いつものように敵を一人一人斬り殺していけば周りにはどんどん多くの血に塗れた屍ができあがっていく。一撃で仕留めることにはそれなりの神経を使うことだけど、もう慣れた。
血に濡れた俺を洗い流すかの如く勢いを増した雨の雫が俺を叩きつけて、まさに血の海というのはこう言うことをいうのかもしれないとふと思う。

地面はもう、赤色一色にうめつくされてしまっていた。

足もとにたまった血はすべて返り血で、そんな真っ赤な血に俺は何も感じるものはない。
周りの奴らを全員しとめて、たった一人だけ生かしておいた相手のボスを目の前に、俺は微笑んだ。相手が俺を罵倒する言葉を紡ぎ、そして汚い声で奇声をあげる。


あぁ、なんてうっとうしい。


耳をふさいでしまいたい。人の悲鳴なんて、本当は聞きたくない。人を切り刻む音なんて本当は聞きたくない。血しぶきの上がる音。相手が倒れこむ音。
戦場で聞くすべての音が俺は嫌いだ。
だって、耳触りで仕方がないし、こんな音誰だって好き好んで聞くことなんてしないだろう?



「もう、降参……しちゃったら?」



優しい声色で話しかける。今更降参されたとしても、生かすことはないが面倒臭いことはしたくない。派手に抵抗されても構わないが、さっさと終わらせたいと思うのはここ数日まともに寝ていないからだろう。
もうさっさと終わらせようよ。
そう思って笑顔で相手に提案すれば、相手の視線はまるで異様なものを見るかのような視線だったにも関わらず俺に縋るかのような視線にかわる。


なんてわかりやすくて汚い奴なんだろう。


部下をたくさん殺しておきながら、自分だけ生き延びれるなんて思っているんだろうか。そうだとしたらなんて浅はかな。俺たちに喧嘩を売った時点で、既に手遅れだということにこの男はまだ気づいていないらしい。
ましてや、こいつらは俺の大切なものに傷をつけた。頬にできた一筋の傷。

たったそれだけだ、と思う奴もいるかもしれない。でも俺はあの子に傷を作られるのは昔から苦手なんだ。


殺さないでくれ!金はやる!それに、宝石だって!だから―――



「だから、何?」



だから、何だというんだろうか。金なんて俺はいらない。宝石だって、そんなもの俺にはまったくもって必要ない。ましてや、そんなものヴァリアーにいれば嫌という程得る手に入れることが出来る。
それに俺が求めるのはあの子を守ることのできる力だけだ。

金があったとしても、宝石があったとしても、あの子を守ることはできない。必要としないものをもらっても、俺にとってはただのゴミ。価値なんてものは存在しない。


「ねぇ知ってる?俺の名前?」


首をかしげながら相手に問えば、相手は震える声で俺の名前を呟く。一字一句間違いのない俺の名前に俺はニッと笑った。一人歩きしていた名前。いつの間にか有名になってしまった名前は嘘偽りの無い実名だった。

「じゃあ、今回の抗争でボンゴレの幹部の中で負傷者がでたって話は聞いた?まぁ、ほんのかすり傷だからあんた達が知ってるかは分かんないけど」首を横に振る男。勢いよく振りつける雨が音を塗りつぶしていく。


「なら、教えてあげるね」

って、言うんだ。


呟いた瞬間に視線を細め俺は刀を抜いて、姿勢を低くした。そのまま地を蹴りつけ相手の首を一直線に思いっきり斬りつける。溢れ出る血が俺を再び濡らし、服へも飛び散った。
崩れ落ちる体からはもう生気を感じることもない。俺に降りかかった血飛沫も降りしきる雨が流してくれていく。息のない屍たち。これをすべて作り上げたのは、他の誰でもない、俺だ。
手になじんだ刀が今まで多くの人間を殺してきたことを実感させる。


仕事も、終わった。早くボンゴレの屋敷に帰ろうと踵を返す。


誰かに報告しておけばこの血の海も明日にはきれいさっぱり片付いてしまっているんだろう。
まるでここで誰かが殺されていたなんて嘘のように。殺した証拠は残ることはない。明日ここに再び訪れれば、何も知らない子供は楽しそうに人が死んだこの通路を走りまわっているに違いない。

そして俺も、今日多くの人を殺したのが嘘のようにを目の前に笑みをつくるんだろう。




あの子が笑ってくれるんならそれで良いんじゃないかと、囁く俺がいる。でもこんなところは絶対にに見せることはできない。いや俺が、こんなところをに見せたくない。
酷く汚い俺。人殺しの吾郎を俺はに知ってほしくない。には、ただのシスコンで馬鹿な俺を知ってくれていればそれで良い。

笑顔で人を殺しているなんて自分でも異様だということは分かっているんだ。



だから、

お願いだからこんな俺を知らずに、君には笑っていてほしい。君を守るためなら、君の笑顔を見るためなら、俺はなんでもやってやるよ。どんなに汚いことだって、どんなに酷いことだって。


恐いことは君に嫌われてしまうことだけ

(この雨がすべてを洗い流してくれれば良いのに。この血も、この汚い俺の心さえも何もかも)








(2008・03・24)

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↓あとがき



ゆんゆんの雨にうたれる吾郎イラストが素敵すぎて我慢できなかったー!!!戦闘描写とか血の表現とか書けないよ!!そして吾郎が本当に危ない人みたいになったー!!(笑)(笑えないよ)
なんか少しヤンデレっぽくなってますが吾郎はヤンデレ違いますので…!

ごめんなさい、表現方法が思いうかばなかったんだ…!もしもな世界の吾郎は今までと全然印象が違うと思いますが、書いてる私は実に楽しんで書いてます。

ゆんゆん妄想力をありがとう!そしてこんなところまで読んでくださった皆様もありがとうございます!!!(土下座