優しくて、時に厳しい
大好きな友達なのだから
なんだか、朝からすごくみられている気がしてならない。
今日も遅刻することなく学校へとやってきた私を待っていたのは、なぜか多くの視線だった。最初は自意識過剰!なんて思っていたけれど、これだけじろじろとクラスメイトだけでなく他のクラスの生徒から見られれば自意識過剰とはとても、思えなかった。
さすがに授業中には感じなかったけど、休み時間なんて特に皆からみられているような気がする。
でも正直、自分がそこまで注目されるような生徒だとは思えない。
悪いことをするだなんてもってのほかだし、特に見た目が整っているわけじゃない(か、悲しい事実だ!)それに、成績だって、そこまでよい訳じゃない。もしかして自分が思った以上におかしいところがあるのかと、自分を見てもなんらかわりはない…と、思う。ちょっと、自信ないけど!でも!口はしに食べかすはついてないしスカートの長さだって標準で、リボンも曲がっていない。
寝癖だって、そりゃ、ちょっとあるかもしれないけど、気にならない程度だった、はず。ましてや、ふつうの寝癖くういでクラスメイトだけじゃなく他のクラスの子からも注目されるわけがない!
(私、何かしたっけ・・・?)
昨日もこんなことを考えたような気がする。でも、今日は昨日にまして思いあたるふしが見つからない。
そんな居心地の悪い中でも時間だけは無情にもすぎていき、四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。考えごとのせいか、今までの授業ほとんど頭に入ってこなかった。ただでさえ苦手な教科もあったっていうのに!
もしも次のテストで赤点をとるようなことにでもなったりしたら、確実にこのせいだろう……自分が勉強しなかったせいだなんて、そんな言葉は決して聞こえないよ!
皆、立ち上がりそれぞれ昼食の準備をしているのをみて、私も鞄の中からお弁当を取り出す。お母さんのお弁当。雲雀さんとお揃いだと思うとそれさえも美味しいスパイスになりそうで(お母さんのお弁当は元からすっごくおいしいけど!)そんなことにさえ喜びを感じる自分の単純さが憎らしい。
だけど本当に雲雀さんの存在は、すごい。
雲雀さんがいる、それだけでいつもとは違って感じるのだから。雲雀さんといっしょにいるだけでドキドキしたり、お弁当が美味しく感じあり、これは私が単純だからなんて理由だけではなくて、きっと恋をする女の子みんなが感じていることだ。
ましてやいつかは消さなければいけない想いだとわかってはいるけれど、今は初めてのこの想いを大切にしてあげたいとも思ってしまう。
望まなければ、この気持ちはいつまでも抱えてもよいものなのだろうか。
(おなかすいたなー)
いつものように京子ちゃんと花と食べようと思った矢先、いつの間に来たのか私の席の目の前に花が立っていた。
その表情はなぜか厳しいもので、私は目を丸くして花を見上げる。その傍らには京子ちゃんが立っていて、京子ちゃんは京子ちゃんで眉を寄せて心配そうな表情で私をみていた。
私、何かしたっけ・・・?
再び同じ疑問が頭の中を駆け回る。けれど、どんなに考えても答えはやっぱり分からない。昨日までは、ふつうに花と話していた。こうして注目されることだってなかった。
変に感じたのはいつから?
今日の朝、下足箱ではすでに注目をあびていたような気がする。教室まで歩いていく時だって、なんだかいつもより緊張した。
でも昨日はいつもと変わらなかった。朝は遅刻することもなく、授業だって自分の身になったかはわからないけど自分なりにまじめに受けた。小テストの点数はちょっと(いや、かなりかも)悪かったけど、それは誰にも伝わっていないはず。
あぁ、でも一つだけ。いつもとはちがったことがあった。いつもとはかわって昨日の放課後は風紀委員に呼び出された…って、これってもしかして?
確信はない。
でも、なんとなく、私が注目をあびているのと無関係だとは思えない。
「花?」
見上げながら名前を呼んでも花は反応を示さなかった。聞こえてない、ことはないとは思う。たぶん花も私を無視しようとおもっているわけじゃないんだろう。
花は周りを一瞥すると、無言で私の腕をつかむと歩きだした。
いつもと違った花の様子に私はなにも言うことができずに、ただただ花へとついていく。京子ちゃんも両手でお弁当を持ち、私たちの後に付いてきていた。
移動中も廊下では視線を集めたけれど私はもうそんなことは気にならなかった。今一番気になるのは花の態度だ。今までこんな態度を花にとられたことはなかった。私が気づかないうちに花に失礼なことをやってしまった?
花は大切な友達で、馬鹿、なんて言われることも少なくないけれど、でも花が私のことを大切に思ってくれていることは知っている。
一番最初に風紀委員に呼び出されたときだって花はいつもすました表情を崩して心配してくれた。
(あぁ、でも。)
私はそんな大切な友達に隠し事をしている。
友達だからって、全部を言う必要はないとは思う。でも、心配させるだけさせておいて、花と京子ちゃんが大切な友達だから言えない、と自分に言い聞かせて、それってもしかしてただの自己満足じゃないの?
言えないのならはじめから心配させるようなそぶりを見せてはいけなかったんじゃないだろうか。自分のあまりに中途半端な態度がさらに花や京子ちゃんに心配をかけるとは思ってもみなかった。
もしかしたら、そんな私についに花も愛想をつかしたのかもしれない。
自分でもなにが正しくて、なにをどういたらよいのか分からなくてただ泣きそうになるのを口端をかみしめてこらえていた。
音をたてて、屋上への扉が開かれる。屋上に足を踏み入れた瞬間今まで反応のなかった花がやっといつもの表情よりも焦った表情をし、こちらを振り返った。
「あんた!なんで今まで黙ってたの!」
「……え?」
ぽかーんとあいた口。目も大きく見開いた私の今の顔は近年まれにみる間抜けな表情だったに違いない(せつない!)花が怒っていると思っていた。私に愛想をつかしてしまったと思っていた。
でも、花の表情は確かに怒っているように見えたけれど、あのときの、私を心配してくれた時の表情ともかぶって見えた。
それに思っても見なかった言葉。黙っていたことなんて、あのことしかない。
「黙ってたってなにを?」
「雲雀恭弥のことよ!」
ぎくりと肩が怖がる。花もそんな私の態度に気づいたのか目をほそめた。
いつのまに雲雀さんとのことがバレた?
確かに一緒に帰ったりはしたけれど、暗い夜道でしか一緒に帰った帰ったことがなかったからまさか気づかれるわけがない。まぁ、雲雀さんは夜道だろうとどこだろうと目立つような人ではある。でも、私は決して目立つような生徒じゃないからあんな暗い道では近くでみない限り気づかれないと思っていた。
他にも考えられるようなことはいくつかあったけれど、外では雲雀さんも考えていてくれていたのかあからさまな接触はなかったはず。
やばい、これはやばいぞ!何か良い策はないだろうか、と必死に考えるもそれほど良くない自分の頭では笑顔でごまかすという案しかでてこなかった。私の笑顔でごまかされてくれるほど花は抜けてるような人間じゃない…京子ちゃんならちょっといけるかなって思ってしまった自分がにくいよ!
花の言葉に挙動不審になる私に花はさらに追い打ちをかけるかのように、ずずいと私のほうへと身をのりだした。
「あんた雲雀恭弥とつきあってるんでしょ?」
(……ん?)
切羽詰まった花の表情。私は一度では花の言っている言葉の意味をうまく受けとることが出来なかったらしい。だって!だって今なんて言った?!予測のしていなかった言葉に再び間抜けな表情で花を見つめてしまう。
もしかして今私が雲雀さんとつきあってる、だなんて…いやいや!ね!そんなまさか!あ、ありえないよ……!
驚愕で見開かれたままの瞳で花を見つめる。言いたいことはいっぱいある。というか、すぐに否定しなければいけない。そのことはわかってるのに、あまりにも驚きすぎて言葉がでなかった。
「ほ、本当なの?」
「違う違う!」
やっとでてきた否定の言葉。そういえば、いつか人間二回言ったことは実は嘘なんだ、って聞いたことがある。いや、今の私のことは紛れもない事実なんだけどね!(そりゃ、本当だったら発狂しそうなくらい嬉しいけど!)
「じゃあ、どうして」
あんた人一倍チキンじゃない。
どうやら私の友達は私以上に私のことを分かってくれているようです。
嬉しいような切ないような気分になりながらも、これ以上ごまかすことに無理を感じた私は息を深く吐き出した。つきあっていると勘違いされたままよりも、これは本当のことを言った方がよさそうである。
今まで嘘をついてきた、というか、黙っていた分、言いにくかったけれどこの花の表情(なんだかいつもよりこ、わ、い!)に見つめられていれば、黙っているわけにはいかない。
それに。これ以上心配だけをかけるなんて、もう私にはできない。花も、さきほどから見守ってくれている京子ちゃんも、大切な、私の友達なんだから。
本当のことを言って、少しでも安心してもらえるならそっちのほうが良いに決まっている。今まで嫌われる、遠くに行ってしまう、なんて考えていたけれど、こんなに私のことを心配してくれる二人が事実をしって遠ざかることはないに決まっているし、二人はそんな人間じゃない。
Next
(2010・04・19)
友達の回。女の子同士の友情再確認。とりあえず、雲雀さんがで て こ な いOTL
多分きっと次回は出てくるはずだと信じております。
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