誰かに名前を呼ばれた。そう思い、瞳をあければ、そこにはクロームと犬と千種の姿があった。寝ていたわけじゃない。ただ、あちらに思考をやっていただけのこと。だけど、最近寝ていない僕を心配していた3人にそんなこと言えるわけもなく、僕は「どうしたんですか?」と言って微笑んでいた。


「骸様、ボスが呼んでる」

「ボンゴレがですか?」

「えぇ、守護者に集まって欲しい、と」


守護者に集まって欲しい、と言うことは重要な問題なんだろう、と思う。そこで一瞬頭をよぎったのは、数日前からいなくなっていたの顔だった。ここ最近、僕が、いや、僕だけでなく他の誰もが眠れない理由。どこに消えてしまったのか、彼女は僕らの前からいなくなってしまった。

しかし、僕は知っていた。彼女が今どこにいるのか、を。そして、何をしているのかを。

他の彼女の行方を知りたがっている人たちでさえ、知らないことを僕は知っていた。そして、それを今、誰かの教えようとは思っていなかった。誰かに伝えたとしてもどうにもならないことを、僕は知っている。


「そうですか、では行ってきます」

「っ、骸さん」

「大丈夫ですよ、犬。」


不安そうに僕を見る三人に、視線を合わせて言えば、三人はそれ以上何も言わなかった。僕にとって彼女が特別な存在であるように、この三人にとってもまた彼女は特別な存在で、いなくなった今、彼女を心配する者はこれでもか、という程多い。
あの雲雀恭弥でさえ、顔には出さなくても心配しているだ。本当に彼女は、自分がいなくなった後のことまで考えた上であんなところにいるんだろうか。
それなら、そうで、嫌味の一つでも言ってやりたい気持ちになる。

僕らが今、どんな気持ちで君の事を考えているのか、きっと彼女は知らないんだろう。だから、彼女はあんな所にいて、あんな奴の部下をしている。それにはきっと彼女にも彼女なりの理由がある。もうそれは、分かりきったことだ。


彼女が自らの意思でボンゴレを離れるなんて、ちょっとやそっとのことが原因じゃない。
それが、何故。彼女がボンゴレを離れてあんな所に入るのか。なんとなく予想はついていた。彼女のこと。そして、彼女の現在の上司のこと。そのすべてを考えていけば、おのずと答えはでてくる。




ですが、それでも君を許せないと僕は思うんですよ。

君が何故そこにいるのか理由が分かるからこそ。




ボンゴレからの話は僕の予想に遠からずも近からずといった話だった。誰もが何もしゃべろうとはしない。まさか、ボンゴレからの話がミルフィオーレからの停戦の話とは誰も考えていなかったんだろう。
困惑の表情を浮かべるもの、素直に驚いているもの、それぞれの表情をうかべながら、僕はその中で一人、微笑をうかべていた。それは自嘲にも似た笑みだったのかもしれない。視線の端にこちらを、怪訝そうな目で見ている雲雀恭弥の視線が目に入った。それでも、僕は笑みを浮かべるのをやめることはなかった。
彼女が僕らの前から姿を消して、あの場所にいた理由。そして、ミルフィオーレからの停戦の話。



あぁ、やっぱり。

彼女は自分を犠牲にしたというわけですか。



彼女らしいといえば、彼女らしい、選択。僕らを守るために、彼女は自分を犠牲にしてまでミルフィオーレにいるんだろう。あまりにも、陳腐で、おろかな。最近の三流映画でさえ、そんなストーリーはなくなったというのに。自分を犠牲にして、僕らが守れるとでも思っているんでしょうか。


本当に馬鹿、な人だ。馬鹿で、愚かで、そして、彼女は優しすぎる。


僕らがそんな風に守られて嬉しいと思っているなら、それは間違っているのに。彼女はそんな簡単なことにも気づかないほど、馬鹿ではないと思っていたのに。


「…貴女は、本当に、愚かだ」


僕が今、どんな気持ちで貴女の事を思っているのかなんて、知る由もないんでしょうね。そして、そのことをずっとこの先も知ろうとせずに、白蘭の下で働き続けるつもりですか?そんな事、させたくはない。いや、させるわけがない。

僕が、ここにいるのだから、君もここにいるべきなんですよ。君はずっと、このボンゴレにいるべき人なんだから。それに、忘れてもらっては困りますよ。僕がここに来た理由。そして、原因を。クロームや千種や、犬がここにいる理由を。誰かさんのせいで、僕達は憎むべきマフィアへとなった。まさか、忘れた、なんて言わせやしない。あの日。あの時の、ことを。僕達と、君との会話を。


さて、どうしたものでしょうか。

そんなこと問わなくても、もう僕の気持ちは決まっている。視線を上げて、守護者達の表情を伺う。まだ、言うべき時ではない。


「それで、の情報は何も入ってきてないの?」


静かになっていた、部屋に、その一言は響いた。雲雀恭弥の抑揚のない声。
その様子を見れば、ほとんどの人はいつもと代わったところはないのだと感じることだろう。だけど、この声には僅かに彼女を心配しているような声色が含まれていた。その一言に、ボンゴレは首を横に振る。そして再び訪れた静寂。


。君はこんなにも想われているのにも関わらず、なんてことを、


あの場所で見かける彼女の顔から笑顔なんてもの、見られなかった。ここにいるときにはいつも振りまいていたあの笑顔が。ただただ、目を細めて、口端をあげるだけの表情。
そんな表情をするくらいなら、ここに戻ってくれば良いんですよ。君は。何も考えずに、君はここにいればよかったんだ。
守られるだけでは嫌だ、といつも漏らしていた。彼女はいまだ気づかないんだろうか。彼女のすべてが、僕らを守っていたことを。守られているのは僕らだったことを。


馬鹿、な人だ。


自分の価値を何一つわかっていない。君に似合う花はダリアなんかではない。裏切りなんて、言葉君にはまったく似合わない。それに、貴女は華麗でも、優雅でもないでしょう?だから、そんな花飾りなんて早く外してしまえば良い。君はもっと、似合う花がたくさんあるのだから。




君に似合う花





(僕が君に似合う花を送ります。だから、早くここに帰って来て下さい)









(2008・07・14)
ダリアの花言葉 華麗・優雅・裏切り