いつのまにか恒例になった猿飛先生相談室。私としてはなぜ猿飛先生に相談しないといけないんだ、と思ったのだけど世話好き…と表現して良いのかわからないがとりあえず私たちのことをほおっておけないらしい猿飛先生に逆らえるわけもなく資料室で猿飛先生と向かい合っていた。本日のおやつは昨日つくっておいたチーズケーキと煎茶(猿飛先生の煎れてくれるお茶はいつでも美味しい)明らかに資料室を私室化しているが、この学校の先生は何も言わないんだろうか?
いや、この学校の先生に常識をもとめることがおかしいのかもしれない。思い出した先生の顔に、私ははぁとため息をついた。
「あー、ため息なんてついちゃって、そんなに旦那とうまくいってない?」
「今のため息はこの学校のさい先についてですよ」
「ちゃん、結構深いこと考えてんだね」
「まぁ」
猿飛先生たちを見てたら考えずにはいられませんよ、という言葉は飲み込む。
「でも、旦那のことで悩んでいるのも事実でしょ?」
「悩んでいるわけじゃないです」
「本当に?」
にっこり、という言葉が似合いそうな笑みで猿飛先生が笑う。
猿飛先生は鋭い。そりゃ、もうこちらが自分のことなのに気づいていないことにもいち早く気づいてくれる。そして、それを直接教えてくれないのはきっと猿飛先生の良いところなんだろう。
今だって私が真田先生のことで悩んでいることを知っていてもそれを確かめるだけで、深いところを追求しようとしない。これが大人の余裕なのか違うのかまだまだ大人になりきれない私にはわからないけれど、深く追求されないことは今の私には有り難かった。
何を悩んでいることかは自分でもわかっている。
でも、それを誰かに言うのはなんだか気恥ずかしくて、それにそんなことで悩んでいるのか、なんて思われたくもない。
「まぁ、ちゃんと旦那はもうちょっと二人で話したほうが良いと思うよ」
「……はい」
「言いたいことは言っちゃった方が良い」
いつになく真剣な声色にこの人も教師だったんだな、と改めて感じた。最近、猿飛先生が本当に教員免許をもっているのか心配だったのだけどいらぬ心配だったようだ。それに猿飛先生のおかげですべて、とは言わないけれど心の中がすっきりしたような気がした。
確かに言わないことは言わなければ伝わらない。
ましてや私と真田先生は何も言わなくても伝わるほど長い時をともにしたわけでもないし、むしろクラスメイトの中でも真田先生と接した時間は一番短いんじゃないだろうか。
そんな私と真田先生が以心伝心できるだなんて、あるはずがないんだ。
教室かでるとき、私はドアをあけたまま猿飛先生のほうに顔だけを向けた。ずっと気になっていたこと。ちょっと馬鹿馬鹿しいと自分でも分かっていたけれど、なんとなく聞かずにはいられなかった。
羊は狼の集団に勝てると思いますか?
私の言葉に猿飛先生はその質問の意図に気づいてか、ぶっと噴き出すとお腹を抱えておもいっきり笑った。なんて、失礼な。これでも結構真剣な質問だったのに。
羊がただの羊だとは限らないよ
(……猿飛先生の言ってる意味がわかりません)
(結構そのまんまの意味なんだけどね)
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