今日の晩御飯の時、聞かされた言葉は僕はどう受け止めればよいんだろうか。母さんからの「私たち、明日から旅行に行ってくるから 」の一言。これはと近付くチャンスと言えば、チャンスなのだけど果たしてそのチャンスを僕は生かせるのだろうか。確かに、と初めて会った時よりはずっと仲良くなったのは思う(これは自惚れではなくて)だけど、家に二人っきりって考えるだけで僕は緊張してしまう。考えるだけで緊張してしまうのだから、実際二人っきりになったら緊張を軽く飛び越えるくらいは覚悟しておいた方が良いだろう。


















「(・・・・チャンスを生かすか殺すかは僕自身か)」















それにしても、母さんの言葉に僕が何も言い返せないなんて、僕が言うのは何だけどすごい事だと思う。だけど、母さんはの大好きなお母さんであって、そんな人に僕が逆らえる事もなく、が大切だと思う人は大切にしなければならないと思ってしまう。まぁ、今回の母さんの一言は僕にとって良いことだったし、あれ以上何かいって母さん達の新婚旅行が中止になってしまうというのも困る話だ。には悪いけど、ね。





















コンコン









ドアを叩く音に、僕は起き上がる。一体、誰なんだろうかと思えばドアの外からは「恭弥くん」と母さんが僕を呼ぶ声が聞こえた。父さんだったら、無視して寝たふりでもしておこうかとも思ったけど、母さんなら話は別だ。それに母さんが僕の部屋まで来るなんて珍しい。のことで何か話でもあるのだろうか。と思いつつ、僕はベッドから体を起こし、ドアに向う。ドアを開ければ、母さんがいつもの笑顔で立っていた。(やっぱり親子なんだろう。に、よく似ている)













「あら、恭弥くんもしかして寝てた?」











「・・・・いえ」










「それなら、良かったわ。それで恭弥くんにお願いがあるんだけど」











「?」



















を、よろしくお願いね」













母さんが、心配そうに微笑みながら言った。僕としてはそんな事お願いされなくても、とは思ったけれどさすがにそんな事口に出すことはできなくて(こんな事僕が言うなんてガラでもないし、恥ずかしすぎる)僕はただただ母さんの言葉をまった。だけど、こんな事改めて言うなんて何故だろう。母さんだって、こんな事改めて言わなくても僕がのことを気にかけていることは知っているはず。だったら、改めてこんな事言わなくても良いとは思うのに。まぁ、それだけのことが心配なのだろうか。あの子を一人っきりにすると危なそうだし。












・・・・・・いや、まてよ?は父さんと母さんが再婚するまで、母さんと二人暮らしで十分一人でやってこれたはず。家事だってやらなかったわけじゃないし、それならここまで心配する必要もないはずだ(確かにあの子はどこか抜けているところがあるとは思うけど)


















「恭弥くんもいきなりこんな事言われて驚いてるわよね?たかが、二泊三日私達がいないだけなのに」














「・・・・・」











「言っておくけど、は一通りの家事はできるのよ?たまに、失敗する事もあるけれど











「(たまに失敗するんだ)」













まるで僕の考えていたことが分かっていたかのような母さんの言葉に僕は少なからず、驚いた。僕はとは違って考えていることが顔にでることはないのに(いや、まぁ、そんなところもの可愛いところなんだけどね)それに、やっぱりは失敗する事があるらしい。らしいといえば、らしいなと少しだけ笑みがこぼれそうになった。
















「・・・・恭弥くんも知っているかもしれないのだけど、は一人が嫌いなの」












「・・・・・(いや、だって再婚するまではいつも家で一人だったはずなのに)」













「私と二人ぐらいのときはあの子は一人でいることが当たり前だったけど、再婚してから一人でいることはなくなったでしょう?」

















確かに、父さんが再婚してから一緒に暮らすようになって、母さんは大体家にいるし父さんだって帰るのは早い。もちろん僕だって、そりゃ風紀の仕事があるから帰りは遅いけど、マンションは引き払ったからちゃんと遅くなってもこの家に帰ってくる。だから、彼女がこの家で一人きりになることは絶対にないに等しい。ましてや、学校ではは友達に囲まれているから一人になるなんてほとんどないだろう(他の奴だったら群れていたらグチャグチャに咬み殺してやるのに)

















は一人でいる寂しさも知っているし、一人じゃない嬉しさも知ってるの・・・」

















だから心配で、と言う母さんの言葉は殆ど聞こえなかった。母さんの言うとおり一人じゃないと言う事を知ってしまったら、一人になることが嫌で嫌でたまらなくなってしまうと思う(僕は、一人が嫌なんてあまり思ったことはないけど)それなら、が一人にならないようにここ三日間ぐらいは風紀の仕事も草壁にでも任せて早めに帰ってくることにする。だって、僕はの泣きそうな顔なんて見たくもないのだから。




















「僕が、に寂しい思いはさせないから安心してよ、母さん」






















咄嗟に出てきた言葉。その言葉に、母さんだけじゃなく僕も驚いた。だけど、母さんはゆっくりと微笑むと「ありがとう」と言われた。ありがとう、なんて言われもただ僕がの泣きそうな顔を見たくないから言ったまでの言葉なのに。所詮僕は、自分のことだけしか考えていない。母さんは、それだけ言うと、階段を降りて下へと戻っていった。自分の部屋のドアを閉める前に、チラリとの部屋のドアを見る。の部屋からは物音一つ聞こえてくる気配はない(のことだから、もう寝てしまったんだろうね)






















再びベッドに体をあずけ、僕は目を閉じた。瞼の裏には、先日のの顔が映し出されていて、その顔は僕の好きな笑顔なんかじゃなくて、今にも泣きそうな笑顔だった。お願いだから、そんな顔で笑わないで、と言いたいのに僕は何もいえない(・・・・臆病にもほどがあるじゃないか)だけど、この三日間の間に絶対にそんな顔はさせないからね、





















「(それにしてもは一人が嫌いなのか・・・)」















風紀委員長で不良の頂点として怖がられて群れるのを嫌う僕の、妹が(まぁ、妹といっても義妹だし、僕にとっては大切な女の子なんだけど)群れるのを好くなんて少しだけ可笑しな話だ。だけど、が群れるのを好きだ何ていっても僕は咬み殺す気はまったくない。むしろ、が悲しい思いをしないと言うのならば、群れても何もいえない。まぁ、僕としてはが群れると言うのなら僕を選んでくれたら嬉しいんだけどね。明日からの事を考えると、少しだけ今日は眠れそうになかった。
















君が独りになりたくないなら



僕が傍にいるよ











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(2007・10・28)