6
雲雀に仕返しをした俺は気分もよく並中を飛び出した。そして、運が良いのか悪いのか飛び出したすぐそこで獄寺くん、もといごっきゅんに出会ってしまった。
不良はにゃんこ好き理論を先ほどまで展開してきたが、こいつの場合不良と言い切れない気がして何とも言えない。
だってこいつただの沢田くん馬鹿だろ?
タバコ吸うは、指輪じゃらじゃらしてるは、見た目は不良そのものだが沢田くんを目の前にしたら忠犬にしか見えない。そんな奴を不良といってしまってもよいのだろうか。
まぁ、不良とはいっても草壁くんなんかはすごく良い奴だから、何とも言えないのだけど。
いや、ごっきゅんがネコ好きだろうが、ネコが嫌いだろうか俺の可愛さにメロメロにならないはずがない。結果的には悪戯をしかけることには変わりはないし、もしもごっきゅんがネコを嫌いだったとしても近づいてしまえば引っかいたりできるはずだ。
なんていったって、ごっきゅんは雲雀とは違って、ただの沢田くん馬鹿だからな!
要するに頭の出来はすごく良い(らしい。から聞いたいらない情報ベスト)肝心なところでは抜けている奴なのだ。
それにごっきゅんには、ひとの妹を馬鹿女呼ばわりするは色々恨み云々はある。ひとの可愛い可愛い妹を馬鹿呼ばわりするとは何て奴。本来なら地獄にでも落としてやろうか、あ゛ぁ゛?と言ってやりたいが、さすがにこのにゃんこの姿で、できることも限られてくる。
まぁ、だけど。
にゃんこの姿でも最大の悪戯をごっきゅんには仕掛けてやるけどね?
なにやらビニール袋を片手に歩く姿は、不良にしか見えないごっきゅんの後を追う。
どこに行っているんだろうか、と思ったがビニール袋の中身がちらっと見えた俺には容易に推測できてしまった。
(……東京ばななって)
うぉーい、と思わずつっこんでしまいそうになったのはおれだけじゃないだろう。いや、良いけどね。別に良いんだけどね。お土産と言えば東京ばななってくらい有名なものだし。
でも、きっと周りの人たちはあんな眉を寄せて歩いているような不良が持っているビニール袋の中身が東京ばななとは思いもしてないんだろう。しかし、あれを持っている、ということは今からごっきゅんは沢田くんの家に行くにちがいない。
本当にあいつ沢田くん馬鹿なんだな……と、憐れみの視線を思わずにゃんこの姿ながらも、送ってしまった。
ごっきゅんはすぐ後ろを歩く俺に気づきもせずに淡々と歩いて行く。
そろそろ気づいてくれないと、俺としては将来こいつ本当に沢田くんの右腕になれるのかよ、と少々心配になるのだが……やはりごっきゅんは一向に気づく気配を見せない。
おま、さすがにそろそろ気づけよ!もうすぐ沢田くんの家についちゃうじゃん!
沢田くんに悪戯なんてしようものなら、俺はきっとに殺されることは間違いない。それに沢田くんはよい子だし、まぁ、に手を出そうものなら、容赦はしないが友達として付き合うなら別にかまわないと思っている。
ましてや、沢田くんは超直感というすごい能力を持っているし、もしかしたら俺が吾郎だとバレてしまう可能性も無きにしもあらずだ。
まだまだ沢山の人に悪戯をするつもりだから、こんな早い段階でバレるなんて困る。
うぬぬ、と眉が寄るのを感じながら(いや、にゃんこだから眉はねぇけどな!)(雰囲気だ、雰囲気!)俺はささっとスピードを上げて、ごっきゅんのすぐ傍へと近寄る。
やるなら沢田くん家に着く前に、だ。
「にゃあ」
ごろごろ、と喉を鳴らしながらごっきゅんへの足へとすり寄る。
さぁ、突然現れた可愛いにゃんこ!お前ならどうする、ごっきゅん!と似非不良のごっきゅんを見上げた。
「な、なんだぁお前?!」
「にゃあ」
目を見開きながら驚いているごっきゅん。
ふはは、俺の可愛さにまいったか。どうだ、くぁいいだろ。俺ってばすごい可愛いだろ。そんなことを言いながら(とはいっても、出る言葉はすべてにゃあだけど)さらにすりよれば、ごっきゅんは困惑したような顔をうかべていた。
なんで、こんな顔してんだ?と思っていれば、ごっきゅんの両手が俺へと伸ばされて、俺はいつの間にかごっきゅんに両脇を抱えられて持ち上げられていた。
突然のことに少し動揺はしたが、俺はすぐさま目的を思い出し、にやり、と笑った。
(ふふふ、油断したな獄寺隼人!)
シャキンと、爪を出す。そのおきれいなかお(俺の顔のほうがきれいだけどな!)(……今、勘違いだって思った奴表に出ろ!)に爪痕を刻んでやるぜ、と意気揚々に俺は深く息を吐いた。
よし、やってやるぞ。そう覚悟を決めて、飛びかかろうとした。
のだけど、それよりも早くボソッとつぶやかれたごっきゅんの台詞に俺は固まった。
「……瓜の奴にはこんな懐かれたことないんだけどな」
「(か、かわいそー!!)」
あまりの衝撃の一言。可哀想すぎるその言葉に俺は何もできなかった。瓜、と言えばごっきゅんの愛ネコ(まぁ、ボックス兵器ではあるけど)だ。そのネコにいまだに懐いてもらえない、ごっきゅん。可哀想すぎてなにもできなくなるのも仕方がないことだろう。
恐る恐る俺をなでる手に、俺は結局ごっきゅんに悪戯を仕掛けてやることはできなかった。
いや、できるはずがない。俺はそこまで悪党じゃない。
俺は沢田くん家のほうへと歩き出したごっきゅんの背中を見つめながら、頑張れ、と心の中でつぶやいていた。まぁ、次あったときまた人の可愛い妹を馬鹿呼ばわりしやがったらその時は容赦しねぇけどにゃ!
にゃん!
7
さぁて次の標的は誰にしようか。
先ほどは結局某G氏があまりに可哀想に思え俺は奴に悪戯をすることができなかった。次こそはなんとか悪戯を成功させてやりたい気持ちで辺りを見渡す。まぁ、こんなときこそ、こう、悪戯しても俺の繊細な心が痛まないような奴が来てくれれば言うことなしなのだが……なんて、大概誰を相手にしても心が痛む気はあまりしないけど。
俺の心は確かにとても繊細ではある。が、正直それはあの可愛い可愛い妹を相手にしたときにしか発動しないのだからしょうがにゃい。
つーか、なんで俺がむっさい男相手に心を痛めなきゃいけねぇんだよ。
「おやおや、変な猫がいるかと思えばあなただったんですか」
「にゃ?」
聞き覚えのある声(聞いた瞬間にぶっとばしたくなったんだけどな!)に振り返ればそこにいたのはパイナップルだった。
いや、本物のパイナップルだったらどれだけ良かったことか。本物のパイナップルだったら妹へのお土産にもできる。だが、俺の目の前にいるのはただの甘い果実のパイナップルではない。
見た目だけはパイナップルによく似たパイナップルもどきであった。
(もしかして俺に話しかけてる?今俺の姿間違いなく猫なんだけど)
それもこのパイナップルもどき、俺の正体をみやぶっているらしい。現に周りに猫一匹、おまけに人一人いないにもかかわらず、パイナップルもどき改め六道骸の視線はまっすぐにこちらを向いている。
いや、でも、まて。
変な猫なんてここにはいない。俺は誰もが振り返るような、実際既に何人かの男をメロメロにした超プリティーな猫である。上質な毛並みに愛くるしい瞳。家を出ていく前にみた鏡に写っていた俺は、言いようにないくらい可愛い猫であったはずだ。
決して六道骸がいうような変な猫なんかではない。六道骸には俺には見えないにゃんこが見えるのだろうか?輪廻の果てに行ってたくらいだからそれもありえるかもしれないけどな、と思わず首をかしげれば、六道骸は呆れたような表情でこちらを見下ろした。
「紛れもなくあなたのことですよ。まったく趣味の悪い猫ですねぇ」
「にゃー?!」
(なにー?!)
六道骸はついに目もやられてしまったんだろうか。元々頭がやられているとは思っては、というかわかってはいたが…まさかここまで手遅れ、だったとは。
だって、この俺のどこが変な猫だ!
茶色い毛はまるでトリートメントをした後かのようにさらさらで、ましてや長靴を履いたように四肢の毛は真っ白い。さらにはまん丸い瞳は星を目に宿したかのようにきらきらと輝いている。
自分で言うのもなんだが、
あぁ!にゃんて!すてきなにゃんこ!
間違いなく猫の世界でも1、2を争う愛らしさだろう。はは、そんなことは言われなくても分かっているさ。みんな俺にめろめろにゃんてことはにゃ!!
「にゃんにゃんにゃー」
(なんで俺のことが分かったんだよ)
と、俺のかわいらしさはさておき。今の俺は紛れもなくどこからどう見ても、猫の姿のはずである。現に普段は六道骸と変わらない高さの視線が、今日は頭が痛いくらいに見上げなければこいつの顔を拝むこともできやしない。
ましてや、人間の時とは見た目は大違いだ。それなのになぜこいつは俺が吾郎だと分かったんだろうか。
なんだ、こいつ。実は俺のストーカーだったのか?俺のかわいさからならストーカーがいるのも考えられないことではないが、こいつが俺のストーカーとかやめて。気持ちが悪すぎる。
そんな風に思いながら目の前の奴を見上げれば、身をかがめて眉をよせ「気持ち悪いことを考えるのはやめてくれませんか?不愉快です」と本当に嫌そうな表情で言った。
俺だってお前がストーカーとか不愉快きまわりねぇよ!
「僕ぐらいの能力があれば分かりますよ。それに君はわかりやすいですからねぇ」
「にゃー」
(うっぜぇぇぇぇ)
クフフ、といつもの笑みをうかべてこちらを見下ろす六道骸の視線がむかつくことこの上ない。なんではこんな奴と知り合いなんてやっているんだろう。
いつも口を酸っぱく言ってはいるが、今日帰ったらにはもう一度ちゃんと言っておこう。変態には気をつけろ、と。
以前こう言ったとき何ともいえない目で見られたが、あれはたぶん俺の見間違いだ。「え?それを吾郎が言うの?」なんて言われた気もするが……それもきっと俺の聞き間違いだったに違いない。
決して!見間違いでも、聞き間違いでもなかったなんて、俺は認めない(だって、認めたら涙がでちゃう!)
「しかし、猫になっても相変わらず憎たらしい瞳ですね」
「にゃー」
(お前に言われたくはねぇよ)
あー、もう。なんで今はこの通りに人がいないんだろうか。
人が通っていればこの男、猫に話しかける変態。と周りからは認識されていたことだろうに。
あぁ、この場に人がいないのが非常に残念である。人がいれば何あいつ猫に話しかけちゃってアバババな展開になっていたはずなのに。いや、しかし。こいつ髪型云々はさておき顔だけは良いから(もちろん俺には劣るが)(…やだ!そんな冷たい目でみないで!)もしかしたら動物にあんな風に話しかけて心優しい人なのでウフフなんてとらえられない可能性も考えられないことではない。
みなさん。こいつただの変人なんだぜ?たぶんきっと、俺よりも変人だと思うぞ。
(あれ?でも、これってもしかしなくてもチャンスじゃね?)
今日の俺の当初の目的。若干、色々思うところもあって成功例は少ないがオレの当初の目的は猫ならではの悪戯だったはずだ。
今目の前にいるのは憎きパイナ、おっと間違えた、六道骸。
いたずらの相手にはもってこいの相手である。ましてや、これが成功すればきっとからも満面の笑みで迎えられるんじゃないだろうか(もちろん猫の姿になっていたことは企業秘密だけどにゃ!)
「六道骸、覚悟ぉぉ!」
すっとこちらに片手を差し出して身を屈めた六道骸に俺の瞳がぎらっと鈍い光を放つ。ふはは!こんな姿だからと油断したのが命取りだったな!俺は爪をサッとだすと全力で目の前の六道骸の顔へと右手(右前足だな)を繰り出した。
六道骸はいきなり俺の行動にとっさに身を後ろへと戻したが一歩遅く、俺の思うままにその攻撃をうけた。
「なっ……!」
「にゃ!」
風に舞いパラパラと六道骸の髪の毛が落ちていく。見事な身のこなしで足をつけた俺が見上げた先には、すっばらしい俺のカット技術により前髪がパッツンになった六道骸がいた。
ちょうど眉の下で切りそろえられた前髪のまま信じられないといった表情で、こちらを見下ろす六道骸。
本人は未だに自分が何をされたのかよくわかっていないんだろう。だが、俺はそんな奴が正気に戻るのを待てるほど優しくはない。
「にゃんにゃんにゃー!」
これにこりたらうちの妹に手をだすんじゃねぇぞ!
気持ちとしてはおもいっきりドスをきかせた低い声を出し、まぁ、実際は高いにゃんこ声だったのだけど、俺は立ち尽くした六道骸に背を向けて走り出した。あいつのことだから幻術どうのこうの言って何かしでかしてくるのかと思ったが、あまりのショックになのかあいつが追いかけてくることはなかった。
あぁ!なんてすがすがしい気分!猫の姿だからこそのイタズラかはさておき、あの六道骸の前髪を思い出しておれはふふふ、と走りながらも笑いをこらえることはできなかった。
顔に怪我を負わせなかったことだけ感謝しにゃ!
ただ、にゃんこじゃなかったら写メでも撮っておけたのがただ一つの心残りであるが。
(2011・12・25)
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