結局、今日はお母さんに頼んで休ませて貰った。私が理由も何も言わずに休みたいといった事に対して、お母さんは私に何を追求するわけでもなく休ませてくれた(・・・・ありがとう、お母さん)午前中は頻繁に鳴っていた携帯も今は随分と静かに、ただベッドの上で転がっている。朝は、色々な人からメールが来て少しだけ今日休んでしまった事に罪悪感を覚えてしまったけれど、朝の自分の顔を見れば今日は休んでよかったと思えた。もしかしたら、お母さんも朝の私の腫れた目を見て何も追求せずに休ませてくれたのかもしれない。













「(でも、たくさんの人に心配させちゃったみたいだな・・・・)」










携帯の受信ボックスを開けば、そこには今日の日付のメールが何通も来ている。りりんや、山本。京子ちゃんや花ちゃん、そしてどこで私が休みのことを知ったのか持田先輩からまでメールが届いてきていた。だけど、その中には綱吉くんからのメールは来ていない。獄寺くんにもう心配をかけないと言ったのだからメールが来ない方が良いかもしれないとは思う。いや、メールが来ない方が綱吉くんが私を心配していないと言う事でよいはずなのだ。でも、綱吉くんからのメールが来なかった事で寂しいと感じている自分がいるのも確か。だからなんだろう、先ほどから私が携帯を気にしてしまうのは。綱吉くんからのメールが来ないかを気にかけてしまうのは。












もしかしたら昨日、私が綱吉くんの誘いを断って用事だと嘘をついたことを綱吉くんは知ってしまったかもしれない。









ズキンと、心が軋んだ気がした。それが何のせいなのかは私にはよくわからない。優しい綱吉くんに嘘をついてしまった、自分への罪悪感なのか、それとも綱吉くんがこれのせいで私にこれまでと同じように優しく接してくれるかを心配してのことなのか、多分両方なんだろうと思うのだけれど、実際はよくわからないのだ。ハァ、とため息を零しながら、私はむくりと起き上がり時計を見る。もう時間は放課後と言って良い位の時間になっていた。今日は、本当になにもせずに過ごしてしまったらしい。











ー」








階下から聞こえてきたお母さんの声に素直に返事をする。いつもの私なら面倒くさくて返事をしない事もあるけれど今日は学校を休ませてもらっているのだから、返事をしないわけにはいかない。階段を降りていけば、そこには我が家の愛犬であるポチ(正式な名前はポチティーヌなんだよ!)がリードに繋がれていて、お母さんが笑顔で立っていた。すごく、嫌な予感がする。













、ちょっとお母さん用事があるから、ポチの散歩に行ってくれるかしら」





「(・・・・・やっぱり)え、私でも学校休んで
「はい、じゃあいってらっしゃい」









笑顔でニッコリと微笑むお母さんに、私は逆らう事ができずにポチを連れて家をでた。普通学校を休んでいるのにこんな呑気に犬の散歩をする人なんているんだろうか(・・・・いないんだろうなぁ)嬉しそうに歩くポチに反して、私の足は重い。まぁ、あのまま部屋にいて重い雰囲気のままいるよりも少し外の空気を吸ってリフレッシュするのも良いのかもしれない。そう思い、私の足は少しだけ軽くなった。だけど、学校が終わった時間の為か学生をちらほらと見かける。たまに並中の生徒を見つけると、私の心はドクンと跳ねた。












「(知り合いに会いませんように!)」









学校を休んでいるのに犬の散歩をしている私を見られてしまえば、今日ズル休みをしたことが皆にバレてしまう。皆私のことを心配してメールをしてきてくれたのに、それを何だか無下に扱ってしまったような気がしてならない。そんな事を考え、なるべく並中生がいないところに行こうと思い、私はポチのリードを持ったままあまり人のいなさそうな公園へと向った(ポ、ポチそんなに引っぱらないで!)公園を一通り見て回り携帯を確認すればそろそろ家へと帰る時間となっていた。










「そろそろ帰ろうか?」




「ワンッ」







ポチに問いかければポチは元気に返事をした。本当この子は、飼い主の私なんかよりも何倍も頭が良いかもしれない(なんだか、人間として負けた気分なんだけど)人のいない公園を見渡して、遠くに見えたブランコを見つめた。ユラユラと揺れるブランコを見ていて楽しいと思えるわけではないけれど、少しだけぼぉっとする時間が欲しかった。しかし、それもつかの間、ポチがリードを引っぱる
「うわっ」と言う声が聞こえてきて、ポチが誰かに飛び掛ったのかもしれないと咄嗟に思った。ポチは人懐こくて、すぐに誰彼構わず飛び掛ってしまうから実に困る。













「(だけど、こんな事前にも、)」










今の
「うわっ」と言う声があまりにも綱吉くんに似ていて、忘れていた昔のことを思い出した。あれは確か中学3年のときだったはず。あの時も今の様に犬の散歩をしていて、初めて同じクラスになった綱吉くんと出会ったんだ。飛び掛るポチに怯えている綱吉くんと初めて話をしたあの日。どうして、今まで忘れていたんだろう。そして、何故今その事を思い出したんだろうと考えれば答えは意外とすぐにでた。きっと、綱吉くんとの大切な思い出だから思い出したのだと。今の私にとって、綱吉くんとの思い出はどれも一つ一つが大切な思い出だと思えるようになったからだと。













「(って、ポチが誰かに飛び掛ったままだった!!)す、すみません・・・・!」










綱吉くんとの思い出を思い出す時間はそう長くなかったと思う。私は振り返り、頭をさげる。そこに見えたのは、気持ち良さそうに頭を撫でられているポチと、ポチを大きな手で撫でている綱吉くんの姿だった。いや、そんな、はずはと思う。こんなところに綱吉くんがいるはずがない。あぁ、でもここは並盛町の公園だからそんな事はっきり言い切れるわけがない。それでも、なおも私がこの人が綱吉くんだと信じきれないのは、綱吉くんがポチを撫でていることだろう。あんなにも、犬に怯えていた綱吉くんを私はさっき思い出したばかりなのだ。そんな綱吉くんがポチを撫でられるわけがないのだから、きっと、これは幻覚。私は綱吉くんの幻覚まで見るようにうなってしまったらしい。



















「え・・・・?」









幻覚の次は幻聴らしい。目の前にいる綱吉くんが私の名前を相変わらず優しい声色で呼んだ。もしかしたら、これは幻覚でも幻聴でもなく、目の前でポチを撫でている綱吉くんは本物なのだろうか。だとしたら、綱吉くんはいつの間に犬を克服したんだろう。って、今はそんな事を気にしている場合じゃない。私は今日、学校を休んだのだ。だとしたら、こんなところで犬の散歩をしているなんて可笑しいに決まっている。










、もう大丈夫なの?」






「えっ、あ、うん」











少しだけ上擦る声に自分がどれだけ、嘘がつけない人間なのかを思い知った(最悪だ・・・・)それに、もともと私は大丈夫なのだ。本当は体の調子なんて一つも悪いところはないのだから。だけど、綱吉くんは私の返事を聞くとゆっくりと微笑んだ。その笑顔に、また私の心は高まった。かっこ良いと、素直にそう感じた。














「・・・・・・そっか、なら良いんだけど。実はこのプリントの家に届ける途中だったんだ」






「あ、ありがとう」











いつもなら山本が届けてくれるプリントは今回は綱吉くんが届けてくれた。綱吉くんに聞けばどうやら、山本が野球の練習で遅くなりそうだからと、綱吉くんに頼んで、優しい綱吉くんはそれに快く了解したらしい。山本余計なことを・・・・!なんて、山本に対して思ったのに、本当は綱吉くんが届けてくれて良かったと感じた。昨日のこともバレてしまったかもしれないと思っていたし、今日もメールが届かなくてもしかしたら私のことを嫌いになってしまったのではないかと不安に思っていた心が晴れた気分だ(ちょびっとだけ、山本に感謝してあげない事もないよ)











「あ、そうだ。は覚えてるかな?」





「何、を?」










私がここにいる理由を何も聞かずに急に話を切り出す綱吉くんに、私はグッと息を飲み込んだ。何を覚えているのかと、聞いているんだろう。訳が分からないといった様子で見れば、綱吉くんは苦笑しながら話し出した。












「俺、この犬と一緒にいると会ったことがあるんだよ。まぁ、あの時は犬に怯えちゃったんだけど」




「・・・・(もしかして、中3の時の)」




「確か、その時がと一番初めて話したんだよ」










覚えているかな、ともう一度私に問いかけてくる綱吉くん。先ほど、思い出したばかりのことだ。それを綱吉くんも覚えていてくれたなんて。私もさっき思い出したばかりだけど、綱吉くんは忘れているとばかり思っていた。だって、あの後もクラスメイトだといってもろくな会話をすることもしなかったし、ただのクラスメイトとの会話なんて普通忘れてしまうものだろう。綱吉くんがいつの間にか犬に怯えなくなっていた事にも十分驚いたけれど、綱吉くんがあの時の事を覚えていたことのほうがもっと、私にとっては驚きだった。そして、すごく嬉しかった。












「うん、覚えているよ」









はっきりと綱吉くんに伝える。私が言えば、綱吉くんは嬉しそうに微笑んだ。その顔に、自分の心がさらに高まるのを感じ、た。あぁ、今分かった。何故、私が綱吉くんの笑顔を見ると胸が高まるのか。何故、綱吉くんにと呼ばれると嬉しいという気持ちになるのか。私はどうやらいつの間にか綱吉くんを好きになっていたらしい。だけど、綱吉くんには京子ちゃんがいるから、その事に気付かないようにしていたんだ。そして、心配をかけたくないと思ったのは、私が綱吉くんに甘えてしまえば私はもっと綱吉くんのことをもっと好きになってしまうと分かっていたからだ。私は、綱吉くんのことが好きだ。ただの友達ではなくて、とても大切な一人として。









気付いた気持ちについて

























Next





(2007・12・13)

そして、物語は動き出す