神様がくれたチャンス?!
父さんに、新しい家族ができるといわれた時はそこまで驚く事はなかった。このときの僕は、近くのマンションで借りて貰っていたし、これからもそんな生活をしていこうと思っていた。だって、僕にとって父さんは小さい頃から家にろく帰って来ないような人で、最近は家によく帰ってくるようだけど、そんな父さんから僕は自分から離れた。新しい家族と新しい家?僕にはそんなもの必要ない。僕はいつだって、一人だ。群れる事なんて嫌いだ。そんな事を考えているとの顔がうかんだ。まったくもって、群れる事が嫌いだなんて言いながらの事を考えるなんて、あまりにも矛盾している。
「恭弥、ここがお前の部屋だ」
そう言われて、僕は新しい家の新しい僕の部屋に入った。それだけを言うと父さんは下へと降りて行った。どうせ、僕がここに戻ってくる事なんてほとんどないと思う。新しい家族なんて面倒くさいだけだし、一切関わる気なんてなかった。新しい家族とやらが来る前にマンションの方に戻ろうと思い、僕は学ランを羽織り自分の部屋のドアを開けた。ふと見れば、となりの部屋のドアが少し開いてある。階段を降りる為に前を通れば、ピンク一色の部屋が見えた。どうやら新しい家族の中には女子がいるらしい。姉か妹か、僕にとってはどちらでも関係ない。だけど、父さんさすがにこれだけピンク一色の部屋はないと思うよ。女の子だったらピンクって、父さんの考えは単純だな。だったら何色が似合うだろう・・・こんな時までのことを考えるなんて僕は、末期症状なのではないかと思う。
階段を降りていくと、唐突にチャイムの音が鳴った。父さんがドアを開ける音が聞こえる。僕は少しの間、そこから動かなかった。いや、動けなかった。聞こえた声の中に、あまりにもと似た声があった。僕とした事が、好きなこの声を聞き間違えるなんて、はぁ、とため息が出る。どうやら僕は本当に末期症状らしい。「恭弥ー」父さんの声が聞こえる。新しい家族なんて興味はない。けど、どうして僕の足は素直にリビングの方へと向っているのだろうか。
「恭弥くん、と仲良くしてあげてね」
「はい」
まさか、あの声が本当にの声だったとは。新しく母さんになる、の母親に言われた瞬間、僕はすぐに返事を返した。はというと、どうやら固まっているらしい。さすがの僕もそこまで怯えられると、悲しいけれど、僕としてはこれは神様がくれたチャンスだ。(普段、神様なんて信じないけど)どうやって仲良くなろう。どうやって僕の事を好きになってもらおう。考えれば考えるほど、どうしたら良いか分からなくなってきた(ワォ、僕としたことが!!)
父さんがをつれて、上の部屋へと案内しに行った。今頃、はあのピンク一色の部屋を見て驚いている事だろう。あぁ、僕のとなりの部屋がの部屋だなんて。これから、マンションに行く事はなさそうだ。僕は多分、と言うか絶対この家に戻ってくるに決まっている。父さんに言って、あのマンションは今すぐでも引き払ってもらおう。父さんは戻ってくると、嬉しそうに新しい母親・・・・母さんに何か言っていた。どうやら、父さんはのことがとても気に入ったらしい。まぁ、あんな良い子を気に入らないわけが無い(何故か僕まで嬉しくなってしまった)
「恭弥くん、ご飯ができたからを呼んできてくれるかしら」
そう言われて、僕は素直に立ち上がった。父さんは少し驚いた様子で僕を見ていたようだけど、僕だってまさか人のために動くなんて考えてもいなかった。だけど、母さんは僕とがまだ一言も会話を交わしていない事に気を使って、僕に頼んだんだろうし、僕だって、本当はずっとと話してみたかった。階段を上がっていく、少しだけ緊張してきた。どんなに強い相手を前にしたときでもここまで緊張するなんて初めてのことだ。むしろ、強い相手を前にしたときはどうやって咬み殺そうかとウズウズしてくる。
僕の隣の部屋であるの部屋のドアの前で止まる。今、は何をしているんだろう。って考えていた。何か僕変態みたいじゃないか?はぁと息を吐いて、僕はノックをしようと手を上げようとした・・・・ガンッ!!
・・・・ガンッ?
いきなり目の前のドアが僕に向って迫ってきたと思うと、そのドアは僕の額にクリーンヒットしてしまった。思わず、手でそこをおおう。地味に痛いかもしれない。まさか、こんなお約束な展開いらないだろうと思いつつ顔を上げれば、そこには顔を真っ青にしたが立っていた。どうやら、僕の顔にドアを直撃させたことを気にしているようだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
ものすごい勢いで頭を下げるに、思わず笑みがこぼれそうになった。どうしてこんなに可愛いんだ、この子・・・!!そんなだらしない顔をに見られるわけにはいかなかった僕は、「夕食」とだけ言い残すと、下の階へと向った。本当はもっと話す予定だったのに。だけど、時間ならたくさんある。同じ家に住んでいるんだ。話す機会はたくさんある。その時までの楽しみが少しのびただけでのことだ、そう思って僕はどうにか口角があがってしまうのをおさえていた。
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(2007・08・09)