「よし。じゃあ、俺様がちょっと一肌脱いであげるとしようか」
あまりにも私がうじうじしていたせいか飲んでいたお茶を置くと猿飛先生はそう言って立ち上がった。は?と思って見上げれば、猿飛先生はこちらへとウィンクを飛ばしてくる。とりあえず、丁重にお返ししたい。そんな私の気持ちなんて知らないんだろう、猿飛先生はなにやら懐から携帯を取り出すと操作して、パチンと携帯を閉じた。メールでも作成したんだろうか。
女子高生顔まけの親指の早さに呆然としてしまったのは、猿飛先生の操作が現役女子高生の私よりも何倍も早かったからだ。
(猿飛先生って器用だよねぇ)
料理部の顧問としてもかなり優秀だし、猿飛先生がいつも自分で作っているらしいお弁当箱は主婦顔負けの出来。私も一口貰ったことがあるが、思わず自分の口を手で覆い、目を見開いたくらいだった。あぁ、美味しかったさ!そりゃ、もう私のお弁当以上に!猿飛先生は将来良いお嫁さんになるだろう、と猿飛先生の性別も忘れてそう思ってしまったのは猿飛先生のお弁当を食べた人ならきっと全員が思ったことに違いない。
メールを打ってから数分、そろそろ来るかなぁなんて猿飛先生の視線がドアのほうへとうつる。
真田先生と違って、普段から何を考えているのか推測できない猿飛先生だけど、このときばかりは普段以上に猿飛先生の考えていることがわからなかった。それも、ニヤニヤとした笑みを浮かべているからさらに性質が悪い。
おいおい、どこの悪代官ですか。
「ちゃん、もうちょっと待ってねぇ。そろそろ来るはずだから」
「…誰か来るんですか?」
うん、今メールで呼んだからね。ニヤニヤとした笑みはそのままに、そっと手に持っていた携帯に猿飛先生の視線がうつる。それにつられるかのように私も猿飛先生の携帯に視線をやった。メールを送ってから、返事が来た様子は見られない携帯。一体誰を呼んだのかなんて私には想像もつかずに、ため息が一つこぼれた。
昨日は真田先生に振り回されて、今日は猿飛先生に振り回されて……まぁ、とはいっても猿飛先生は私のことを気遣ってのことだということはわかっているのだけど。
ガラリ、と音が立ててドアがあけられる。
そこにいたのは思いもよらない人物だった。
「……先生?」
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