女の子に優しくない男は嫌いだ
敵は君のすぐ傍に.1
今日はとても天気が良かった
雲の無い澄み切った青い空の下、お弁当を食べ終わった私は中庭の奥で昼寝をしていた
ここは私専用の昼寝場所といっても過言ではない。この場所で誰か他の人を見たことはないし、
多分知って いるのは私だけだと思うし
日陰になったその場所は草木で隠されていて、私がここで寝ているのは外からは絶対に分からない
だから立海の中でも私の一番のお気に入りの場所で、友達にも教えてない
「・・・ざけ・・なよ!!」
「調・・ってん・・・」
いつもなら静かなそんな場所に、似つかわしくない声が聞こえてきた。
それは意外と近いところから聞こえてくる声のようで、寝ている私にお構いなしに響いた
聞こえてくる声はあきらかに女子のものだと思うのだけど、覚醒しきってない頭はまわらない
その声はどんどん大きくなっていて、最後の方には怒鳴り声となっていた。
一人だけの声じゃない。結構人数がいるらしい
「これ以上、仁王君に近付いたら容赦しないからね!!」
その言葉を最後に数人の走り去る音が聞こえた。私の意識はそこでやっと覚醒して、起き上がる
声のしていた方を草の陰からのぞみこむとそこには一人の女の子が座り込んで泣いていた
どこかで見たことのある顔だと思えば、泣いている女の子は立海でも可愛くて有名な女の子であった
確か私の学年では一番男子にモテているんじゃないかと思う。私がもし男だったら、見た瞬間に告白してい
るかもしれない。
なんでそんな女の子がこんなところに・・・?
思えばさっきまで聞こえてきた罵声は彼女に対してだったのか。
しかし、なぜ彼女のような子にあんな罵声 を言っていた?
一瞬、あの可愛さを妬んでのことだと思ったが、罵声の内容を思えだせばそれが違うことが直ぐに分かった
最後に聞こえてきたのは確か、「これ以上、仁王君に近付いたら容赦しないからね!!」だった
仁王君なんて人この学校にいたっけ?と考えるもそれらしい人は思い当たらない
私が考え込んでいる間にいつの間にか女の子は立ち上がって、おぼつかない足取りで去っていってしまっ
た
あの女の子が呼び出されるぐらいだから仁王君とやらと、あの女の子はすごく仲がよいのだろう
それも仁王くんは尋常ではないぐらいモテるようだ
そうでなければあんなに可愛い子を呼び出すまではしないはず
もしかしたらあの子と仁王くんは付き合っているのかもしれない
だって呼び出されるぐらい仲がよいってことはそれなりにいつも一緒にいるんじゃないかと誰だって思う
あんな可愛いこと付き合えるなんて仁王くんとやらはとても羨ましい少年だな
この学校のアイドルと付き合える男なんてそうそういないだろう
まぁ、どんなに考えても私には関係のないことだ。考えるだけ無駄のなのかもしれない
私は再びもとの場所に戻って鐘が鳴るまで昼寝を楽しんだ
******
放課後、誰もいない廊下を1人歩いていた
教室に忘れ物をしたことに気付いたのは丁度靴を履き替えようとしたところで
別に取りに行かなくても良いかなって思ったのにその日の私は何故か取りに行かなければならないと思っ
てしまった
友達には先に帰ってもらい、私は先ほど出て行った教室の前まで来ていた
教室のドアに手をかけると中に人が残っていたのか声が聞こえてきた
「・・・・まったく真田にも困ったもんだぜぃ」
この声はブン太の声だ。ブン太とは中一の時から同じクラスで結構仲が良い方だと思う
誰と話しているんだろうと耳をたてて中から聞こえてくる声に集中する
「そうじゃな。コートの整備があるなら昨日のうちに言ってほしいものじゃ」
聞いた事のない声。それにこんな珍しい話し方をする人を私は知らない
でも、立海はマンモス校だし知らない人がいても不思議じゃない。むしろ全員の顔を覚えるなんて無理なこ
とだ
ドアを一枚隔てた向こうでまた声が響く
「仁王の言うとおりだな!」
仁王?
ブン太と話している人は仁王というらしい。どこかで聞いたことがある人だと思い出せば昼休みの例の人だ
ここから中を見ることはできないから仁王という言う人の顔もみることはできない
でも会話の内容を聞く限りテニス部だということが分かった
立海のテニス部というば強豪で有名である
いや、それだけじゃない。レギュラー陣はカッコよい人が多くてモテる。
実際ブン太もカッコよいと思うし、テニスコートの周りをいつも女子が囲っている
私にとってはテニス部なんて雲の上の存在で、確かにブン太とは仲がよいけどそれは友達としてだからだと
思う
テニス部を恋愛の対象として見ることは、ない。
叶わぬ恋なんて誰だってしたくないものだ
「そう言えば、昼休み最近お前の周りのいたあの可愛い女の子・・・名前なんだっけ?」
「あー、なんじゃったかの」
「おいおい、忘れたのかよ?」
「確か、野崎と言ったかの」
「その子が何人かの女子に呼び出されるの見たぜぃ」
たぶんブン太が見たのは私が昼休み見た子だろう。呼び出された子の名前は野崎さんと言うらしい。
それにしてもブン太も連れて行かれていくところを見たのな ら助けてあげれば良いのにと思ったが、
その前にあんな可愛い子のそれも仲の良いらしい子の名前を少しの間でも忘れるなんて仁王とやらに不信
感が募る
野崎さんとはあの子が呼び出されるくらい仲がよいと思っていたのに、この男の態度には仲がよかったよう
には思えない
まるで他人事のように聞いているようだ
「別に俺には関係なかよ」
私はそれを聞いた瞬間、頭に血が上ったのが分かった
あの女の子はこいつと仲が良かった為に女子に呼 び出されて、泣いていたのに
なぜ、この男はこんな冷酷なことが言えるのだろうか。
自分に好意を持っている人間にこれほど無関心になれるものじゃない。ましてや、あんな可愛い子に(重要)
まだ声の聞こえてくる教室から私はそっと離れた。これ以上聞いていても、私の怒りが増すばかり
せっかく忘れ物と取りに来たというのにこんな会話を聞いてしまうはめになるとは、思っても見なかった
私はあの女の子の泣き顔を見た後で、あんな言葉聞きたくはなかった
この時から仁王という人間は私の敵になった
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(2007・05・05)