我輩は猫である。名前は・・・・・・吾郎だ。



我が愛おしい妹の新しいお友達のリボーン。まだ赤ん坊の彼はもう既に日本語を華麗に使いこなす俺の新しいお友達でもあるのだが、そんな彼から昨日頂いたのが猫になる薬という奴だった。
俺としては猫耳が生えて、猫のしっぽが生えるぐらいのことかと思っていたのだが目の前の鏡に映る俺はとてもチャーミングな茶色の猫だった。ちなみに手も、いや、この場合は前足も後ろ足は白くまるで長靴を履いた猫。

猫になってもチャーミングな俺。さすが、なんて思わず自画自賛してしまったことは許してもらいたい。



さて、話を戻すがリボーンから貰った薬を俺は面白そうだと思って口にしたのが運のつき、一瞬くらっとしたと思ったらいつの間にかこの姿だ。



そりゃ、俺だって最初は驚いた。手も足も短いうえに、視界も低くなっていて、驚かないわけじゃない。
でも、目の前の鏡を見たらそんなことは言ってられない。


あれ?俺、猫?

……めっちゃ、プリティーじゃない?


数分間、鏡の前で自分の姿を確認した後、開いていた窓から俺は家を飛び出した。ちなみに、自分の部屋から飛び出したわけだが、俺の部屋に全身鏡があったわけではないことは俺の今後の為に追記しておきたいと思う。
そこまで俺はナルシストじゃない。っていうか、自分の姿をずっと見つめているくらいなら可愛い妹を見ておきたいさ!……だが、変態じゃないぞ。


(体が、軽ぃ)


二階にある俺の部屋から飛び出したが、さすが猫の姿といったところだ。
身が軽い上に、足取りも軽やかで二階から塀の上にジャンプしても足も全然痛くない。そこまで、バランス感覚も良い方ではないと思っていたのだけど狭い塀の上だって、すいすいと進める。

猫の姿も良いわぁ

しかし、このままただ猫の姿をエンジョイするというのも楽しくない。猫の姿だからこそできることもあるわけで、とりあえずこの猫の姿で皆に悪戯でも仕掛けてやろうか。
ククッと、思わずこみ上げてきた笑みは猫の姿だと、さぞ可笑しなものだったかもしれない。


自分で言うのもなんだが、可愛げのない猫だな、おい。



にゃん!



















にゃんにゃんにゃん。

にゃんにゃんにゃん。



軽やかなステップを踏みながら、道路を歩く。いつもより足が短いせいか学校までの距離が遠く感じるがまぁ、それもいたし方あるまい。今はこれからのことを考えるだけでニヤニヤしてくる。


ふふ、どんな悪戯をしてやろうか。

(やっぱ、猫の姿だからしかできないようなことしてぇよな)


だけど、猫の姿だからこそできないような悪戯ってどんなのがあるだろうか。とりあえず、我が愛しの妹にはこの姿で思いっきり甘えることはもう既に決定事項だ。
普段は蔑ろにされている俺だが、あいつは何だかんだいって動物好きだし、今のこの俺のプリチーな姿をみればの可愛いもの好きの血が騒ぐに違いない。



…やっべ、よだれでそうだわ。



可愛い可愛いが思いっきり抱きしめてくれるなんて夢のまた夢だと思っていたのに!まさか、こんな素晴らしい日がくるだなんて!
思ってもみなかった現実に俺は少しだけ歩調が速くなってきて、華麗なステップを踏みしめる。こんな可愛いにゃんこがこんな華麗に歩いていたら、テレビの取材できそうだよな。
自分のことながら、うんうん、と頷けば、見えてきたのはある学校。


さてさて最初の被害者は誰かな?俺、頑張っちゃうよ!!


にゃん!



















にゃんにゃん、と足取り軽くたどりついたのはある人物の家。一番最初に思いついた人物への悪戯に俺はふふふん、と笑みがこぼれでる。可愛いニャンコ姿で突撃となりの晩御飯!なんてしたのは世界でも俺が初めてじゃないんだろうか。
まぁ、隣の家でもないし、別に晩御飯を食べにきたわけじゃないんだけど。それでも、ノリはそんな感じで俺は学校からいきなり方向展開をして、ある人物の家へと来ていた。

まぁ、学校行ってから今日が休日だったことを思い出したっていうのは内緒だ。たまにはこんな間違いだって人間なんだからあるだろう。



……今は可愛い可愛いにゃんこなのだが。



空いていた窓からするり、とぬけて、階段をとことことのぼる。家の中が静かなところを見ると、どうやら今日は家にはだれもいないらしい。ちょっと泥棒気分なのだが、ものをとるつもりはないので不法侵入くらいは許してもらいたい。


さて、見えてきたドア。そのドアにかけられたプレートにはYUKIの文字がある。
先に言っておくが、この部屋の主の名前はゆき、じゃない。ゆうき、だ。とは言っても、普段学校では名字で呼ばれているし、なおかつその名字でさえまともに呼んでもらえないような奴じゃないから覚える必要は皆無だ。

そして余談ではあるが、いつか彼女ができたあかつきには名前で呼んでもらいたいなんて戯言をぬかしていた。



ハッ!笑わせるな!……なんて思わなかったこともない。



ゆっくりと少しだけあいた隙間へと前足を上手く使い、侵入する。部屋は男らしい部屋というか男子中学生の部屋らしく適度にあれていた。
本当はここでベッドの下やら、見てやろうとも思ったがプライバシーにも関わるし(もう既にかなりプライバシーにかかわってる気もするが、)あいつのことだそれらの類のものはきっともっていないことだろう。


あれらの類のもの、が何なのかわからない人はそこは深くつっこまないでほしい。分かる人は分かる人で、胸の中にそっとしまっておいてくれ。



(なんだ、また寝てるし)

ベッドの上で丸くなっている人物。



もうお気づきの方もいるかもしれないが、そこには田中が寝ていた。してやったり、とほくそ笑むにゃんこな俺はベッドへとかろやかに飛び移る。その振動でも起きないところをみると、田中は寝入ったらなかなか起きないタイプのようだ。



「にゃん、」



可愛い可愛いにゃんこボイスで田中を呼ぶ。気持ちとしては、さっさと起きろこの野郎、という気持ちがこもっていたりするのだがまるで鈴の音のような可愛らしい声がでた。
俺の声に少しずつ反応を見せる、田中。ゆっくりと開いた目には可愛い俺の姿がうつっていた。



「ね…ねこ?」
「にゃーん」

「……か、可愛いー」



俺の可愛いさに田中もメロメロらしい。こいつの場合は元から動物好きな性格だというのもあるのだが、いきなりあらわれた俺にも動じた様子も見せずに手をのばして、撫でてくる。それも、こいつ。なかなか凄い。
にゃんこのツボを心得ているのか、気持のいいところを撫でてくれる。思わずそのままされるがままになっていたのだが、俺はここへと撫でられるためだけにきたわけじゃない。


……俺は、ここへいたずらしにきたんだった!



「猫、お前名前はなんて言うんだ?」


寝転がったまま俺を抱きかかえようとした田中の手をかろやかにかわして、俺は高く高くジャンプしてボディへと着地する。何とも言えない言葉が田中の口からこぼれ、俺は田中の腹からどいた。
ふふ、良い気味だな、田中。俺はまだお前に食われたの作ったクッキーの恨みを忘れたわけじゃないんだぜ?


悶絶する田中。その傍らで笑うにゃんこ。なんともシュールな絵だ、と思いながら悶絶する田中を横目に時計に視線をずらした。まだまだ悪戯してやりたい人物はたくさんいるから、こんなところで時間をとられるわけにはいかない。
時間を確認した俺は、ベッドから飛び降りると田中はそのままに田中家……失礼、中田家を後にした。


次は誰を標的にしようか。思いうかんできた人物はあいつだった。


にゃん!



















なんて俺は運が良いのだろうか。田中の家を飛び出した先に出会った人物。その人物に抱えられて、俺は実に優雅に移動をしていた。
この体になって身軽になったのは事実だが、人間のときとくらべて足が短く、移動が遅くなったのも事実である。


そんな俺をすくってくれたのが、このフランスパン、いやいや、違う違う、この草壁くんだ。


偶然田中……中田家を出た瞬間に見回りをしている草壁くんを発見した。を通して知り合った草壁くんは本当に何であんな奴の下にいるのだろうかと思うくらい良い奴だった。
これじゃあ、が懐くのもしょうがないな、と思わず納得してしまったくらいだ。とは言っても、良い兄貴役は譲るつもりはこれっぽっちもないのだが。

まぁ、今はそんな話はさておき、見回りしていた草壁くんを見つけた俺はこれ幸いと草壁くんへと駆け寄ったのだ。



理由?そんなもの一つに決まっている。



学校が休みだろうと休みじゃなかろうといつでも学校にいるあいつ。今回の標的はそう、雲雀だ。

いつもいつも俺の可愛い可愛いをこき使ってくれている雲雀にお返ししてやらなくては俺の気もおさまらない。しかし、とても残念なことに今のこのにゃんこな姿で並中まではちょっと遠い。
そう思っていた矢先に、俺の目の前へと現れてくれたのが草壁くんだった。
なんて俺は運が良いんだろうか!性格も顔も良いっていうのに、運まで良いなんて俺最強かもしれない、と思ったのは余談である。


昔からあるドラマや映画の中では不良っていうものは動物が大好きだっていう設定が多い。その設定を信じてにゃーんと可愛い声で見上げれば、思ったとおり草壁くんは俺へと手を伸ばしてきた。フランスパンなのに。

優しい草壁くんはきっとフランスパンじゃなくなったらモテることだろう。俺としてはフランスパンも、十分にかっこいいと思う。まぁ、俺は似合わないと思うからしないけどな。



そして、見回りの帰りだったという草壁くんの腕に抱かれて俺はあいつがいるであろう並中へと向かっている。ごつごつとした腕の中というのは気に食わないが、この際文句なんて言ってられない。
そりゃ、抱かれるならに抱かれたいけど、まぁ、きつくはないし、足も痛くないし、これはこれでありなのかもしれない。

たまに通り過ぎる人が俺を見て目を丸くして草壁くんと俺を交互に見やっていたりするのが視界に入ったが、気にせず俺は欠伸を一つこぼした。どうせ、そいつらは俺のような可愛いにゃんこが見る限り不良やってます、という草壁くんに抱かれているのに驚いているに違いない。


「にゃーん」
「ん?どうかしたか」


俺の声に反応を示す草壁くん。本当は会った人、会った人に悪戯してやろうと思っていたのに毒気を抜かれた気分だ。草壁くんに何かしてやろうか、いや、でも、もし、万が一にでもこのことがにバレでもしたら俺の晩御飯一週間分は保障されない事だろう。
以前、三日間にご飯を作ってもらえなかった時はちょっと悲しかった。の優しさなのか、ご飯だけは炊いておいてくれていたのだが。


どうしようかにゃーんと考える。でも、今まで草壁くんに何かされたわけじゃないし、それにがお世話になってる人に悪戯を仕掛ける気にもならない。もっと言うならば、を見る目に邪なものを感じないっていうのが一番の理由かもしれない。これが六道骸だったりしたら、俺は容赦なくこの鋭い爪で木っ端微塵にしてやったんだけどなぁ。
それに、休みの日も見回りなんてしてる草壁くんは雲雀にこき使われまくってんだろうし…しょうがねぇ。


俺だって鬼じゃにゃい。ここは悪戯せずに草壁くんを俺の可愛さで癒してやろうじゃないか。


ごろごろーと草壁くんに擦り寄る。何回も言うように、どうせなら可愛い可愛いに擦り寄りたいのだが、まぁ、ここは我慢だ、我慢。擦り寄る俺に草壁くんは目を細めて、軽く笑った。
にゃーん。たまにはこんな天使にゃんこでもよいだろう。


小悪魔にゃんこはただ今、閉店準備中にゃ。


にゃん!



















さてさてやってきてやったぜ、並中ぱらっだいす!並中についた瞬間に草壁くんの腕から飛び降り、俺は雲雀がいつもいるという噂の応接室にまでやってきていた。
ふふん、まっておれひばりきょうや!今日こそは妹の恨み晴らしてやるぜ!!


……と、意気込んだのはよいものの、応接室の扉はしっかりと閉じられていた。


俺は、ちょっと踏ん張って後ろ足を使って立ち上がる。しかしながら、頑張って前足を飛ばしてもドアノブへとは届かない。プルプルと震える体。おい、ちょっと誰か助けろ!こんな可愛いにゃんこが頑張ってるんだぞ!と思ったところで、応接室前の廊下には誰もいない。
なんだ、この仕打ち。くっそぉ、と思い体制を立て直す。俺は負けない!気合を新たに今度はドアノブめがけて、ジャンプしてみた。高さはばっちり、だがドアノブは回らない。


「にゃ、にゃーん…」


力ない声が零れる。もう、駄目かもしれない。折角ここまで来たというのに、悪戯もできないまま帰るなんてことしたくにゃい。
諦めきれない俺は、かりかりと前足でドアを引っかく。もうこの際、爪でもここでといて帰るか、と思いながらもカリカリと引っかいていれば、いきなりドアが開いた。
もちろん、応接室にいる奴なんて一人に限られている。こちらを見下ろしてくる奴。



「…なんで、こんなところに猫がいるの」

「にゃーん!」



一瞬目的を忘れてしまうくらいに、喜んでしまった。いや、だって、開いてほしくてたまらなかったドアが開いたんだぜ?そりゃ、喜ばずにはいられないだろう。
しかしながら、中田のときの教訓が一瞬忘れはしたものの、俺はすぐに目的を思いだした。

でたにゃ、雲雀恭弥。今日こそは長年の恨みを果たしてやる!

にゃーんと、俺は雲雀恭弥へと飛びつく。雲雀は驚いて足を一歩後ろへと下げたものの、俺を軽やかにキャッチした。チッ、なかなか運動神経よいじゃねぇか。内心、悪態をつきつつも俺は雲雀へと寄り添う。
ほら、可愛いだろ。こんな可愛いにゃんこに懐かれてうれしいだろ。


「…」
「にゃーん」


雲雀の手が俺の顎へと伸びると、ゆっくりと撫でた。なかなか動物の扱いがなれてそうな、手つき。どうやらこいつも不良の癖に動物好きのようだ。並盛最強と呼ばれる不良さまのくせによぉ。と思わず笑みがこぼれ出る。



(よし、あとでにも教えてやろう。並盛最強の不良はただの猫好きってな。)



しかし、可愛い俺に懐かれているというのに、雲雀の表情に変化は見られない。草壁くんだって俺を見て微笑んだって言うのにこいつの表情筋は大丈夫なのだろうか。
普通こんな可愛いにゃんこを見たら自然と笑みがこぼれ出るっていうのに。
仏頂面で俺を撫で続ける雲雀。それがなんだか面白くなくて俺は、俺を抱いたまま応接室の中へと戻った雲雀の腕から離れる。降りた先にはたくさんの書類の山。無造作に積まれたそれらを、俺はにゃんこキックや、にゃんこパンチで散らかしてやった。


へへ、どうだ!参ったか!


折角仕上げた書類たちを散らかされるなんて、ムカつくことこの上ないだろう。本当なら悔しがる雲雀の顔を見てやりたかったのだが、この体でトンファーで攻撃されるのは困ると思い、俺は早々にその場を後にした。走り回るだけ走り回って、書類を散らしてドアから逃げる。

にゃにゃーん、と俺の声が高く高く誰もいない廊下に響いた。


(せいぜい床に這いつくばって書類を片付けるんだな!)


してやった、という高揚した気持ちに、この時の俺は気づくことがなかった。散らかった書類を誰が片付けるかなんて。まさか、自分の可愛い妹が片付けさせられるなんてこの時の俺はまったく気づくことがなかったんだ。

くっそぉ、雲雀の奴。覚えてろよ!



にゃん!










(2009・08・17~19)
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