学校が休みだからと言う理由だけで覚えてしまっている自分の誕生日。そんな日に今まで誕生日パーティーをしたことなんて一度もなかった。忙しい父親は僕の誕生日だからと言って家にいるわけじゃない。ただ、あるのはテーブルの上に置かれたプレゼントと思われる物とメッセージの書かれたカードだけ。毎年毎年、いつも一番最初に書かれている言葉、すまない恭弥、の一言だった。




別に父さんが謝る必要なんてないのに、といつも感じていた。ただの休日。誕生日なんて僕にとっては特別の日でもなんでもない日なのだから。プレゼントも、家に父さんがいないこともどうでも良く、まるで自分とは無関係だと毎年その一日を過ごしていた。




「(それが、今年は違う)」





まだ乾ききっていない髪の毛を気にもせず本棚から、暇つぶしにと思って買った本を手に取り椅子に座る。あと三時間もすれば、僕の誕生日は終わってしまうのか、と少しだけ寂しい気持ちになっている自分がいることに気づく。今までこんな風に思ったことなんてなかったのに。これもすべて、の影響なんだろう。

まさか好きな子に自分の誕生日を祝ってもらえることがこれほどまでに嬉しいことだったとは今まで思ったこともなかった。今日の朝だって、いつもと変わらずに僕は学校へといき風紀の仕事をこなしていたのだから。今日を特別に感じる日がくるなんて、本当に思いもしなかったのだから。







「雲雀さん、誕生日おめでとうございます」







たったその一言。これが僕にとっての今日という一日を変えてしまった。何とも、僕もただの男だったということか……まぁ、それでも良いと思えるのはのおかげなんだろう。彼女に感じるこの気持ちはすべて僕にとっては初めてのものばかりで戸惑いばかりだけど、決してそれが嫌なわけじゃない。






だけど、が応接室にいきなり入ってきた時はさすがに驚いた。それに、吉田に嫉妬してしまって上にをおびえさせてしまったことを思い出し、ページをめくる手がとまる。吉田に嫉妬したところで、何も意味はないのに。それでもあの時は自分の感情を押し殺すことができずに思わずをにらんでしまった。吉田がを呼んだのは多分、僕のため、と言うことがすべてを知った今なら分かる。

吉田にお礼を言うつもりなんて微塵もないけど、少しだけ感謝してると言えば、感謝してる。吉田のおかげで僕はから最高のプレゼントを貰うことができたのだから。





の一日が欲しい





風紀の仕事を手伝ってもらうとかこつけて言った言葉。今考えると恥ずかしい言葉だと自分でも少し馬鹿だと思ってしまう。だけど、そんな理由にかこつけてでも、今日一日僕はといたかった。君にとってはただの学校が休みの日という認識しかないかもしれない。否、僕にとっても今まではそんな認識しかなかった。
でも、何故か君を好きになってから今日という日が特別に感じられ、その特別な日をを過ごすことができることが僕にとっては、とても嬉しく感じる。




どんな誕生日プレゼントなんかよりも、君がいてくれるだけでよい。それに本当は一日だけじゃなく、これからもずっといて欲しい。さすがに、今の僕にがそれをくれるとは思えないけれど……来年の誕生日には、と考えている自分がいて、静かに自嘲した。馬鹿馬鹿しい。素直になれないくせに、そんなことを思うとは。

でも、いつか絶対に手に入れてみせる。僕は、欲しいと思ったものは手に入れないと気がすまない性格なんだ。






コンコン




ふと聞こえてきたドアをノックする音に、机の上に読みかけてあった本を無造作に置きドアをあける。目の前にはの姿。少しだけ驚いて見ていればの手には英語のテキストが握られている「あ、あのですね、もし良かったら教えてください!」と言い頭を下げるに僕は静かに口端をあげた。頼られるってことがこれほどまでに嬉しいこととはね。これもまた彼女から教えてもらった、感情だ。頼られていることに喜びを感じるなんて、それは群れることを意味すると言うことを僕は知っているのに。矛盾。


でも、僕はこのからのお願いを断ろうとは微塵にも思っていなかった。むしろ、僕は快く了解するであろう。何て言ったって、大切な子の、からのお願いなのだから。





「雲雀さんの誕生日なのに、こんなお願いするなんて、すみません!」


「……別にいいよ」




それよりも、まだと一緒にいられると思うと僕はその方が嬉しいから、と言う言葉は飲み込んだ。僕が教えるんだから容赦はしないよ、と言えばは僅かに引きつった笑みを浮かべた。とりあえず、僕の誕生日が終わるまでに一緒にいてもらおう、なんて卑怯なことを考えながら僕はに勉強を教えた。しかし、わざと長く時間をかけようなんて思っていた僕の思惑なんてなくとも、との勉強は時間が変わるまで行われた。まったく、この子は授業中に何をしているんだろうか、と不安さえ覚える始末。少しだけの成績が心配になったのは言うまでもない。





君がくれた、もの



(その一つ一つすべてが、とても愛おしい)









(2008・05・05)