数学教師からの呼び出しのあと、私は裏庭へと来ていた。もう今日はやってられない。このまま、次の数学はサボってやると言う覚悟を決め手の事だ(ちなみに今は昼休みだよ!)まったく、あの数学教師にはもう付き合ってられない。せっかく人が呼び出しに素直に、応じて昼休みと言う貴重な時間に行ってやったのに「あ、もう他のやつに頼んだから」って。あぁ?!ふざけんなよ?!って気分だ。こんな気分のまま次の授業を受けてもどうせ、まともに聞けるわけがない
「(絶対、サボってやる・・・・!!)」
そうと決まればと思いやってきたのがこの裏庭。なんともベタな場所だと思うけど、ここなら木が一杯茂ってるし風紀委員に見つかる事もないだろう(見つかったらヤバイよ!)それに、保健室にはシャマル先生がいるから言えば休ませてくれると思うけど、今日の気分ではできるだけほっておいて欲しい。シャマル先生にセクハラされたら、今日は手加減できる気がしない。本気で殴ってしまいそうだ。
「ねむ・・・」
良い昼寝の場所はないのかと、裏庭でも特に木が生い茂っているところをさがす。日が当たらないところで、風とおりの良いところなんて早々見つかるものではないとは思うけど、もう少しで昼休みも終わってしまうから、どうせなら、昼休みが終わる前に昼寝できる場所を見つけて起きたい。さすがに、5時間目が始まってからウロウロしていて、風紀委員に見つかってしまうかもしれない。そ、それは困るぞと思い少しだけ、焦って昼寝できる場所をさがす。ガサガサと葉を踏みしめて、進む。
「(あ、あそこ良いかも)」
やっとの事で(なんて、捜し始めて10分も経っていないけど)見つけたのは10メートル先ほどにある場所。影となって、適度に風とおりも良さそうなその場所は昼寝にピッタリの様に見えた。私は見つけられた嬉しさで、少しだけ歩調が軽くなる。昼寝できる場所も見つけたし、これで5時間目の数学の授業はサボり決定だ!!ハッ、あの数学の教師も少しくらい私の有り難味が分かれば良いさ!なんて思っていれば、
「あの、」
突然聞こえてきた、女の子の声。それと同時に自分の目に飛び込んでくる、女の子の後ろ姿と、あれは。
「(綱吉くんだ・・・)」
私は咄嗟にしゃがみこむ。裏庭のおかげか、木のかげになって向こうからは多分見えないだろう。それに綱吉くんはどうやら私に気付かなかったらしい。(・・・私はなんて間が悪い女なんだろう)これはどうみても、告白だ。多分それも女の子が綱吉くんに告白してるんだろう。まったくこんなところに居合わせてしまうなんて、今日の私の運の悪さは私をどん底まで突き落としたいらしい。私にとって友達の告白場面なんて居合わせたくないランキングで堂々の1位ぐらいなのに。
「私、沢田先輩のこと好きです」
緊張して少しうわずった声に、予想通りの言葉。何故、居合わせたくない場所のはずなのに私はしゃがみこんだまま、動こうといないんだろう。(だって、今動いたら私がここにいることがバレてしまう)だけど、気をつけて動けば私がここにいることはバレずに、私は居合わせたくない場所から逃げ出すことができるはずだ(一体、何から逃げるんだろう)
私は、ジッと綱吉くんの顔を見た。その顔には、少しだけ戸惑いの色が見られ、やはり困ったように笑っている顔をしている。この顔を見れば、綱吉くんがこの子の思いに応えるつもりはないんだろうと言う事が分かった。少しだけ、ホッとした心。ホッとする理由が、私には分からない。いや、分からないわけじゃない。きっと綱吉くんの彼女は、京子ちゃんだと私が心の中で思っていたらから、綱吉くんがこの女の子と付き合うことがないと分かって安心した、んだ。
「悪いけど、俺君とは付き合えない」
「(・・・やっぱり)」
「だけど、告白してくれてありがとう。君の気持ちは嬉しかったよ」
ゆっくりと微笑む、綱吉くん。その様子は、何だか慣れた様子で今まで何回かこんな風に告白された事があるんだと言うことを思わせた。まぁ、ないはずがないだろう。こんなにかっこ良くて、優しくて、好きにならない子はいないんじゃないかと思う。京子ちゃん、と言う存在がいたとしても、好きという気持ちは止められないと言う事か。叶わないと分かっていても、止められないと分かっていても、好きになってしまう気持ちはどんな気持ちなのか、私には分からない。いや、分かりたくないのだ。
自分が、傷つきたくないから
なんて、自分は弱いんだろうか。あまりの自分の弱さに呆れそうだ。だけど、誰だって好きになるなら、相手にも好きになってもらいたいと思うのが普通だと思う。その好き、が大きければ大きいほど、相手の心が自分のものになることを願うんじゃないだろうか。好きだから、幸せになってほしい、なんて自分が本当にその立場に立ったとき、私はきっと、いえない。
「・・・沢田先輩は最後に一つだけ、質問しても良いですか?」
「うん、何かな?」
「沢田先輩は好きな人がいるんですか」
その質問に、私の心臓が今までにないぐらいドクンと跳ねた。聞きたいような、聞きたくないような焦燥感にかきたてられる。今すぐここから、逃げ出したい。だけど、ここにいたい。何とも矛盾した気持ちが私の中をかけめぐる。沢田くんの好きな人なんて、京子ちゃんにきまってるじゃないか。そりゃ、もしかしたらハルちゃんと言う可能性もないこともない。今さら、こんなに緊張して聞くことじゃない。だって、その質問の答えは決まっているようなものなのだから。(それでも、緊張して息をグッと飲み込んだ)
「うん」
綱吉くんの笑顔。それは幸せそうで、私は一瞬だけ目を奪われた気がした。本当に本当に、その好きな子が大好きなんだろう。(そして、その好きな子は京子ちゃん・・・?)むしろ、これは愛しているの域に達しているのではないのかと思えた。そこで、私はリボーンくんに言われた一言を思い出した。「いや、ツナの事を愛してるかって聞いてるんだぞ」と。あの時は、高校生なんかに愛なんて言葉は程遠いと思っていたのに、今の綱吉くんの顔を見たら、そんな事思えない。だって、あの顔は本当に愛してるんだって顔に見えたから。
綱吉くんと、女の子は何かを言うと、その場から去ってしまった。綱吉くんは今から、真面目に数学の授業を受けるんだろうな。確か、中学の時はサボったりしていたらしいけど、高校(とは言っても同じクラスになってから)では私は綱吉くんがサボったところなんて一回も見た事はない。真面目に授業を受ける、綱吉くん。その姿は私は後ろから毎日見ているのだから(こんな言い方、まるで私がストーカーみたいじゃないか!)私は、2人が去った後、少しの間その場に、とどまった。
「(・・・・愛か)」
遠くでチャイムがなる音が聞こえて、私は先ほど見つけた昼寝できそうな場所へと向う。ゴロンと横になって、目を閉じれば、先ほどの光景がまるで目に焼きついているかのようによみがえってきた。少しだけ、あれほど堂々と好きだと言える人がいる綱吉くんがうらやましく思える。いや、だけど、それ以上に、そんな綱吉くんに思われている京子ちゃんの方がうらやましいと思えたのは、女の子として、好かれている事がうらやましかったのか。それとも(・・・・綱吉くんにそれだけ想われていることがうらやましかったのか)自分の思いが段々と分からなくなってくる。
好きだと言えることについて
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(2007・11・04)
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