急いで学校へと行き、携帯を取り出し再び吉田にへと連絡をする。だけど、何回か電話をしても吉田がでることはなく、私は、どうしようかと悩んだ(あいつ、何してんだよ!)(呼び出したのは吉田の癖に!)イラついてくる気持ちを抑え、もしかしたら、吉田も一応、風紀の仕事で学校にいるわけだし今大切な用事があるのかもしれないと思い、携帯を鞄の中に直すと私は生徒のほとんどいない学校内へと足を踏み入れた。
休日と平日じゃやっぱり学校の雰囲気が全然違う。
そんなことを思いながら時々見かける風紀委員を避けながら特にすることのなかった私は自分の教室へと向かう。ガラッと音をたててドアを開けて、教室の中を見渡す。そう言えば、英語の宿題が出されてるんだったと前の黒板に書いてあった文字でそのことを思い出し、私は顔を青くした。やばい、まったく忘れててまだ1ページもしてない。確か、ゴールデンウィークだからとたかがそんな理由でいつもより多く出されてたような気がする。今
日は雲雀さんの誕生日パーティーをした後は徹夜かな、と夜のことを考えて涙がでそうになった……頑張れ、。英語くらいどうってことないよ。
「(それに、その前に雲雀さんのプレゼントの方が大切だよね!)」
私にとってはまだやってない(終わる気配も見られない)英語の宿題なんかより、雲雀さんへのプレゼントに何をあげるかのほうが何倍も何十倍も大切なことだ。確かに英語の宿題が気にならない、なんて言ったら嘘になるけど、でも本当に雲雀さんの誕生日の方が気になるのは事実だ。まさか、私がこんな風に雲雀さんの誕生日を祝うことになるなんてなぁ。きっと、お母さんとお父さんが再婚しなかったら絶対にありえかったことだろうと思う。
そもそも再婚がなければ雲雀さんとこんな風に仲良くなることなんてなかったんだろう。そう考えると、みんなが知らない雲雀さんを知ることもできて、お母さんとお父さんには本当に感謝しないといけない、と思う。
「お前、こんなところにいたのか?」
「あ、吉田だ」
ふと後ろからかけられた声に振り返ればそこには吉田が立っていた。どうやら吉田の話によると見回りの途中だったらしい。何回も電話したのに、と言えば、さっきまで委員長のところに風紀委員が呼び出されたんだよ、と言われた。あぁ、ならしょうがないか。雲雀さんの前で堂々と電話なんてできるわけがないし、そもそも、私も困るしね!
「それで雲雀さんの欲しいものってなに?」
「あー、うん。よし、じゃあついて来い」
そう言われ歩き出す吉田。私としてはさっさと聞いてそれを買いに行きたいのに、と思いながらもなんだか聞くに聞けずに吉田の後を大人しくついていった。学校内を悠然と歩く吉田。
あぁ、こんなところで雲雀さんに会ったらどうするんだよ!と思っていれば、私の視線の先に応接室とかかれたプレートが目に入った。あれ?と思っていれば、吉田の足はちょうど応接室の前でとまった。
「えっ、っと吉田。これってどういうこと?」
「ほら、早く入れよ」
「いやいや、入れよじゃないって!!入れるわけないから……!」
応接室と言えば、悪の総本山……じゃなかった、雲雀さんがいることで有名で、もしかしたら今も雲雀さんがここにいるのかもしれないのに、それなのに入れるわけなんてない。な、何言ってるんだよ吉田!と思い怪訝そうな目で吉田を見れば、吉田はそれはそれはすがすがしい顔をして「頑張れよ」と言った。
何を頑張れって言うんだ!と言おうとした瞬間に吉田から押される反射的に目をつぶる。そして、ドアの開く音としまる音が聞こえたと思ったときにはすでに私は応接室の中へといた。あいつ、絶対許さない……!と思うよりも先に目の前を見据えれば、目を僅かに見開き驚いた顔をしている雲雀さんの姿。
「っ、?!」
「あははっは、こ、こ、こんにちは、雲雀さん」
挙動不審すぎるから私!なんて思っても、頬を流れる冷や汗を拭うこともできずに私は、ただただ引きつった笑みを雲雀さんに向けることしかできない。
吉田の馬鹿。吉田の馬鹿。まるでお経のようにとなえても吉田に届くわけもなく、そしてそれが目の前にいる雲雀さんに届くわけもなく、私はどうすることもできなかった。
「……なんで、君がここにいるわけ?」
「えっと、その吉田に呼ばれて」
と言った瞬間に僅かに雲雀さんの瞳が鋭くなり、私はその先を紡ぐことができなくなってしまった。ど、どうする私!この場所にいてもたってもいられずに踵を返し、ドアノブを掴む。だけど「」と雲雀さんに名前を呼ばれて、ドアノブをひねることができない。
はぁ、と息を吐きもう一度私はよく考えた。自分はどうしてここにいるのか、と。確かに吉田に呼ばれたのは事実だけど、私はここに雲雀さんのプレゼントをどうすればよいのかを聞くために来たんだ。もしかしたら吉田は度胸のない私のために無理やり応接室へといれて、雲雀さん本人に聞くように促してくれのかもしれない。
よし、女は度胸だ!と思い振り返り雲雀さんをまっすぐに見た・・・・・・・やっぱり、聞けない、なんて思った矢先に「どうして吉田から呼ばれたのに、ここにいるわけ?」と雲雀さんから言われた。
その言葉がいつもの雲雀さんよりも冷たい感じがして、あぁ、私がここに来たのは迷惑だったんだ、と感じた。そうだよ、雲雀さんは風紀の仕事が忙しいのに。私なんて相手にする時間なんて一秒もない。
もしかしたら私が雲雀さんの誕生日を祝いたいと思ったのも、雲雀さんにとっては迷惑な話で、私の自己満足だったのかもしれない。それなのに、吉田を巻き込んで、また失敗しちゃったよ。思い立ったら即行動なんてやっぱり不利益な性格だよね。
「ごめん、なさい」
「え?」
「吉田は悪くないんです!ただ、私が今日が雲雀さんの誕生日だから、雲雀さんが何を欲しいか吉田に聞こうと思って……そうしたら、吉田がここに私を連れてきて」
早口に言い立てて、私は少しだけ呼吸を乱した。ごめんなさい、ともう一度だけ呟いて顔を上げれば、雲雀さんが先ほどよりも驚いた顔でこちらを見ていた。私は今度こそ雲雀さんの邪魔にならない様に出て行こうと思い、再びドアノブに手をかける。「・・・・な、」だけど雲雀さんから聞こえてきた声に私は動けなくなる。
何を言っているのか聞こえずに、雲雀さんは何を言ったんだろうと雲雀さんを見れば、雲雀さんはガタッと音を立てて立ち上がり「行くなって言ってるんだよ!」と声を荒立てた。雲雀さんがこんな大声を出したところなんてみたことも聞いたこともなかった私は思わず肩がビクッと震える。
私、何か雲雀さんを怒らせるようなことをした?と思い顔を青くしていれば、立ち上がった雲雀さんは靴音をたてながら、こちらへと歩いてきた。掴まれた腕に熱があつまるのが分かった。
「ど、ど、どうしました雲雀さん?」
「は今日が僕の誕生日だって知ってたんだ?」
はい、と答えれば少しだけ雲雀さんの口端が上がり、私の勘違いかもしれないけれど、その顔はどことなく嬉しそうに微笑んだように見えた。「それで、は何をくれるの?」と聞かれ、私はうっと声に詰まる。そんな、今日の朝知った上に、今から買いに行こうと思ってました、なんて
言えるわけがない。
でも、さっき私は何を欲しいか吉田に聞こうと思って、って言ったのだからあまり関係ないのかもしれないな……まぁ、良いか。なんだか、こんなこと隠すことも馬鹿らしく思えてきた。
「雲雀さんが何を欲しいのか分からなくて……それで、吉田に聞きに学校に来たら、」
「応接室に連れてこられたんだ?」
私の言葉の先を言う雲雀さん。思わず顔を見上げれば、自分が思ったよりも近くに雲雀さんの顔が近づいていて息を呑んだ。雲雀さんはそんな私の気持ちに気づいているのかいないのかは分からないけれど、ボソッと「吉田もなかなか使えるね」と小声で言った。
その言葉の意味が分からない。だけど、とりあえず吉田が雲雀さんから怒られることはないみたいだからよしとしようと思う。うん、良かったね吉田。でも私はまだ怒ってるってこと忘れないでよ。絶対、ここから生きて帰れたらお前の息の根とめてやるからな…!って、今はそんな事より雲雀さんの誕生日プレゼントだ。
私は覚悟を決めて、「雲雀さんは何か欲しいものあります?」と聞けば目の前の雲雀さんが目を丸くする。しかし、そんな顔をしたのは一瞬のことで少しだけ考えるしぐさを見せる。
「それじゃあ、風紀の仕事がたまってるから手伝ってくれない?」
「えぇ?!そんなことで良いんですか?!」
「そんなことって、多分、今日一日かかると思うけど」
そう言って雲雀さんの視線が応接室にある時計へとうつる。今の時刻、午前9時過ぎ。「もしかしたら6時くらいまでかかるかもね」と言われ、私は眉を寄せた。でも、雲雀さんが私の目を見つめるものだから何も言えずに私はただ頷くことしかできなかった。そんな私を見て雲雀さんはもう一度口を開く。
「の一日が欲しい」
目の前の雲雀さんはその一言を言うことに戸惑いなど見せることなくはっきりと私にその一言を告げた。それに風紀の仕事を手伝って欲しいという意味しか含まれていないと分かっていても、私は自分の脈が早まるのをとめることはできなかった。
そんなかっこ良い顔でそんなかっこ良いこと言うなんて卑怯だよ。そんな私の気持ちを悟られないように、私は「雲雀さん、誕生日おめでとうございます」とまだ言っていなかった一番大切な言葉を雲雀さんに伝えれば、雲雀さんからは「ありがとう」と言う言葉がかえってきた。私なんかの一日じゃとてもじゃないけど雲雀さんへのプレゼントになんてならないと思うけど、一生懸命今日は頑張って風紀委員の仕事をやり遂げよう。そして、来年こそはちゃんと雲雀さんへのプレゼントをリサーチして雲雀さんをあっと言わせられるようなプレゼントを用意してやる!と言う覚悟を胸に私は雲雀さんから手渡されたたくさんの書類の山と格闘を始めた。
→おまけ
(2008・05・05)
雲雀さん、誕生日おめでとう!
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