猿飛先生から課題を受け取る。誰もいない資料室。これが他の生徒だったりしたら、何かあったような雰囲気を醸し出していたかもしれないが、私の場合はそんな事もなく一人だけ課題を出すのが遅れた罰を受けていた。ぱちん、ぱちん、とホッチキスで紙をまとめていく。もちろん、猿飛先生も私と同じようなことをしていた。
何故か、仲の良い私と猿飛先生。これはきっと、料理部の顧問と部長という間柄のせいなんだけど、いつもは料理の話題を話すにも関わらず今日は何故か真田先生の話題だった。これは猿飛先生の一言が原因だった。


ちゃんって、旦那のクラスだっけ?」


自分の部活のクラスくらい把握しておけよ、とは思ったりしたが、人数の多い料理部。これも致し方ないのかもしれない、と思い私はその言葉を飲み込んだ。その代わり「そうですよ」とそっけない言葉を返した。
そこから、何故か真田先生の話はどんどんふくらんでいった。担任の生徒のことを話すことは特段可笑しなことだから、気にはしないけど、猿飛先生と真田先生がこれほどまで仲が良いとは思いもしなかった。猿飛先生も真田先生と仲が良いならもう少し女の子の扱い方について教えてあげればよいのに、と零せば、猿飛先生は苦笑しながら「旦那には無理だよ」と言った。
その表情には疲れきった様子が伺えたので、きっと彼も彼らなりに真田先生が女慣れするように色々したようだ。結局それは無駄に終わったようだけど。


「だけど、本当うちのクラスで真田先生可哀相ですよ。」
「……だろうね」

「教え方もうまいし、勉強も分かりやすいんですけどね」


直さなければいけないとは思わないけど、直した方が良いとは思う。あそこまで、女子高生の言葉に過剰に反応するのも今後困ったことが起こるかもしれない。と言うか、実際今も本人は困っている。
そんなことを思いながら眉を寄せて猿飛先生を見ていれば猿飛先生は、笑みをうかべて「だけどさ、ちゃん。伊達の旦那みたいな旦那想像してごらんよ」と言った。言われたとおりの伊達先生みたいな真田先生を想像すれば、私の眉間には僅かながら皺がよった。


あー、無しだわ。いや、顔も良いし、それはそれで有りなんだろうけど、純情真田先生を知っている私にとっては違和感ありまくりだ。
そもそも例えが伊達先生って言うのが無しだろう。あの先生は他の先生に比べて、生徒へのスキンシップが多い。


「なしですね」


僅かな沈黙を置いて答えれば、猿飛先生は頷きながら言った。


「でしょー?」
「はい。真田先生は今のままで十分ですね」


何だかんだ言いつつ私は、どんな先生でも好きなんだ。自分があまりにも少女漫画的思考を持っていることに少し恥じらいを持ちながら、私はぼんやりと真田先生の事を考えていた。今度、料理部で真田先生の好きな物でも作ろうかな。猿飛先生が、週に一回ある料理部で作ったものを真田先生のところに持っていることを私は知っている。
もしかしたら、その時あまりに美味しそうに作ったものを食べているところを見て、あぁ、この人のこと好きなんだ、と自覚したかもしれない。この気持ちはきっと、憧れの好きじゃない。そもそも真田先生にはあまり憧れと言う気持ちはもったことはなかったし。



ところで猿飛先生、手が止まってるんですけど