僕の右手には携帯電話、そして僕の左手にはある紙が握られていた。この紙は今朝、母さんから貰ったもの。他の人にとってはただの紙でしかないが、僕にとってはとても大切な紙だと言っても過言ではない。とは言ってもこの紙に書かれていた内容はもう既に僕の右手にある携帯電話へと記憶されていて、必要がないと言ったら必要はない。しかし、ただその紙をゴミ箱に捨てるようなことはせずに僕は応接室にあるシュレッダーで、細かく何が書いてあるか分からないようにしてから、ゴミ箱へと捨てた。その紙には、の携帯番号が、しっかりと書かれていたんだ。そんな大切な情報をそう易々と誰かに見られるようなマネはしない。










それは、朝の出来事で、今はもう昼休みだ












僕が仕事をおえ、応接室へと帰れば、応接室の前には吉田と草壁が立っていた。僕はいつもの事だからあまり気にせず、そのまま応接室へと入る。時計を見れば、もう昼休みも中盤に差し掛かった時間。この時間ならに電話をかけてもきっと出てくれるだろうと思い、携帯電話を取り出して、さきほど登録したばかりのの携帯番号を呼び出した(・・・・・・少しだけ、緊張しだした)いざ、勇気を出して通話ボタンを、と思ってもなかなか僕の指は通話ボタンをおしてくれない。












「(・・・あぁ、まさかこの僕が緊張するなんて、ね)」










はぁ、と息を吐き、覚悟を決めて通話ボタンを押す。携帯の向こうからは、特有の機械音が聞こえてくる。少しだけ鼓動が早くなってきたのは僕の勘違いか、いや、多分勘違いじゃないんだろうけど。まだか、まだか、とが出るのを待つけれどが出る気配は一向に見られず、僕は耐え切れなくなって一度電話を切った(なんで、でないんだよ、あの子は!)あぁ、でもはあんまり携帯とか扱いそうにないから気付かないのもしれない・・・・・!僕としたことがそんな分かりきった事を考えてなかった!と今さら後悔したところで遅いのだけど。










それに、ここで諦めるのもなんとも悔しい。そう思った僕は再びに電話をかける。いくら経っても聞こえてくるのは機会音だけで、僕は少なからずイライラした。どんなに携帯を扱わないと言っても、昼休みぐらいちゃんと確かめれば良いのに、と思う気持ちで一杯になった。僕は、まぁ、だけどこれもらしいのかもしれない、と思い、これででなかったらもう諦めて電話をかけるのはやめようと思いながらもう一度だけに電話をかける。
















「・・・・・・(今度こそ電話にでてくれると良いんだけど)」















僕の願いはどうやら届いたらしく、数回の機械音の後に聞こえてきたのは正真正銘のの声「もしもし」と恐る恐ると言った感じの声。あまり前と言ったら当たり前か。は僕の電話番号を知らないわけだし、そんな番号からもう既に2回も着信があって怪しいと思うのは普通のことだ。まして、まさか僕が自分に電話をかけてくるなんてまさか思ってはいやしないだろう。














?」











『え、ひ、ひ、雲雀さんっ?!』











の驚きっぷりに僕は少しだけ笑みが零れた。電話の向こうでがどんな顔をしているのか容易に想像できる(は分かりやすいからね)きっと、なんで僕が自分の電話番号を知っているのか今頃考えているはずだ「電話番号は母さんから聞いたよ。」と言えば、「あ、そ、そ、そうなんですか!」とかなりどもって返ってくる言葉・・・・・・・また、いらないことでも考えてたんだろう、この子は。本当にこの子はいらないことばかり考える。これがじゃなかったら、もう既に咬み殺していると言う事を、君は知っているんだろうか。


















「(いや、きっと知らないんだろうな・・・・・)」
















未だ何か考え込んでいるのか、からは何も聞こえてこない「?」と僕からは考えられないぐらい優しく言葉がでた。僕はいつもの名前を呼ぶときだけは声がやわらかくなっているような気がする(いや、気だけではなくて実際にそうなんだろうけど)












「この番号が僕のだから・・・・・いつでもかけて来て良いからね」





『は、はい!』










僕が言ったとはとても考えられないような言葉には元気よく返事を返してきた。ただ、これだけのことが嬉しいと思える僕は単純なのか。少しだけため息がでそうになる。僕もまったく変わってしまったのかもしれない。風紀委員長としての僕は一体どこに行ってしまったの、か(まぁ、だけど、こんな自分も嫌いじゃないと思えるから別にどうでも良いか)そう思いながらもう用事も終わったし電話を切ろうとすれば向こうからの声がまた聞こえてきた。一体まだ、なにかあるのだろうか、と思っていればその言葉はまったく僕の予想に反した言葉だった。

















「えっと、あの、今、雲雀さん、何処にいるんですか?!」










「・・・・・応接室だけど、それが『じゃあ、今すぐ行きますから、待っててくださいね!』















え、ちょっとこの子何言い出すんだ、っと驚いているうちに電話はきれてしまい向こうからはまた電話特有の機械音しか聞こえなくなっていた。もしかして、がこの応接室に来るってこと?(いや、だけど、どうしてがここに来る必要があるんだ)そわそわと落ち着きがなくなってしまい、僕はどうして良いのか分からなくなってしまう。なんで、急にはここに来るなんていいだしたんだろう。それもあの子僕の了承とか得てないのに、勝手に来るって決めてたよね?まぁ、用事なんて今はないから別に良いんだけど、むしろ来てくれるのを喜んでる自分がいるのもたしかなんだけど・・・・・・!








そう思っていれば応接室の向こうが少しだけ騒がしくなった気がした。外には草壁と吉田がいるはずだけど、あいつらが騒がしくするはずがない(騒がしくしたら僕が容赦なく咬み殺すことは分かっていることだろうからね)もしかしたら、が来たのかもしれないと思って僕は我慢ならずに応接室のドアを思いっきり開けた。

















バンッ













ドアを開けた瞬間に何かを殺ってしまった感触。どうやら、吉田の頭に僕が開けたドアが思いっきり当たってしまったらしい。何やってるんだ、コイツは。ドアの前に立つからいけないんだよ、と涙目の吉田を一瞥する(この男、風紀委員の癖にこのぐらいで涙目になるなんて、ふざけてるの?)そして、僕が思ったとおりはいた「?」と声をかけて応接室へと招く。その間、僕はずっと吉田の存在は無視していた。別に、いつもと仲が良いから嫉妬しているなんてことはない。ただ、少しだけ良い気味だと思ったのは確かだけど。













応接室でに何をしにきたのか聞けば、どうやらこの子は今日の晩御飯の為に僕に好きな料理を聞きに来たらしい。それを聞いた瞬間、まさかそんな事のためだけに来るなんて驚いたけど、すごく嬉しかった。ただそんなことの為に僕に会いに来てくれたんだ。これを喜ばずにはいられるだろうか。それに、今日の晩御飯はの手料理を食べる事ができる。それも僕にとってはすごく嬉しい事だった。




「は、はい!じゃあ、今日の晩御飯はハンバーグ作りますね」と言うが、とても愛らしくて、僕の好きな子が僕の好きな料理を作ってくれるなんて、なんて幸せな事だろうとも、思った。










「あの、雲雀さん、」






「なんだい?」










がまだ何か僕に言いたい事があるのか、僕の名前を呼ぶ(早く下の名前で呼ばれたい、と思ってしまった)















「・・・今日も遅いんですか?」












悲しそうなの顔に、昨夜母さんから言われた言葉を思い出した。あぁ、母さんはこのことを僕に伝えたかったのか。はきっと今日も僕の帰りが遅いと思っているんだろう。だから、こんなに寂しそうな顔をしてくれているの、か。僕がいなくて寂しいと思ってくれているの?なんて、とても聞けるわけなくて、目の前のはハッとしたように笑顔をつくると何事も無かったかのように応接室から出て行ってしまった。














に寂しい思いはさせたくないから、ね」

















僕は思い立ったように再び応接室のドアを思いっきりあける。またもや、バンッという威勢の良い音が聞こえて、頭を抑えている吉田がいた(まったく、この男がドアの前にいるから)は既にそこにはいなくて、僕はまた涙目になっている吉田を無視して草壁に「今日の放課後、僕はいないから仕事しておいて」と伝える。草壁からは「分かりました」と言う言葉が返って来て、僕は応接室へと戻った。











机に座り、先ほどのの顔を思い出す。あの時のお顔は本当に寂しそうで、もうあんな顔はさせないと昨日思ったばっかりだったのに、と少しだけ落ち込んだ(この僕が落ち込むなんて)だけど、本当には一人が嫌いらしい。だったら、を一人にさせるわけにはいかない。決まっている。それに風紀の仕事なんかより、の方が大切なんだ。今日は早く帰って、と一緒にの作ったハンバーグを食べよう。だから、もう寂しい顔はしないで、。いや、もう僕が君に寂しい顔はさせないよ。










君の手料理が今から楽しみだ
















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(2008・02・05)

久々すぎてすみませぇぇぇん(土下座)これからはもう少し更新頑張ります・・・・・!