呼び出された応接室の前。ノックをすれば、ドアの向こうからは雲雀さんの声が聞こえてきて私は戸惑いながらも目の前のドアに手をかけた。私、何か悪いことしちゃったのかな……!(あー、思い当たるふしが多すぎる!)思い当たる多すぎる気がしないこともないけれど、だけど今一番思い当たるのは私が渡したお弁当のことだ。あんなお弁当を渡してしまってきっと雲雀さんにとったら迷惑だったんだろう。






あぁ、もうだから吉田にメールしたのに!吉田の馬鹿!







思わず吉田を責めてしまうけど、吉田を責めたってどうにもならないことは自分自身よく分かってる。それに一番、責められるべきなのは私なのだ。それに吉田は私のお願いを聞いてくれた良い奴なんだよ。うん、分かってる。それは分かってるんだけど、ね!
それでもやっぱりこの今の状況になった原因を探っていけば吉田も少しは責められるべきなんじゃないかと思うわけで、あぁ、自分性格悪すぎるよ!と思っても自分の性格は中々変えられるものじゃない。









「(落ち着け、落ち着け!)」










ドアをあけ、雲雀さんがいつも座る席を見れば机の上には私が先ほど吉田に渡した弁当箱がおいてあった。正直、雲雀さんの顔を見れないんだけど、って言うか見たくないのが本音なんだけど、さすがにそんな失礼なことができるわけもなく私は恐る恐る雲雀さんの顔色を伺う。なんだかやっぱり雲雀さんの機嫌は悪そうで(……なんだか、ちょっと泣きたくなってきたかも!)私のお弁当の何が悪かった?食べたくないのなら捨ててくれれば良かったのに。朝起きて頑張って作ったお弁当。





残されるのは哀しい気持ちになるけど、だけど、雲雀さんに迷惑をかけるのはもっと嫌だ。









「え、えっと、あのなんでしょうか?」








おそるおそる雲雀さんに聞く。声が僅かに震えているのは今からのことを考えてしまうととても怖いから。


怒られるのか怒られないのか。どちらにせよ、良い結果はまっていないことを私は分かっている。だってそうじゃなきゃ、こんなところにまで私を呼び出す必要なんてないはず。どうせなら弁当をつき返されるぐらいで終わればよいのに、と思いながら雲雀さんを見る。

しかし、私の思いとは裏腹に紡ぎだされた雲雀さんの声は優しい声をしていた。








「さっきの吉田へのメールは何?」







私はその声の優しさに緊張していたからだの力が抜け、ホッと息を吐いた(良かった、雲雀さん怒ってないみたい、だ)だけど、思ってもみなかった反応に私は首をかしげる。










私はてっきり雲雀さんは怒っていると思っていたのに。



なのに、雲雀さんは怒ってない?








雲雀さんの口から紡がれた言葉は「さっきの吉田へのメールは何?」だった。その雲雀さんの言葉の意味を考える。雲雀さんの言うさっきのメールと言うのはきっと授業中に送ったメールのことなんだと思う。さっき吉田に送ったメールの内容は、一体なんだったっけと思い出してみる。何か変なメールを私は吉田に送ったつもりはないのだけど。確かにあの時は授業中だったから用件だけのメールになって焦ってはいたけど、







「(もしかして授業中に送ったことを怒ってる?!)」





いや、でも雲雀さんは今は不機嫌そうだけど先ほどの声色は優しい声をしていて怒ってる様子なんて微塵も見られなかった。なら、きっとそのことを雲雀さんは聞きたいわけじゃないんだと思う。と言うことはやっぱりメールの内容?






お弁当やっぱり雲雀さんに渡さなくて良いから!むしろわたすなよ!







って言うかやっぱり雲雀さんにメール見られてたのか……!人のメール見せるなんて最低だぞ、吉田!!








「早く言わないと……「言います、言います。むしろ言わせて下さい!」」








チラッと見せられた銀色に鈍く光るあれに、怯え私は雲雀さんの声を遮るように叫んでいた。だって、未だあれで殴られたことはないけど怖いに決まってる!私が焦っていったのが面白かったのか、雲雀さんが少しだけ笑ったように見えた(笑うなんてし、し、失礼な…!)だけど、雲雀さんが笑ってくれたことでなんだか心臓は落ち着いていて、笑われるなんて絶対に嫌なことではあるんだけど今は助かった、と思った。







でも、応接室に来るまで焦っていたのも雲雀さんのせいで、それを落ち着かせたのも雲雀さんで。










最近の私、雲雀さんに振り回されるすぎだよ。ドキドキと鳴り止まない心臓の音。まだほんの少し落ち着かないその音は、まだこれからの雲雀さんの言葉を考えてのことなんだろう。そう、自分に言い聞かせた。だって、他の理由でこんなに心臓が鳴り止まないなんてことあるわけがない。





雲雀さんのほうを見ればまた僅かに眉間にしわがよっていた。これは早く言わないと本当にトンファーの餌食になるかもしれない。また私は別の意味で心臓の音が高まった











「雲雀さんだったらお弁当なんてたくさんの人から貰えるんじゃないかなって思ったんです」


「…意味が分からないんだけど」


「えっと、だから、私なんかの作ったお弁当よりも、美味しいお弁当雲雀さんだったらもらえると思ったんですよ!」










私にしては珍しく雲雀さんに大して大声をはりあげた(あぁぁ、もう正直怖すぎてたまんないよ!)その声にか、それともその言葉にかどちらに驚いたのかは分からないけど雲雀さんは少しだけ目を見開いて驚いているように見えた。少しだけ大声をはりあげたことに後悔。





でも、これは私の正直な気持ちで、雲雀さんだったら私なんかよりきっと可愛い女の子がお弁当を作ってあげるんだと思ったんだ。確かに雲雀さんは群れるの嫌いかもしれないけど、顔は良いし、実は優しいし、それに雲雀さんだって男の子なんだから彼女の一人や二人くらい・・・・・・(いや、二人いたらそれはそれで問題だけど!)だったら妹、それも義理の妹が作ったお弁当なんかよりやっぱり彼女のお弁当の方が何倍も雲雀さんにとっては喜ばしいことだと思う。なんだか、少し泣きそうかも。そう思うと、雲雀さんの目をまっすぐになんかとても見ていられるような気分じゃなくなって私は視線を雲雀さんから外した。










早く何か言ってくれれば良いのに。そうしたら謝って、早く教室に戻るって言うのに。

昼休みあと何分なんだろう。お弁当も食べてないし、早く教室に戻りたい。









「君は何を勘違いしてるの?」

「勘違いなんてしてません」




「いや、は大きな勘違いをしてる」








勘違いなんてしてない、ともう一度呟いた言葉はとても力なく雲雀さんには届かなかった。だけど、私は勘違いなんてしてない。雲雀さんがかっこ良くて優しいのは事実だし、だから女の子から人気があるというのもすべて事実だ。そんな雲雀さんが可愛い女の子からお弁当くらい作って貰えるのだってわかりきったことで、これのどこが勘違いだと言うんだろう。









「僕がの作ったお弁当以外を食べるわけないだろう」









さも当たり前のように言う雲雀さん。一瞬、あっけにとられてしまったけど言葉の意味を理解したとたんに一気に顔が熱くなった気がした。どうせ、雲雀さんのことだからこの言葉にそれほど深い意味なんてこめられてないんだろうけど、そんな顔で言われたら誰だって思わず真っ赤になってしまう。雲雀さんにしてやられた!とは思っても、もう遅いかもしれない。
どうせ、私が雲雀さんの妹だからこんな事を言ってくれているとは分かっているのに。今まで男の子にこんなこと言われたこのない私にとっては破壊力抜群の言葉だった(なんだか、すっごい恥ずかしい!)








「それは、その……ありがとうございます」



「僕は群れるのは嫌いだからね」








なら、私とだったら群れても良いんですか?なんてとてもじゃないけど聞けなかった。本当は凄く凄く聞きたかったけど。でも、恥ずかしくて聞けなくて、その答えが自分の望んだ答えじゃなかったら哀しいなと思う聞く気にはなれなくて。でも、私が望む答えって何なんだろう?「君は僕の妹だからね」とか?でも、なんだかそれも私の望んでる答えじゃないような気がする。なら、私が望む答えって?……全然、分からないよ!自分のことなのに、頭がパンクしそうなほど考えても分からなくて、その日の午後の授業は全然頭に入ってこなかった。









聞きたい。








(だけど、そんなの聞けるわけないよ…!)











Next





(2008・06・25)