私の言葉に、走りよってくる人物。この屋敷内の中で一番幼いであろうランボくんが、泣きそうな顔でそれでも微笑をつくりながらいた。
いつもは落ち着いた表情をするランボくんの珍しい表情で、少しだけ驚いてしまった。この場所で留守番をしてくれていたランボくんは私の傍までくると、私の手を優しく包み込んだ。まるでそれは私がこの場所にいるのを確かめるかのような行動。
もしかしたら、私がいない間ランボくんに寂しい思いをさせていたのかもしれない。それはきっとうぬぼれなんかではなくて、ランボくんはホッと一息はくと再び笑顔をつくり、「おかえりなさい、さん」と言った。
「ただいま、ランボくん」
私もそれに応えるかのようにランボくんの手を握りしめる。そうすれば、一瞬だけ目を丸くしたランボくんも嬉しそうな表情を作った。
「さんの好きなお茶を準備して待ってたんです。それにお菓子も準備してるんです」
「うん」
「だから、一緒にお茶にしましょう」
ミルフィオーレに行く前と変わらない会話。ランボくんの淹れてくれたお茶はきっと美味しいに違いない。だって、そのお茶を私は大好きな人たちと飲むことができるのだから。
「留守番お疲れ様、ランボ」
「ボンゴレも、おかえりなさい」
「ちゃんと準備して待っててくれたんだな。ありがとう」
ツナが言えば、ランボくんは「俺にはこんなことしかできませんから」と寂しそうに微笑んだ。そんなことないよ、と思わず出てきた一言に自分自身も驚きながら私以上に驚いた表情でこちらを見てきたランボくんと視線を合わせる。
「こんなことなんて、言わないでよ。私はランボくんがお茶を淹れてくれるのが凄く好きだから」
「そうだよ、ランボ。だからこれはランボにしかできない仕事だって、言っただろ?」
幼いランボくんを戦場に出したくはない。こんなマフィアにしては甘い考えなんだろう。だけど、ツナだってそう思っている。だからこそ、今回もランボくんをミルフィオーレには連れてこなかった。彼が弱い、と言うことはない。でも、ツナはランボくんがミルフィオーレに来ることを望んでなかったことを分かってはくれていたんだろう。
私は彼がミルフィオーレに来るよりも、ここで待っていてくれていて良かったと感じている。
「ありがとう、ランボくん」
「はいっ!」
お礼を言えば微笑を返してくれるランボくん。いつもはみんなでお茶なんてしても、その場にはいない雲雀さんも骸さんも一緒に向かう。みんなで飲むお茶は、とても美味しくてたまらない。
「おかえり」
「ただいま」
何回もこの言葉を繰り返す。会う人、会う人が私におかえりと言ってくれる。千種くんも犬くんも、凪ちゃんも、嬉しそうに私を迎えてくれた。獄寺は珍しく私を怒鳴ることなく、私の頭を撫でてくれる。
一人ひとりの私への反応。それがとても愛おしい。
守ると決めてあの場所へと行ったはずなのに、私は結局誰一人守ることはできなかった。なのに、誰一人として私を責める者も、罵倒する者もいない。何も変わらずに私の居場所があるこの場に、ただ愛しさだけが募っていく。
目を閉じれば、散ったダリアの花弁がひらひらと私の目の前を舞い落ちていく。その先にいる白蘭の表情。彼の寂しそうな表情に僅かに私の胸が痛むのを感じ、私は目を開けた。目の前にいるのは私の大切な仲間達。彼には大切だと思えるような仲間と言う存在がいないからこそ、あんなに寂しそうな表情をしたんじゃないだろうか。
これはただの憶測。本当のことは白蘭にしか分からない。それでも子供のように泣き出しそうな彼の表情は、それを物語っていたような気がした。
泣きたいなら泣けば良いのに、
ふと白蘭に対してそんなことを思ってしまう。つらいなら泣いたほうが楽になれるに決まっている。でも、彼には泣く場所なんてないんだろう。ボスとしての居場所しかないミルフィオーレには。もうミルフィオーレのことなんて忘れれば良いの、と思うにも関わらずどうしてもあの寂しそうな表情をした白蘭のことを思い出してしまう。つくづく厄介な性格をしているな、と自分でも思う。
それでも私は白蘭のことをほってはおけないんだろう。あんな子供を、ほっておけるわけがない。自ら私は白蘭の元へといくつもりはまったくもってないけれど、休日の日。
私の足が自然と白蘭と初めて会った場所へと向かうのはもう分かりきったことかもしれない。それに、私は他の人たちにも会いたいと願っているから。
ボンゴレのに会いたいといってくれた入江くんとスパナさん。彼らに会うためにはまずそのボスを説得するのが一番の近道かもしれない。
散り舞う花弁
( 悲しみに咲いた花は散っていく。新たに咲くのは幸せの花)
(2008・11・16)
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