応接室で仕事をこなしていれば、コンコンとドアを叩く音がした。その音に僕は「誰」とだけ返す。ドアの向こうから聞こえてきたのは「吉田です」と言う声。今は授業中だ。風紀委員の奴ら以外がここに訪れるわけがない。それに、授業中でなくても応接室に来る人間なんて限られている。その事を考えれば、誰、だなんて聞かなくてもノックした人間なんて容易に推測は出来た。吉田は自分の名前を告げるとゆっくりと応接室のドアをあけた。僕は視線は多くの書類の方へと向け、耳だけは吉田の歩いてくる音に注意した。机の前で吉田が足をとめたのに気づき僕は、視線を吉田へと写した。その手にはいつもように書類はなく、何故かお弁当を持っていた。














「委員長、お届けものです」











お届けものって吉田の手にはお弁当しかない。それも僕としたことが今気付いてしまったけど、そのお弁当はいつも母さんが僕に持たせてくれるお弁当だ……なんで、それを吉田が持ってるんだ?と、僕が思うのも仕方がないことだろう。だって、今、お弁当を作ってくれる母さんは父さんと旅行に出かけているんだ。お弁当を作ってくれる人なんていないはず(母さんも昼だけは買って食べてねって言っていた)(朝の時間にお弁当を作る時間がないと、母さんも思っていたんだろう)じゃあ、誰がこのお弁当を、と考えれば、すぐに答えはでた。このお弁当は―――












からです」











吉田の言葉に僕はやっぱり、と少しだけ頬が緩みそうになった。あの子、母さんがお弁当は作らなくて良いって言ったのを聞いていなかったんだろうか。まぁ、のことだから聞いていなかったと言うのは容易に推測できる。僕は吉田から差し出されたお弁当を何も言わずに受け取る。これをが作ったと思うと嬉しくて、吉田がいることも忘れて、口端をあげてしまいそうだ。








「(何これ?)」








ふと弁当にそえられた可愛らしいメモ用紙に目がいく。











お弁当をつくりました。迷惑だったら食べなくても良いです












そんなが作ってくれたお弁当が迷惑なわけがないのに。何を勘違いしたのか、それさえも可愛いと思ってしまう僕がいるのだけど(ここに吉田がいなかったら、きっと僕は間違いなく一人しかいない応接室で口端をあげてしまっていたことだろう)ありがたく頂くよ、。と心の中で囁く。その瞬間に目の前の男の方から聞こえてきたメロディーが静かな応接室に響く。この男、何故マナーモードにしておかないんだ。咬み殺「あれ、このメロディーからだ」……その言葉に僕の思考は止まった。






今は授業中の、はずだ。何故、それなのにからこんな男にメールが?僕が電話をかけても、数回してやっとでたような子が、授業中にメールをするなんて考えられない。僕にとっては、吉田の携帯がマナーモードになっていなかったことよりも、携帯をろくに扱わないようなが授業中に吉田にメールをしてきたことが不快だった。他の男にメールするくらいなら僕にすれば良いのに。こんなのただの我侭でしかないけど。








「携帯見なよ。メールが来てるんだろ?」



「え、良いんですか?」






吉田の質問に僕は無言で頷いた。だって、あのが授業中にメールをわざわざよこしたんだ。下らない用件なんかじゃないだろう。僕だって鬼じゃないし、そもそも内容が気になる。そこまでしてが吉田にメールをよこした理由が。だけど、僕のプライドが邪魔をしてさすがにどんな内容のメールが送られて来たのかは吉田に聞く事ができない。いや、プライドなんて問題ではなく人のメールのやり取りの内容を聞くなんて図々しいことできるわけがない。








「委員長」





「……何?」




から、こんなメールが来てるんですけど、どうします?」








まさか見せられるとは思ってなかったメール。僕は吉田から携帯を受け取り、そのが送ってきたメールを見た。












お弁当やっぱり雲雀さんに渡さなくて良いから!むしろわたすなよ!











意味が分からなかった。の考えている意味が。どうして、一度は吉田に託した弁当を渡さなくても良い、とメールで送ってきたのか。それも授業中に送ってきたということはそれだけ急いでいたんだろう。本当に意味が分からない。そんな事をしてまで、僕にこの弁当を食べさせたくなかった?僕の為に作ってくれた弁当じゃなかったの?なのに、こんなメールを吉田に託す意味が分からない。もうこの弁当は吉田の手から僕にうつったんだ。だから、この弁当をどうしようと、それはもう僕の自由のはず。こんなメール関係ない。がどんなにこの弁当を僕に渡したくなくなったと言っても、もう僕はこの弁当を受け取ったんだから。吉田に携帯を返せば、吉田は「どうします?」と聞いてきた。どうするかなんて、決まってる。












「この弁当はもう僕のものだよ・・・・・がどう言おうとね」






「分かりました、」










じゃあ、メール、もう渡したって送っておきますね、と言う吉田に僕はさらに「昼休みになったら、が5分以内に応接室に来るように放送かけて」と命令をしておいた(これはお願いではない。これは命令だ)吉田はその言葉に、はい、とだけ返事をして応接室を出て行った。もうそろそろ昼休み。僕は教えてほしかった。が何故、一度は僕に届けようとした弁当を、渡さないで良いなんて言ったのか。目の前の弁当を机の隅に置く。女の子らしい文字で書かれた手紙。なんで、はこの弁当を迷惑だと思ったんだろう。気になることだらけに、僕はため息を零した。それと同時にチャイムがなる。その後すぐに聞こえてきた「、5分以内に応接室」の放送。






さぁ、早くここまでおいで、。そして訳を話してもらおう。君が話すまでここから出すつもりはないよ。もちろん、授業が始まろうとも。










さぁ、早く僕に会いにおいで













Next


(2008・03022)