もしかしたら雲雀さんと骸さんが一緒に戦えば白蘭に勝てるかもしれない。だけど、この二人に共同作業なんてできるわけがないと言うのは、私が良く分かっている。それに、二人を目の前にしても変わらない白蘭の様子を見れば、この二人に負けるなんて思ってもいないのかもしれない。だったら、ここでの戦いは避けたい。この二人に傷を負ってもらいたくない。それも、私をここに助けに来た為だなんて理由で。


私の言葉に、白蘭は笑った。
その笑みが今までの笑みと違って、少しだけ寂しそうだと、私は感じた。雲雀さんや骸さんは何も言わないけど後ろで不機嫌になっているんだろうと思う。

さぁ、白蘭は何て答えを?

思わずでた笑みは、あまりに自分が馬鹿な提案をしてしまったことからか。私の提案なんて聞き入れても白蘭に良いことなんて一つもない。そんなこと分かりきっているはずなのに、そんなことを提案した自分。馬鹿だ、と思う。でも、もしかしたら、という思いが私の中であったのかもしれない。未だ、どこかで響く爆音はとだえることなく響いている。その音が段々と大きくなっていることに、気づき、他の人たちがここにくるのも時間の問題だと感じた。
少しの沈黙。それを打ち消すように白蘭は私の顔を見て、ニッコリと微笑んだ。


「良いよ」


あっさりと紡がれた言葉。この言葉の白蘭の意図を私はつかむことができなかった。そんな私の戸惑いに気づいているのかは分からないけれど、白蘭は淡々と言う。



チャンへの用事はもう済んだし、今日のところは許してあげる」

「許してあげるだなんて、何様だい?」


後ろから苛立ったような雲雀さんの声が聞こえた。まるで上から目線の白蘭のこの言葉に我慢できなかったようだ。
だけど、そんな言葉よりも、私は、私への用事、と言う言葉のほうが気になった。白蘭の私への用事。だけど、それを聞くよりも早く後ろからのびてきた腕が私の腕を掴んだ。もちろん、誰が掴んだかなんて分かりきっている。


「本当はここで戦ってもよいんですが、それではが喜びませんからね」

「不本意だけど、今回だけは見逃してあげるよ」


そう言って私を引っ張り、歩き出した二人の背中を追う。ゆっくりと振り返り見た白蘭の顔はやはりどことなく寂しそうで、だけどまるでそれを隠すかのように彼は微笑んでいた。
あっけない終わり、だとふと感じた。白蘭のあの狂気気味た笑顔をとてつもなく恐かった。だから、約束は守らなければいけないと思った。
でも、約束をやぶった私に対して彼は結局何をすることもなく、私をこの檻から解放してくれた。今は彼を恐いとは思わない。


ただ、まるで白蘭は子供のようだ。


そう感じるのは、彼の表情の違いに気づいたからか。今のあの笑顔を見てしまったからか。何故かは分からないけれど、、笑っている彼の顔は純粋に子供みたいだった。

多分、私は白蘭のことは好きではないけれど、嫌いでもない、と最後に一目見た白蘭の表情を見て思った。そんな事口にしようものなら、目の前で言い争いをしている二人に馬鹿だと罵られると思うけど。
久しぶりに聞いた二人のやりとりに、私は思わず笑みがこぼれていた。でも、止めようと思わないのはこの雰囲気がとても心地の良いものだからなんだろう。ボンゴレにいた時は気づけなかった思いも、私は嫌いではなかった。もしかしたら、その思いに気づけたからこそ私は白蘭のことを嫌いではないのかもしれない。後ろを振り返っても、もうあの私の嫌いな真っ白な部屋は見えなかった。





狂気の裏の寂しさ








(2008・09・30)