最近、委員長の機嫌がものすごく良い。風紀委員の奴らの中じゃ決して口に出すものは一人だっていないが、委員長のその変化に委員長に心酔している風紀委員の奴らはそのことにだって気づいていることだろう。

俺と言えば他の風紀委員に比べて委員長に心酔しているわけではないが(そりゃ、委員長のことは尊敬もしているし憧れてもいる)それでも委員長の変化に気づいた。ニヤニヤ……?いや、こんな言い方は委員長に似合わないがまるで回りに花がとんでいるような感じだ。
多分、皆あんな委員長気持ち悪いなんて思っているんじゃないんだろうか。


まぁ、誰もそのことを口にするものはいないが。皆、自分の身が可愛いからだろう。しかしながら、そんな中副委員長だけは委員長に「最近機嫌が良さそうですね」なんて話しかけていた。
空気が読めないのか、それとも気になっている風紀委員を代表して聞いてくれたのか事実は分からなかったが副委員長がそれを口にした瞬間、皆の呼吸がとまったような気がした。もしかしたら副委員長がトンファーで殴られてしまうんじゃないかと言う不安と、委員長が万が一の可能性でそのニヤニヤ……機嫌の良い原因を話してくれるんじゃないかという期待が入り混じった視線が委員長にそそがれる。




(委員長、何て答えるんだろうか……)




俺はそんな中で、むしろ面白いものを見るような視線を委員長にやっていた。はっきり言わせて貰えば、俺は委員長がニヤニヤ……いや、機嫌の良い原因を知っている。
まさか、あの委員長が、と始めは思ったものだがと一緒にいるときの委員長の目を見れば誰にだってすぐにわかるだろう。

熱のこもった、優しくて暖かい視線。いつもトンファーを手にし、まるで獲物を狩るような肉食動物の獰猛で冷たい視線が嘘のような視線。そんな視線でを見ている委員長を一度目にすれば、委員長の機嫌が良い理由なんてすぐに分かる。って言うか、分からなかったらただの馬鹿だろう。

まぁ、俺の幼馴染はそんな視線を受けながらも全然気づいていない上に、勝手に落ち込んだり、勝手に喜んだりしているが。
それに本人も自分が委員長をどんな風に想っているのかなんてことに気づいていないんだろう。なぜならを見ていれば、委員長をただの義兄と思い込もうとしている節がある。自分がどんな感情を持っているのか気づきもしないなんて、本当に俺の幼馴染はつくづく馬鹿だと思ってしまうが、あいつらしいと言えばあいつらしいとも言える。
長年、幼馴染をしてきた俺にとっては妹のような存在にあいつ。あいつに言わせれば自分のほうが姉だ、なんて言いだしそうだが、誰が見る限り兄役は俺だろう。


あいつの母親さんから聞いた話。まさか雲雀、が委員長だとは始めは思わなかった。委員長だと知ったとき、少なからず心配だったが……それも杞憂に終わったらしい。

応接室での名前を呟いた委員長の声はとても優しいもので、で最初はどうやら委員長に怯えているようだったがすぐになれたようだった。



「……まぁ、良いことがなかったわけじゃないね」



委員長の一言に皆が固まった。まさか、委員長がこんな風に答えるなんて誰一人思っていなかったんだろう。あの副委員長でさえ、唖然とした表情で委員長を見ている。俺も少しだけ目を見開いて、委員長を見た。

あぁ、委員長も変わったのか。

誰のおかげ、なんていわなくても俺にはわかる。きっと副委員長も気づいているんだろう。唖然とした表情から優しい表情に変わった。まるで子供の成長を見守る父親のような表情だったことは、俺だけの秘密にしておこう。
委員長はそれきり口を開こうとはせず、副委員長の指示で俺らは並中周辺の見回りにへと戻った。



応接室を出て、俺は考える。
しかしながら、あの二人がくっつくことなんてありえるんだろうか。

の姓のままであるし、特段二人に障害があるようには思えない。それに彼女の母親と、委員長の父親は良く知らないが(の話によればかなり優しい人らしい)この二人なら二人が付き合いだしても何も言わないだろう。むしろの母親さんなんて手を叩いて喜びそうだ。
だが、問題は二人の恋愛経験値のあまりの低さだ。今までを見てきた限り、初恋、何それ?な感じがする。もちろん、今まで咬み殺すことにしか興味がなかった委員長も同じことだろう。

まだ、委員長のほうが自分の気持ちに気づいているだけ経験値は高そうだが、どちらも似たりよったりだ。そんな二人が付き合うなんて俺には想像ができない。




(あの委員長だぞ?!あの委員長があ〜ん、なんてしてみろ!それこそ風紀委員、いや並中の全生徒が失神する可能性があるぞ!)




それに委員長には敵も多いし、問題は山積みなのかもしれない。
俺としては二人にくっついて欲しい、と言うか、くっつくべきだと思う。だが、それにはもう少し時間がかかりそうだ。

だが、あのが委員長をここまで変えてしまうとは思いもしなかった。小さい頃から一緒にいて、妹のように面倒してきた奴にそこまでの影響力があるとはな。まぁ、俺もあいつのおかげで周囲の人からおかんみたいだ、と言われることも少なくないが。断じていっておくが、俺だって風紀委員なのだから不良の一員といっても過言ではない。その俺がおかんだ。
父親ではなく母親、なのだ……少し自分で言っていて悲しくなってきたが、不良だと回りに認識され始めてもあいつと俺との距離は変わることがなかった。

中には離れて行く友人がいないこともなかったが、あいつは変わらず俺を友達として接し、俺も甲斐甲斐しくあいつの面倒を見たものだ。それが結果的に今、おかん、と呼ばれるようになってしまったのだが。


しかし、おかんもそろそろ卒業らしい。
悲しいような寂しい気が僅かにするが、この際委員長には是非頑張ってもらいたい。



吉田考察録






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(2010・01・20)
さりげなく登場回数をかさねております吉田視点の話です。オリキャラで大変申し訳ない限りです……!(土下座)それでも楽しんでいただけたのなら幸いでございます。
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