もう一度、本物の君の笑顔を
「あ、の、」
今まで見たことも無い真剣な顔のままは歯切れが悪そうに言葉を発した。いや、真剣な顔と言ってもどことなく悲しそうな顔に見える。一体、誰がにこんな顔をさせているんだと考えてみれば、答えは意外と簡単に出た。にこんな悲しそうな顔をさせているのは、他の誰でもない、僕だ。
だって、ここにはと僕以外の人間はいないし、は先ほどまで嬉しそうにこの満点の星空を見上げていたのだ(そう、先ほどまでは、だ)よく考えて見れば、僕以外にこんな顔をさせることはできない。
「なに?」
一向に続きを話し出そうとしないに僕は痺れをきらして声をかける。この先の言葉に、一体どれだけの重みがあるかなんて僕には分からないし、聞きたくないと言えば聞きたくないのかもしれない。だって、がこんな顔をして言う言葉は僕にとって良い一言だなんて言う可能性は低い。どちらかと言えば、僕にとっては良くない言葉の可能性のほうが高いんだ。だけど、それでものこの先の言葉が気になったのは紛れもない真実。だって、この先の言葉を聞かなければ、何故がこんなに悲しそうな顔をしているかなんて僕には分かりっこないのだ(君の全てがしりたい、だなんて思う僕は我侭なのだろうか)
「・・・いや、何も無いです」
「(嘘つき)」
本当はそんなことないんだろう?と言う言葉は飲み込んだ。が言いたくないというのなら、僕も無理やりに聞くつもりなんてない。だけど、先ほどのは何か僕に聞きたいことがあったのだろうと思えた。何か僕には聞きにくいことだったのか、結局は聞いてこなかったけど。だけど、僕はに聞かれたことなら喜んでその質問に答えたことだろうと思う。僕はには僕の全てを知って欲しいと思うし、僕はの全てを知りたいと思う。これは、好きな子を相手にしたら当たり前の感情だろう(今まで好きな子なんて意外でできたことなんてないけれど)
「ふーん」
僕はなるべくに気付かれないように、素っ気無くてあたかも興味がなさそうな声をだした。でも、見て見ぬフリをするのは今回だけだ。僕だってがこんな悲しそうな顔をしている理由が気になるし、それにその顔をさせているのが誰でもない僕だってことには耐え切れないことなんだ。僕の何がにこんな顔をさせているのか、その理由が分からない限り僕はにいつまでもこんな顔をさせてしまうかもしれない。僕にはそんなの耐え切れるわけがないんだ。
「眠そうですね。今日も風紀委員大変だったん、ですか?」
がまるで今までの空気を吹き飛ばすかのように話題をかえて来た。その顔には先ほどまでの悲しそうな顔なんてなくて、笑顔だった。だけど、違う。今のの笑顔はまるで無理やりつくったかのような笑顔で今日の昼に応接室で僕に見せてくれた(本当は紅茶に向けた笑顔だったけど)笑顔とは全然違う。確かに僕は一番、の笑顔が好きだ。でも、僕が好きなのはこんな笑顔ではなくて、まわりを一気に明るくするような笑顔が好きなんだ。今日の昼に初めて見せてくれた、笑顔。もう、その笑顔を見せてくれるつもりはないの?
「あぁ、ちょっと書類が溜まってたしね」
でも、今だけはその笑顔に騙されてあげる(今だけ、)はきっと僕が今の笑顔が無理やりつくっているものだと言う事に気付いている事に気付いていないのだろう。まだ出会って何日間も経っていない僕にそんな事気付かれるわけがないと思っていることだと思うけど、本当は僕はずっと前からを見てきたんだ。君は気付いていなかったど、何回も見た、君の笑顔。僕が惹かれたのはその笑顔だったんだから。だって、僕にはの様にあんなに嬉しそうに笑うことなんてできない。僕は君に出会うまで笑うことなんて忘れていたんだから。
時計を見ればもう10時も過ぎていた。遅いと言われればそう感じるかも知れないけれど、最近の中学生はもっと遅い時間に寝ている。だけどを見れば、眠いのか欠伸をかみころしているようにも見えて、もう眠そうだった。僕が欠伸をするのは眠いと言ったわけではなくて(いや、確かに眠い時もあるけど)、退屈だと感じた時が多い。だけど、の場合は違うんだろう。この子の場合は本当に眠いから欠伸をするんだろう。
「えっと、じゃあ私もう寝ますね。おやすみなさい」
やっぱり。本当はもっとと話していたいと思う。でも、これ以上を起こしていて明日遅刻されては困る(また風紀の仕事を手伝って貰えるば良いだけだし、そちらの方が僕は嬉しいけれど)それに、僕自身、今のの痛々しい笑顔をこれ以上見ているのには無理があった。だって、僕は君のこんな顔を見たくは無い。僕が見たいのはいつだって、君の笑顔だ。もしも、この原因が僕ならはこれ以上僕と話したくないのかもしれないとまで思えてきたのだ(この僕は、こんなに弱気になるなんて僕らしくない)は君は一体、何を考えているんだい?今はそれだけが気になって仕方が無い。
「おやすみ、」
に声をかけて僕は顔を引っ込めるとドアを閉めてカーテンを閉めた。電気のついていないくらい部屋でまた一人の空間が広がった。先ほどまでと話しているときはこんなに暗い部屋だと感じなかったのに可笑しな話だ。まるで、僕の気持ちまで暗くなってしまう。だけど、大丈夫。こんなに弱気な僕は今だけだ。明日からはまたにあの笑顔を見せてもらえるように頑張ろう。だから、覚悟しておいてね。そう僕は心の中で呟いた。
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(2007・10・07)