で「おはよう。もう、大丈夫なの?」と、心配そうに聞いてくる京子ちゃんに対して、罪悪感が一杯になった。綱吉くんを好きになって、誰にも迷惑をかけないことなんて、できるんだろう、か。こんな気持ちになることなんて初めてで、私は自分の気持ちの行く末がどうなるかなんてまったく予想できなかった(だけど、この思いは誰にも言わず自分の胸の中だけでおさめてみせる)
「、もう大丈夫?!」
「うん、任せて!」
「いやいや、あんたに任せることなんて一つもないわよ。体の方は、」
「もう全然大丈夫だよ。」
「そう、なら良かったんだけど」
ホッと息を吐く、りりんに私は好きな人だけではなく大好きな友達にまで心配をかけてしまったのか、と少し申し訳ない気持ちになった。でも、今日からは元気に過ごしてみせる。綱吉くんにも心配をかけたくない。綱吉くんに、元気がないと気付かれたくない。好きな人に迷惑をかけたくない、と思った。何人かの友達から話しかけられて、それに笑顔で返せば前のドアから綱吉くんや、山本、獄寺くんが入ってくるのが見えた(大丈夫、笑顔をつくれば)少しだけ強張る身体に、どうにか力を抜くように、私は下を向いて数回深呼吸を繰り返す。そして、いざっ、と気合を入れて顔を上げれば、目の前には綱吉くんが立っていた
「う゛わっ?!(ま、また女の子らしくない声で叫んじゃったよ・・・・!)」
「あっ、大丈夫?!」
「うん、大丈夫。ごめん、ちょっと驚いちゃって」
いつの間に来たんだ綱吉くんは・・・!どきどき、と胸が高まるのを感じて、私は改めて綱吉くんのことが好きなんだと、思った。目の前で微笑む綱吉くんに私もゆっくりと微笑み返す。この前は、あの後すぐに分かれて、ポチを連れて家へと帰った。この土日の間、考えたのは綱吉くんのことだけ。もちろん、どうやって告白しよう、なんて漫画の女の子のような恋した乙女が考える事じゃなくて、どうやったら、綱吉くんのことを諦めきれるかと考えていた。そして、どうやったら綱吉くんの迷惑にならないですむかと。
微笑む綱吉くんは私の気持ちなんてまったく知らない。そう、それで良いんだ。このまま、この友達という関係で。と思っていれば、綱吉くんのとなりにいた山本がいきなり笑った(まぁ、山本がいきなり笑うのはいつもの事なんだけどね)それに少しだけ驚き、私の視線は目の前の綱吉くんから、山本へとうつった。
「はは、また面白い声だな!」
「(こいつ、そんな事で笑ったのか・・・・・)よーし、山本。ちょっと顔貸してくれるかな?」
「う、嘘だって!・・・・それにしてももう、風邪は良いのか?」
「この通り、おかげさまで元気になったよ」
「それは良かったな!」
はは、とまた笑い出した山本の声を遮るかのようにチャイムが鳴った。私達は、そのチャイムを聞きそれぞれの席へと戻っていく。自分の席へとつこうとして、一度綱吉くんのほうに視線をやれば、綱吉くんと目があった気がした。目があった瞬間に微笑み綱吉くんに、私は自分の顔が熱くなるのを感じた(やっぱり、好きだなぁ)ガラッと音と共に先生が教室に入れば、綱吉くんは視線を前へ戻して、私も自分の席にすぐについた。
「(私、笑えてるよね・・・?)」
獄寺くんのほうをチラリと見る。気だるそうに先生の話を聞いているけれど、先ほどの私と綱吉くんが会話をしているときにも獄寺くんは近くにいた。あの時、私は獄寺くんとの約束をしっかりと守ることはできたんだろうか。私としては、ちゃんと獄寺くんとの約束を守れたつもりだけど、綱吉くんはまだ私の心配をしてくれているのかは、私には分からない。もしも、まだ綱吉くんが私の心配をしてくれているんだとしたら、獄寺くんにお願いして、私は元気だと言って貰おう。友達から言われれば、優しい綱吉くんでも、私が元気だと分かり、もう心配なんてしないはずだ。少しだけ、悲しいと、思ったけど、それが最善の策なんだと、自分に言い聞かせた。
「(京子ちゃんと、綱吉くん、仲良さそうに話してるなぁ)」
視線を前にやれば、見えるのは綱吉くんの背中と、京子ちゃん。ここからでも二人が仲良さそうに話しているのがはっきりと見える。その光景を見れば、やっぱりあの二人はとてもお似合いだと感じた。もし、京子ちゃんが、綱吉くんを心配させたとしても、獄寺くんは何かを言ったんだろうか(これは、嫉妬か)きっと、獄寺くんは何も言わないんじゃないか、と思う。だって、綱吉くんが大切な人を心配するのは仕方が無い事なんだから。胸にくる、突き刺さるような痛みに、私は、泣きそうになった。二人がお似合いだとは分かっているけど、二人が仲良さそうにしている光景を見たくない。見たくないと思って視線をずらしても、少しの間胸の痛みは治まりそうにならなかった。リボーンくんの言葉を思い出す「は、ツナの事好きか?」と言う言葉。今なら、私ははっきりと頷く事ができるんだろうな。恋や愛なんてまだまだ、分からないけど、少しだけ分かるかもしれない、とも思った。
「じゃ、今からくじ回すからなー」
「は・・・・?」
先生の言葉に私は、驚く。え、くじってどういうこと?なんで、周りの人たちこんなにそわそわしてるわけ?(一体何をするつもりなんだ?!)私が考え事をしている間にどうやら、何かみんなが盛り上がる事が先生の口から言われていたらしい。わ、私として事が乗り遅れてしまった・・・・!と、思いながら、前の席の友達に何があったのか聞けば、今から席替えをするのだ、ということ。そりゃ、これだけみんなが盛り上がるのも仕方が無い話だよね。席替えと言ったら、ビックイベントの一つといっても過言ではないし。私は回ってきたあみだくじに自分の名前を書き込む。
どうか、綱吉くんとは離れたところになりますように
漫画の女の子なら普通、隣になりますように、ってお願いするのにと思えば、私はいつの間にか自嘲地味に笑っていた(やっぱり、私には漫画の主人公なんて、無理な話だったんだ)盛り上がるみんなを他所に私の気分は盛り下がっていた。でも、それを回りに気付かれないように笑顔をつくる。
「じゃあ、黒板に名前書いていくから、移動しろよー」
「はーい!」
クラスのいたるところから「ね、どこだった?」とか「やったー、近いよ!」なんていう声が聞こえてくる。私もそれに、便乗してよかったね、なんて思っても無い、いや、良かったとおもっていると言えば思っているのだけど自分の席が気になってそれどころではなかった。先生がチョークで勢いよく名前を書いていく。私の名前は、前の方の席に書かれた。そして、綱吉くんは後ろの方で私の席とはあまり近くなかった。普段なら前の席なら、嫌だ、と思ったりもするけど今は綱吉くんよりも前の席だということのほうが嬉しかった。これで、授業中に綱吉くんを見なくてもすむ。綱吉くんが誰と仲良く話したとしても、私は見たくないなら見なくても良いんだ。
「、席移動しないと」
「あ、うん。りりん、結構近いね!」
りりんに笑顔ではなしかけて、私は新しく自分の席となった席へと行く。そして、鞄の中身を机の中に移動させていれば、ガタンと音を立てて隣の椅子が動いた。顔を上げて、音のした方を見れば、そこには獄寺くん。・・・・・この席は本当に私にとって良い席だったのかと、思いそうにもなったけど、何だかんだ言って獄寺くんも良い人だから、良い席だ、(と思いたい)獄寺くんが、こちらを見る。
「お前この前の、「お隣さん、よろしくね!」
私は笑顔で獄寺くんの話を遮る。もう、この前の話は聞きたくない(それが、聞かなければならないものだとしても、)今、この前の話をされたら私は泣いてしまうから、もし私がまだ綱吉くんに心配をかけているんだとしたら、誰も居ないところで、言って。心配をかけているんだしたら、私はもっと今以上に笑顔をつくる為に頑張るから。獄寺くんは、私の言葉に「あぁ」と言うと、この前の話は話している間一切出さなかった。あぁ、獄寺くんも優しい。私が、この前の話を聞きたくないということを察してくれている。獄寺くんは、綱吉くんのために、いや、もしかしたら私の為にこの前の話をしようとしたのかもしれないのに、私にはその話を聞く度胸なんて、無かった。弱くて、ごめんね。
隠された気持ちについて
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(2007・12・23)
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