知恵熱をだした真田先生。こっちは勇気を出して学校へ来たというのにこの仕打ちはなんなんだろうか。少しだけ真田先生に対する怒りを募らせながらも私は目の前の猿飛先生の出してくれたお茶をすすった。机の上にはみたらし団子まで置かれている。
ここに真田先生がもしもいたとしたら、凄く喜んでいたことだろう。そんな真田先生の喜ぶ姿が容易に目に浮かんで、頬が緩んだ。


いや、でも。

寝不足の私を差し置いて、知恵熱という理由で学校を休んだ真田先生にみたらし団子を食べる権利があるわけがない。


思わず眉をよせて、みたらし団子を凝視すれば目の前の椅子に座っていた猿飛先生は「ちゃん、女の子がそんな顔しないの」と言いつつ、私の眉間を指でつついた。いったいどれだけ、凶悪な顔をしていたんだろうか。つつかれた眉間を手で押さえながら、猿飛先生に視線をやれば猿飛先生は困ったように笑った。



「昨日、旦那から強烈な告白受けたんだって?」
「あれが告白と言うなら確かに強烈でしたね」



いきなりだったというのもある上に、真田先生は私の言葉を待つことなく「お館さま」と、叫びながら去って行く姿はとても強烈なもの。武田先生は剣道場のほうにいるんじゃないかと思ったものの、彼が走り去った方向は剣道場とは反対の道だった。呼び止める間のなかった。
まぁ、あの時の私もきっと真田先生を呼びとめても何といって良いのか分からなかったにちがいない。

ずっと、ずっと好きだった。だけど、閉じ込めたまま卒業するはずだった想い。その想いを今までどう伝えようか、なんて考えたことがなかった。伝える予定もないのに、そんなことを考えるのなんて寂しすぎてただただ想うだけで満足だった。
でも、あんな言葉を聞いて黙っていられなくて、寝不足になりながらも今日は、と心に決めてきたのにこれだ。純情青年な真田先生だから仕方がないと思うものの、やはり納得はできない。はぁ、と思わずため息がこぼれそうになったのを猿飛先生の視線を感じて飲み込む。



本当に、嬉しかった。先生と同じ気持ちだったということが。

先生が私の存在をしっかりと見ていてくれたことが。


でも、私と先生が教え子と教師というのは変わりのない事実。好きだと、言われても、それがイコールで付き合う、とはいかないのかもしれない。もしかしたら、真田先生も本当は知恵熱なんかじゃなくて、私に昨日あんなことを言ったことを後悔している可能性も無きにしも非ず、だ。自分の気持ちを伝える前に真田先生からあのことがなかったことにされたらどうしようか。
思わずこみ上げて来る自嘲をおさえることができずに、不細工な笑みをうかべてしまった。



「真田先生なんて狼に食べられちゃえ」



思わず呟いた一言に猿飛先生が怪訝そうな表情をうかべる。真田先生なんて、女子高生という名の狼に食べられて困り果ててしまえばよいんだ。
……なんて、本音じゃないんだけど。多分本当に食べられちゃったりしたら私は悲しくてたまらない。でも、ちょっとくらい食べられちゃえって思ってもバチはあたらないだろう。


「ほらほら、元気出してちゃん」


猿飛先生が慰めるように言葉をかけてくれ、少しだけ気持ちが落ちつく。思えば、好きと想えるだけで良かったのなら、別に真田先生があの告白をなかったことにしても別に良いんじゃないだろうか。好き、と想えるだけで幸せだった。たまに苦しくなることもあったけど、私はあの思いを口にするつもりなんてなかったはずだ。
だから、別に……そうは思っても、やっぱりもうこの想いを閉じ込めておくのは無理に違いない。もう、私は真田先生の気持ちを知ってしまったから。ただ、自分の想いを伝えたい。それがどんな結果になろうとも。


真田先生。本当に大好きなんです。

もう溢れだす思いをとめる術を私はしらない。