親子の会話に込められた意味
台所ではお母さんがせわしく晩御飯の準備をしている。私はそんなお母さんの手伝いもしないで(いつもはしてるんだよ!!)、今日は早く帰ってきたお父さんと仲良くテレビを見ていた。テレビの中の家族は仲が悪いみたいで、なんとお兄ちゃんは家にほとんど帰ってこないらしい。それに比べると、家はなんと幸せなんだろうと思う。お母さんとお父さんは再婚同士だけどラブラブで、義兄である雲雀さんは、まぁ、最強風紀委員長なんて言われたりもするけど、実は優しいところもあるし。私って、本当に幸せモノだな!!なんて、考えてると時計はもう8時を過ぎていた。雲雀さんは、まだ帰ってこない。
「遅い」
「・・・・・恭弥のことかい?」
どうやら小さい声で呟いたつもりだったけど、お父さんに聞かれていたらしい。私はお父さんの言葉に、軽く頷く。すると、お父さんは目をスッと細めて、微笑みながら私の方を見てきた。その顔は何だか、嬉しそうで、私には何が嬉しいのかはまったく分からなかった。まぁ、私は読心術なんて使えないから仕方がないことだと思うんだけどね。だけど、そんな顔されたら気になるって言うのがお年頃ってものでしょう!(いや、それは違うか?)しかし、気になったのはその事以上に、次のお父さんの言葉だ。
「は知らないと思うけど、恭弥は以前はろくに帰ってこない子だったんだよ」
「え、えぇ?!」
「恭弥にはマンションを与えていたんだ」
うわ、なんて贅沢な・・・!!なんて、ここはそんな事考えている所じゃないだろ、自分。だって、雲雀さんはまだ2日間ぐらいの付き合いしかないけど、ずっと家に帰ってきているし、そんな風には思わなかった。だけど、家族なのに、雲雀さんはまだ中学生なのに、一人で暮らすなんて寂しくなかったんだろうか?私だったら、寂しくて死んじゃうかもしれない。大げさに聞こえるかもしれないけど、私は正直一人は嫌いだ。お母さんと二人暮らしの時も、お母さんが仕事で遅くなった時は早く帰ってこないかと、玄関辺りでうろうろすることなんて珍しい事じゃなかった。それなのに、雲雀さんは・・・
「だけど、恭弥は君が来てからマンションなんていらないなんて言い出したんだよ」
「・・・・」
「それにと話すときの恭弥は優しい顔をしている。僕は恭弥のあんな顔、今まで一度も見た事はない」
まさか、そんなことはないだろう。だって、私と話す時の雲雀さんは別にいつもとかわらないはずだ。確かに今まで私が抱いていた雲雀恭弥のイメージとは大分違っているような気がしないこともないし、未だ咬み殺されるところか、トンファーでさえ見た事が無いこともないけど、それとこれとは別のような気がする。お父さんが言ってるからって調子にのるなよ自分★だ、だけど、お父さんの言葉で少し嬉しいと思ってしまったのも事実なんですよね(あぁ、なんて私は単純なんだ!!)
「恭弥が帰ってくると分かっているからこそ、遅くなればは心配するし、僕も心配する」
「・・・はい」
「だけど、今までそんな風に思った事がなかったんだよ。家に帰っても恭弥は帰ってこないから」
お父さんの言葉に、胸が痛んだ。家に帰って、誰からも「おかえり」って言って貰えないのは寂しいと言う事を、私は知っている。その状況を自分から作った雲雀さんは一体何を思っていたんだろう。だけど、雲雀さんだって寂しかったんじゃないかな。だって、目の前のお父さんの顔は少し、ほんの少しだけ寂しそうだった。
「のおかげで僕も恭弥とずっと前の関係に戻れそうだよ。本当にありがとう」
そういって、お父さんは微笑んだ。その顔はどことなく今日の雲雀さんが微笑んだ顔に似ているような気がした。だけど、私は何もしていないのに、御礼なんて言われても、困る。むしろ、私のほうがお礼を言いたいぐらいなのだ。こんな素敵なお父さんができて、何だかんだ言いつつ雲雀さんも優しくて、私は今、一人じゃないと実感できている。それはなにものにも代えられないくらい、私にとっての幸せなのだから。
ガチャッ
玄関のドアが開く音がした。多分、雲雀さんが帰ってきたのだろう。私は立ち上がって、玄関の方へと向った。立ち上がったとき、お父さんの顔を見たら、とても優しく微笑みながら私の方を見ていた。
「お、おかえりなさい」
雲雀さんが靴をぬいでいるところで、私は声をかけた。思えば、おかえりなさいなんて、雲雀さんにははじめて言ったかもしれない。・・・・って、今気付いたんですけど、雲雀さんの学ランに赤いものがついているような気がするんですよね。え、これ私の見間違い?いやいや、多分、見間違いなんかじゃないですよね。あぁ、帰ってくるのが遅い理由が分かってしまいました。(できることなら、分かりたくなかったな!!)
「ただいま」
雲雀さんの言葉に、私はまたほんのりと顔が赤くなるのを感じた。
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(2007・07・29)