まだ頭のまわらない中制服に着替え、いつものように階下におりてお母さんとお父さんにおはようの言葉をかけた。二人から返ってくる同じ言葉に僅かに頬がにやけるのを感じながら、いつもように自分の朝食の置かれている席へと座る。本来なら目の前にいるはずの人は今日も朝から風紀の仕事で学校へと出かけている。お母さんとお父さんが再婚してから朝、彼の姿を見たのはもしかしたら一回しかないのかもしれないことに気づき、私は少しだけため息をつきたい気分になった。


お母さんとお父さんのように彼にも、朝の挨拶をしたいだなんて、私は何を考えているんだろう。でもそのためには早く起きないといけないんだよね。いやいや、私には彼が学校へと出かけてる時間に起きる自信はないよ。はっきり言って遅刻しないようにするのが私にできる精一杯のことだから。




、今日は早く帰ってくるのよ?」




私の目の前に茶碗をおきながら言ったお母さんの言葉に私は顔をあげた。一体、今日は何があったのかと考えても出てくる答えはない。

今日は確か、5月5日。特段するべきこともないはずなのに……って、5月5日?私はこの時、やっと気づいた。そうだ、今日はこどもの日。それなのに、なんで私は制服に着替えているんだろうか。





「(今日、休みだった……!)」





そうだよ、今はゴールデンウィークの真っ只中で、昨日も一昨日も休みだったのに!これがまだ今日が休みの初日だったりしたらまだ学校に行く準備をしてしまったのにも、僅かながらに納得がいく(本当に僅か、だけど!)なのに、私は明らかに休みだった日に制服に着替えて学校に行く準備をしてしまって、これじゃあ本当に馬鹿みたいじゃないか……今更後悔しても遅いけれど、やっと働き出した頭の中で自分のわまりの馬鹿さにうんざりした。

「それで今日は休みなのに学校に用事があるの?」とにっこり聞いてくるお母さんに悪意がないと分かっていても、少しだけ馬鹿にされたような気がした。だけど、さすがにここまで着替えて用事がありませんでした、と言うのも嫌な気がして私は「ちょっとね」と答えてしまった。


朝のまだ8時にも満たない時間から、私はどこに行けば良いんだろう。とりあえず、後で花か京子ちゃんに連絡してみようと思う。





「……それで、今日何かあるの?」




早く帰って来い、と言うことは今日何かあってのことなんだろうと思い首をかしげて、お母さんに聞けばお母さんは少しだけ驚いた顔をしていた。お父さんに至っては苦笑と言う表現の似合う笑い方をしている。
あれ、私変なこと言ったの?と思い少しだけ不安になっていれば「今日は恭弥くんの誕生日よ?」とさも当然といった感じでお母さんは言った。



「えっ?!」

「あら私、言ってなかったかしら?」

「言ってない!そんなの私初耳だよ!!」




やだ私ったら〜、と言いながらお母さんも笑う。いやいや、そんな私ったら〜、じゃないよ!!そんなまさか今日が雲雀さんの誕生日だったなんて初耳なのに……!そんな私の気持ちなんて露知らず、お母さんとお父さんは二人で微笑みながら「ふふ、今日は盛大にパーティーしないといけないわね」なんて言っている(盛大にパーティーなんてしたら雲雀さん嫌がると思うんだけど、な!)(いや、だけどこんな嬉しそうにしてるお母さんとお父さんにそんなこと言えないしね!!)


しかし、どうしたものだろうか。やっぱり同じ家に住んでいて、普段一杯お世話になってる雲雀さんに何かお返ししないと申し訳ないような気がしてならない。だけど何をプレゼントしてよいのか分からないし、そもそもそのプレゼント自体迷惑だと思われたら元も子もないし……あぁぁ、もうどうしたら良いの?!朝食を食べる手がとまり、頭を抱えて考えていればお父さんが私の名前を呼んだ。少しだけ泣きそうになる私に優しく微笑みかけながらお父さんは「も恭弥の誕生日を祝ってやってくれるかい?」と言われた。


私はその質問に一瞬の間もなく「もちろん!」と答えていた。だけど、だけど、プレゼント何が良いんだろう……。雲雀さんの誕生日会は夜から。それまでに、何か雲雀さんの喜ぶものを見つけてやる!と意気込み、私は急いで朝食を食べると自分の部屋へと戻っていった。





ったら学校は良いのかしら?」



「はは、きっと大丈夫なんだろう」










***












急いで部屋へと戻るとベッドの上にほったらかしだった携帯に手を伸ばした。急いでアドレスを開き、メールをうつ。でも、その手は途中でとまった。あて先は花。そして、そこで我にかえる。絶対に花のことだから私が男の子だったら何が欲しいかなんて聞いたら疑りぶかく聞いてくるに間違いない(説明するのは、ちょっと、な)


それもよくよく考えてみれば雲雀さんの場合普通の男の子が喜ぶものをあげて喜ぶなんて考えられない。私は途中まで打っていたメールを消して、アドレス帳を再び見た。一体、誰に聞くのが一番なんだろう。そりゃ、本人に聞くのが一番に違いはないんだろうけど……と思い、携帯の画面が雲雀さんの名前のところでとまる。




「(だけど、やっぱり本人にも聞けないよ!)」





誕生日に何が欲しいかなんて聞けるわけがない!それにもしも雲雀さんの欲しいものが高かったりしたら、私買えないし……誰に聞けばよいのだろうと考えながら探していても、さすがに雲雀さんへの誕生日プレゼントが何をあげたらよいか、なんて聞ける人物は一人も思い浮かんでこない。

沢田くんも山本くんも獄寺くんも男の子だから何が欲しいのか聞きやすいと言えば聞きやすいけど、さすがに雲雀さんへのプレゼントの参考にしたいなんて言えるわけもない(それに普通の男の子に聞いても、雲雀さんが欲しいものってことにはならないと思うし!)もう最悪の場合は雲雀さんに聞くしかないのか。だって、雲雀さんのこと知ってそうで私と仲が良い人なんて、って、いるじゃん!

風紀委員で、雲雀さんとも(多分)仲が良くて、私も知ってる人が一人だけいる!




「えっと、吉田の番号。吉田の番号」




急いで吉田の番号を探し出すと、私はメールではなく電話をかけた。何回かの機械音の後に聞こえてきた吉田の声。
出てくれて良かった、と少しだけ吉田に対して感謝の気持ちを感じていれば向こうから「朝から何のようだ、?」と言う声が聞こえる。




「吉田、私、私!」

「いや、分かってるから。なんだよ、それ新手の詐欺か?」

「違うから!何、新手の詐欺って?!」

「私、私詐欺」

「そんなことしないってば!!」




そんなオレオレ詐欺みたいなこと私がするわけないし!と言うか、相手が分かっているのにそんなことする人がどこにいるんだ、とつい今さっきまでの感謝の気持ちなんて微塵もなくなり、私は本当にこいつに連絡してよかったのかと思った。
いや、でも他の頼れる人なんて一人もいないし、嫌だけど、すっごく嫌だけどここは吉田に頼ることにしておこう。本当に嫌なんだけどね!



「あ、そう言えば今日委員長の誕生日だけど、お前なんかやるのか?」

「(今まさにそれを吉田に聞こうと思ったんだよ!)」




早速確信をついてくる吉田。私、一言も雲雀さんのことを言っていないのにこの男なかなかやるな、と思っていれば吉田は「おい、聞いてるのか?」と言ってきた。

私はその言葉にハッとして小さな声で「そのことで吉田に電話したんだけど……」と言えば、吉田は聞こえなかったのか、「悪ぃ、なんて言ってのか聞こえねぇ!」と言ってきた。私は少し恥ずかしながらも声のボリュームを上げて、



「だから、そのことで電話したって言ってるでしょ!」

「えっ、なんでそこでキレてるんだよ?!」




そりゃ、キレたくもなるよ!と言う言葉を飲み込んで私は深呼吸を二・三度繰り返すと「……だから、その事で電話したの」と言った。




「だから、電話してくる意味がわかんねぇんだけど」



「雲雀さんって、何をプレゼントしたら喜ぶと思う?」

ついに私は一番聞きたかったことを吉田に聞いた。吉田からの答えを少しだけドキドキしながらかえってきた言葉は私の予想を反したものだった。






「さぁ?」





さ ぁ っ て な ん だ よ!


こっちが一生懸命恥を忍んで聞いたにも関わらず吉田からかえってきた言葉はさぁの一言だけ。あぁ、もうどうすれば良いんだよ!頼みの綱であった吉田もどうやら雲雀さんの欲しいものを知らなかったみたいだし、これじゃあ、振り出しに戻ってしまったじゃないか。

そう嘆きつつ、うぅぅ、と奇声を上げていれば電話の向こうから吉田のため息が聞こえた。吉田に言ってやりたいよ。ため息をつきたいのはこっちだって。




「もう電話代がもったいないから切る」


「あー、ちょっと待て……お前、今暇か?」



吉田の言葉の真意が分からずに私は素直に「うん」と答えた。吉田はその言葉を聞くと「じゃあ、今から来い」とだけ言った。いや、一体どこに?と思い、それを聞く。



「学校だよ。学校」


「何言ってんの?今日、学校休みなんだけど、」



「……お前、俺達風紀委員に休みがあると思うか?」




それもそうだ。確かに雲雀さんは風紀委員の仕事で休みの日なんて関係なく学校にいっている。それは、もちろん他の風紀委員にも言えたことなんだ。だけど、今、学校に行ったら雲雀さんもいるんだよね。
さすがに誕生日を知らなかった上、これからプレゼントを探しにいくつもりなのに会いたくはない(なんか、すっごい気まずくなりそう……!)



「学校に来たら委員長の欲しいもの教えてやるぞ?」


「行く!」



……私、馬鹿だな。思い立ったら即行動のこの性格を改めないといけないとずっと前から思っているのも関わらず吉田からの言葉にすぐさま私は返事を返していた。でも、今考えてみれば吉田はさっき「さぁ?」と言ったんだよ。これって知らないってことじゃないの?と思っていれば、「じゃあ、後でな」と言われ電話は切れた。
私はちょっと!と叫んではみたものの、向こうから聞こえてくるのは電話が切れたことをあらわす機械音だけで、私ははぁとため息をついた。まぁ、都合の良いことに制服には着替えているし、行ったら雲雀さんの欲しいもの教えてもらえるんだし、と思い私は鞄の中に携帯と財布だけを入れると階段を下りて、お母さんとお父さんが仲良く会話しているのを横目に「じゃあ、学校に行ってくるね!」と言いながら家を出た。


いってらっしゃい、と聞こえてきた声を確認して私は少しだけ早足で学校へと向かった。






知らなかったじゃ、すまされない?!




(でも、一番のプレゼントを用意するから許して下さい!!)






→後編


(2008・05・03)