呼び名が特別なんじゃない
貴方が呼ぶから特別に聞こえるんだ
君の名を呼ぶ <前編>
「〜」
教室の外からだらしなく私を呼ぶ声が聞こえた。別に誰かなんて見なくても容易に分かる
私のことを名前で呼ぶなんて、男子の中じゃコイツぐらいだ
「どうしたの、千石?」
ドアの方に行けば、思ったとおり女好きで有名な幼馴染が立っていた
「今日の放課後デートしない?」
「するわけないじゃん」
「即答?!そんなこと言わないで幼馴染の為に放課後デートしようよ〜」
私はなんだかんだ言って千石に弱いと思う。今まで千石に頼まれごとをされたら今までに断れたためしがない
もちろん千石に弱いという理由だけでなく・・・・好きだからという理由もあるから思うけど
「はぁ・・・分かったよ」
私はこの幼馴染兼片思いの相手に貴重な放課後の時間をささげることになってしまった
「やっぱ、俺ってラッキー!!」
ついさっきまで暗い顔になっていたというのに、もう嬉しそうに笑っている
期待をしてはいけないと分かっていても、この嬉しそうな顔を見るとついつい期待してしまいそうになる
でも、多分千石も私が断るはずがないっていうことを分かっていたんだろう
私は都合の良い幼馴染でしかないんだから
「キヨ〜、今度は私ともデートしてよ?」
「もちろんだよ。奈美ちゃんから誘ってもらえるなんて本当にラッキーだなぁ♪」
目の前で鼻の下を伸ばしているコイツを全力で殴り飛ばしたいと思うと同時に、
コイツは本気で誰かを好きになるなんてことないんじゃないかと心配になる
この前の校内新聞でも好きなタイプは女の子と書いていたし、千石が本気で好きになる子なんて想像もつかない
「じゃあ、。放課後迎えに来るから」
いつの間にか"奈美ちゃん"はいなくなっていたらしい
「分かった。でも、部活はないの?」
「大丈夫!!南には言ってあるから」
そういい終わると同時にチャイムがなって千石は自分の教室に戻っていった
私も自分の席に着き、社会の教科書とノートを机の上に置いた
そういえば千石と出かけるのも久しぶりのような気がする
最近は部活にも真面目にでているようだし、女の子と遊ぶ回数も以前よりは減ったんじゃないかと思う
まぁ、私の場合は女の子にはカウントされないと思うのだけれど
でも、今日部活を休んで私をさそったのは何でだろう
そんなこと考えても私は千石じゃないから答えはでない
千石のことだから何も考えてないような気もする・・・
それでも私は久しぶりに千石と出かけられると思ったらすごく嬉しくなった
時間は過ぎてただ今、放課後
クラスメートが帰って行く中、千石はいつまでたってもあらわれない
イライラして待っていると千石が走って教室に入ってきた
「ごめん、!!」
「・・・・」
「急に先生に呼ばれて、本当にゴメン!!」
「・・・あと5分遅かったら帰ってたからね」
さっきまでイライラしていたはずなのに千石が急いで来てくれたのが分かるとイライラもなくなっていた
むしろ私の為に急いで来てくれたのかと思うと嬉しくなった
期待してはいけないと分かっているけど
「で、今日は何処に行くの?」
「フフ〜、それは着いてからのお楽しみだよ」
何やら含んだ笑いをする千石が薄気味悪かったけど、気にしないでおく
そして私たちは目的地までくだらない事を話しながら向かった
「よし、着いた!!」
着いたと言われ看板を見れば喫茶店という文字が
「ここのケーキがとても美味しいんだよ」
カランカランという音とともに中に入ればそこには夢の世界が広がっていた
目の前には色とりどりのケーキが私たちを迎えていてくれる
とりあえず窓際の席に向かい合うように座った
「ここのおススメはモンブラン」
「モンブランかぁ」
ここのおススメはモンブランらしい
その情報も誰か他の女の子と行ったときに聞いたのかと思うと少し気持ちが沈んだ
少し待っているとモンブランが2つと飲み物が運ばれてきた
確かにモンブランを一口食べれば美味しかった
でも、心のそこから美味しいと思えないのは何でだろう
「で、今日はなんの用事だったの?」
千石の用事がこれだけなんてとてもじゃないけど思えない
デートを楽しみたいなら他の可愛い女の子が千石の周りにはたくさんいるし
「用事がないと誘っちゃ駄目?そんなキヨ寂しい〜」
呆れた顔で千石を見つめていると、急に千石が真面目な顔になった
こんな千石の顔久しぶりに見るかもしれない、いや初めてか?
どちらでも良いけど、なんだか少し怖い
私の目を見ながら千石は重い口を開いた
「なんで名前は俺のこと名前で呼んでくれないの?」
私のスプーンを持っている手がとまった
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(2007・04・01)