朝から降りしきる雨はやむことをしらず、空を覆う雲のせいで暗い暗い世界が視線の先に広がっていた。もちろん、窓にも激しく雨が打ちつけ、静寂の中でその音だけが響いていた。

それでも、こんな雨だろうと、天気なんてもの俺達には関係が無い。晴れになるまで待つなんてことはしないし今日、決行するということは一昨日決めたんだ。
それを今更変えることなんてできるわけもなく、俺達にはどんな天気だろうと覚悟は決まっていた。


きっと、これがただの激しい雨だけじゃなく嵐であったとしても、俺達はこの作戦を決行したことだろう。


会議には骸も、雲雀さんもいなかったけれど、彼らは彼らなりに考えて行動していることを願っている。一応、クロームと草壁さんには今日作戦を決行するということだけは伝えたから、大丈夫だとは思う。
彼らも一人で相手にするには分が悪い相手だということは分かっているだろうし、自分の命を粗末にするような人たちでもない。それでも中々不安はとれないもので俺はその不安をかき消すかのように深呼吸を一つして、俺は部屋に集まっている人物を見た。
骸と雲雀さん以外がそろって、真剣な顔をして俺のほうを見ている。
もちろん、この前の連絡から直ぐに駆けつけた家庭教師の姿もそこにあった。しかし、他の人たちとは違い帽子に隠れ良く表情は見えないものの、その顔にはいつもの不敵な笑みがこぼれていた。僅かに上がった口端がその証拠だ。

俺はそれにため息を覚えながらも、視線をあげまっすぐとみんなの顔を見て、口を開いた。



「じゃあ、みんな作戦通りにお願いね」



絶対に、あの場所からを連れ戻さなければならないから。失敗なんて許され無い。と言う言葉もつけくわえて。

今まで何回も、死と直面してきたけれど、ここまで胸が高まるのは初めてだった。


初めてイタリアの地を踏んだ時。初めて人を殺した時。それに怯え、マフィアを辞めたいと思った時。


いつも俺を支えてくれたのは、であり、ここにいる仲間達だった。しかし、今支えてくれた人物の一人であるはここにはいない。
だから、今度は俺が君を支えるよ。俺が出来ることなんて数少ないけど、でも、支えてもらったお礼くらいさせて。


俺の一言で皆、各々の役割のために部屋を出て行った。もちろん、俺も部屋を後にしていく。


ネクタイを整え準備は整ったと思いながら歩いていれば「ボンゴレ!」と、呼び止められ、足を止めた。振り向いた先にいるのは、眉を寄せ不安そうな表情を見せるランボだった。
先ほど、他の人たちと一緒に部屋から出て行ったのを確認したばかりで呼び止められる理由が分からなかった俺は首をかしげながらランボに聞いた。


「どうしたの、ランボ?」


その問いに、ランボの視線が僅かに泳ぐ。言いにくいことなのか、中々ランボは口を開かなかった。だけど、もう一度「どうした?」と聞けばランボは、泳いでいた視線を俺へとあわせた。



「俺も連れて行ってください。お役には立てないかもしれませんが、それでも……俺もさんを、助けたいんです」



今にも泣きそうな顔でそんな事言われて、俺はランボを連れて行けるわけがなかった。まだ15歳のランボをあの場所へと連れていかないことは、始めから決まっていたこと。15歳でもマフィアはマフィアかもしれないけど、俺はまだ幼いランボを戦場に連れて行くことなんてできなかった。
それに、それはも思っていることだ。彼女は子供を争いに巻き込むことは好きじゃない。


「駄目だよ、ランボ。お前にはちゃんと仕事を任せただろう」

「で、でも!俺だって戦えます!」


声を荒げるランボに俺は静かに「ランボ」と名前を呼んだ。確かにランボはボンゴレの雷の守護者で、一番年下でヘタレだけど、いざという時はとても力になることを知っている。

今の覚悟を胸に秘めたランボなら連れて行っても邪魔になることはないだろう。


だけど、それでも連れて行くわけにはいかない。がそれを嫌がるから。それに、俺だってまだ幼いお前をあの場所に連れて行きたくない。ランボの意思を尊重させたほうが良いんじゃないかと思うけど、でも、お前には戦うことよりも似合う仕事はあるんだ。
ランボの名前を呼ぶ俺の声にランボは顔をあげ、俺は笑顔を向けた。



は、お前があの場所に来るよりも、ここで帰りを待っていてくれたほうが喜ぶよ。それに、この前も言っただろう?お前の仕事はここで、が帰って来たときのためにお茶の準備をして待ってるって」

「だけど、」

「大丈夫、は絶対に俺達が連れ戻すから」



だから、お前はここで待っててあげて。それで、が帰ってきたら笑顔でおかえりを言ってあげて。それがが一番喜ぶことだから、と言えばランボは顔をさげ「はい」と搾り出すかのような声を出した。もしかしたら泣くのを我慢しているのかもしれないな。
そう思っていると、ランボは再び顔をあげ、こちらを見た。その顔は、俺が思っていた表情なんかではなくて、僅かな笑みをうかべていた。


「美味しい紅茶を淹れて待ってますから、さんと一緒に絶対に帰ってきてくださいね」

「分かったよ。よろしく、ランボ」


俺はそう言うと、踵を返して歩き出した。後ろから「頑張ってください、ボンゴレ」と言う声が聞こえてきて、俺の口端が上がった。あぁ、もちろん。そして、絶対にを連れて帰るからと、心の中で呟く。今から俺達が向かうのはミルフィオーレの本拠地。行くのは俺と守護者だけだから、全面戦争とまでは行かないけど、きっとそれぐらいの騒動になることは間違いないだろう。
ボンゴレの一番の戦力と言えるようなのが一箇所に集まるんだ。それだけならまだしも、一昨日、リボーンの言った一言。それもまた、彼らに火をつけた。



「派手に暴れるぞ」



口端をあげながら、その言葉を口にしたリボーンはどことなく嬉しそうだった。俺としてはなるべく静かにを連れ戻した方が良いんじゃないかと思ったけど、その場にいた誰もがリボーンの言葉に頷き、それも叶わなくなってしまった。まぁ、だけど俺達の仲間を奪ったんだ。ただを連れ戻すだけじゃなく、それなりの仕返しくらいさせてもらわないと割りにあわない。

それに雲雀さんや骸は何を言っても、聞く耳なんて持つわけも無く、リボーンのあの一言を聞いてなくても派手に暴れることは分かりきったことだった。でも、あの人たちは手加減なんてものを知らないから、困る。
痛くなった頭を抱え、俺はボンゴレの屋敷の外へと踏み出した。




降りしきる雨は先ほどよりも、強い。そして、空を覆う雲も厚い。だけど、俺はその先にあるものを知っている。だから、俺は歩みを止めることはしなかった。俺が求めるのは今は見えなくても、その先にある明るい未来だから。厚い雲に隠れた先にある大空に、俺は願いをこめた。




先にある未来






(それが明るいものだと、俺は信じるよ。だから、君も信じて待ってて)








(2008・08・20)