「なぁ、ツナ、お前はどうするんだ?」


山本の言葉に、俺は何も言うことはできなかった。ボンゴレのボスとしての立場で考えるならを迎えに行くなんで考えもしなかっただろう。いや、考えてはいけないことなのだろう。
部下一人の命で、ボンゴレのすべての命が救われるのなら、ボンゴレのボスとして、迎えに行くなんて思ってもいけないことだろう。だけど、は俺の部下の前に、仲間で、友達、なのだ。大切な人が、自分を犠牲にしてまでこのボンゴレを守ろうとしてくれたにもかかわらず、自分が何もできないのはもどかしく、そして悔しい。


それに、俺は誰か一人を犠牲にして、このボンゴレを繁栄させることなんてできなかった。ボンゴレのボスとしては失格、だ。それでも、俺は、をこのままにしておくことはできなかった。



「俺は、ボンゴレのボスとしてではなく沢田綱吉としてを迎えに行くよ。」



そうすれば、ボンゴレには迷惑かけないでしょ?と微笑めば山本も一瞬呆気にとられた顔をして「そうだな」と言って笑った。この選択がボンゴレのボスとして間違っていると言うのなら、ボンゴレのボスとして助けるんじゃなくて、沢田綱吉として助ければよいだけのことだ。
こんなものただの屁理屈だとは言うと思う。

でも、屁理屈でも良い。俺が君を助けたいだけなのだから。



「じゃあ、俺もボンゴレの雨の守護者としてじゃなく、山本武としてを迎えに行くわ」



俺と山本はお互い顔を合わせて笑った。どうせ、俺がこんなこと言わなくても山本はを助けに言っただろう。もちろん山本だけでなく他の誰かさん達も同じ事を考えているに違いない。まぁ、あの人たちはボンゴレに迷惑がかかるとか何も考えてないんだろうけど。

「骸や雲雀の奴はもう勝手に動いてんだろな」と言う山本の呟きに俺も頷いた。まったく、手のかかる人たちだ。こんな時くらい協力しようとは思わないのか、とさえ思う。
まぁ、だけど、みんな思う気持ちは同じなんだ。それだけで俺は嬉しいのかもしれない。


思い出すのはあの時のの表情。冷たい瞳。冷たい声。その中に紛れ込んだ優しさ。そして、寂しさ。10年も一緒にいたのに、それが分からないわけがないのに。



「(沢田様なんて呼び方らしくないよ)」



だから、俺の事をそんな風に呼ばないでくれよ。そんな風に呼ばれるくらいなら、駄目ツナと呼ばれたほうが何倍も、何十倍も比べれないくらいましだから。



には怒られちゃうかもね」

「あぁ。きっとあいつ怒るだろうな」



だけど、俺達だって怒っているんだ。お相子だろう。勝手に自分を犠牲にして、ここからいなくなって、俺達はこれでもに怒っているんだ。俺達はを犠牲にしてまで助かりたい、とか、傷つきたくない、とか思っていない。
そりゃ、争いはないに越した方が良いと思うけど、それで大事な仲間を犠牲にするくらいなら俺は戦う。
最後の最後まであがいて、戦ってみせる。


それに、まだ負けたわけではないんだ。勝手に負けるなんて決めつけられたら、ボンゴレの名が泣く。

それにきっと君を助け出さなければ、俺の家庭教師は俺を駄目ツナだと罵ることだろう。やだな、またあんな小言聞かなくちゃいけないのは。だって、嫌だろ?あいつはがこんなことしたって聞いたら有無も言わさずに、銃をに向けるに違いない。そして、グチグチと小言を吐く。その光景が容易に思い浮かんで、俺は少し笑った。



「リボーンにも報告しないと」



俺だけで解決できると思ったから何一つ今回のことは伝えてない。電話越しで、言われる小言を想像すると今から億劫になってくるけど、そんなことも言ってられない。結局俺は自分ひとりでは解決できなかったんだから。異国の地で任務に励んでいるにも関わらず電話をすれば直ぐに戻ってくるであろう家庭教師の姿は容易に想像できた。
あの家庭教師もなんだかんだ言いつつのことが大切なんだ。も、彼の生徒の一人に違いは無いのだから。それにの場合は俺とは違って要領良くて、リボーンにとったらよい生徒だったのかもしれない。そんな生徒の大事件なんだ、飛んで帰ってくるだろう。













駄目ツナが!と電話をきれば、俺はすぐに椅子にかけてあったスーツを羽織った。あの馬鹿、何でもっと早くいわねぇんだ。帰ってから、文句の一つ、二つ、いや、それだけじゃ足りない。とりあえず一時間以上は何か言わなければ俺の気は済まないだろう。馬鹿な生徒の責任は先生がとるのが決まりってものだろう?まぁ、今回は俺が何もしなくても他の奴らが色々してくれてはいそうだが。
まったく、あいつも、あいつらも無茶をする。俺はそんな生徒にお前らを育てたつもりはねぇぞ。と悪態をつけば俺は目の前のドアを蹴破った。それでも収まらないイライラに、チッとしたうちを零す。イタリアまで何時間だ?飛行機の時間を計算しながら、階段を下りていく。俺の顔を見て、驚いた様子の部下に俺はイライラを隠すこともせずに「帰る」と一言言った。お前ら、後はちゃんとやっておけよ、とさらに言葉を残して俺はその場を後にした。



あの、馬鹿がっ!



(帰ったら覚えておけよ、この馬鹿生徒共)








(2008・08・05)