一粒の涙が頬を伝いそうになる。私には何も言い返せる言葉なんてなかった。だけど、私の涙が頬を伝う瞬間、目を覆われ何かが腕を掴む感触がした。視界が真っ暗になり、暖かい何かに包まれた感触。

ふわり、と香る匂いは、懐かしい香りがした。


「いえ、にはこんな花、似合いませんよ」


聞きなれた声。


「それに、他の奴らは知らないけど僕はこの子を迎えに来たんだよ」


懐かしい暖かさ。

誰か、なんて考えずも直ぐに分かった。それでも、声が出せなかった。嬉しかったり、どうして、と言う疑問だったり、様々な感情が私の中を渦巻いて、とてもじゃないけれど声を出せる状態じゃなかった。




「白蘭、君にはの涙を見る価値もありませんよ。」




君にはこの子の涙は綺麗すぎるでしょうから。と、骸さんの声が上から聞こえてくる。そして、骸さんの手は私の頭を優しく撫でてくれた。大きくて、暖かい骸さんの掌が、どうしようもなく嬉しくて、涙をとめることができなくなってしまった。
それに気づいた雲雀さんは、「まったく、何してるの」と言いながら掴んでいた腕を離した。視界が明るくなった、そう思ったときには目の前に二人の背中があった。私からはもう白蘭は見えない。私はやっぱり守られている。少しだけ嬉しさの中に、寂しさが芽生えた。

だけど、今は嬉しさが遥かに寂しさを上回っていた。


にこんな花似合わないんですよ」


骸さんは忌々しくそういいながら、ダリアの花飾りを目の前に投げた。それは、ついさっきまで私の髪にとりつけられていた髪飾りだった。いつの間にとったんだろう、と思いながら私は自分の髪に手をやる。
そこには裏切りの証である、あの髪飾りはなくて、私を縛りつけていたものが、なくなったように感じた。


は華麗でも、優雅でもないでしょう」

にはこんな花なんかより、似合う花はほかにたくさんあるよ」


まるで、二人から私は裏切り者なんかではない、と言ってもらえているようだった。二人が、私を振り返り、ゆっくりと、優しい表情をうかべていた。
私は裏切り者じゃないんですか?また、ボンゴレに帰っても良いんですか?と聞きたいのに、声がでてこない。涙だけが、私の頬を流れていく。ありがとう、と言いたいのに、彼らの名前を紡ぎたいのに。私の口からでていくのは、とても綺麗とは言うことのできないような嗚咽だけだった。


「もう、泣かないで下さい」


骸さんの指が私の目元の涙を拭う。


「僕達は君の泣き顔を見に来たわけじゃないからね」


そう言って、雲雀さんは眉間に皺を寄せた。雲雀さんが、僕達、なんて言い方をするのが少しだけ可笑しくて、私は涙を流しながら笑った。彼らが迎えに来てくれた。もう、私は大丈夫。そう思うと涙は止まり、私は顔をあげ、はっきりと二人の顔を見ることができた。






やっと、会えた










(2008・09・09)