ホワイトデーの放課後。バレンタインの時よりも、男女の気合の入れ方は違う。やっぱり、バレンタインの時の方がどっちとも気合が入っていたような気がする。まぁ、私の場合はどちらの場合も気合なんてものなかったけど、と思い私は鞄の中に教科書を入れていた。



今日の私はいつもと違う。今までハロウィンの時といい、クリスマスのときといい、バレンタインのときといい、学校の前で骸さんに待ち伏せされていて、それはもう女子生徒の妬むような視線に耐えてきた。そして、今日はホワイトデー。バレンタインの時に、骸さんから「お返し、楽しみにしていてくださいね」とニッコリと微笑みながら言われた時は一瞬、あぁ、死刑宣告?なんて思ったりもしたけど、骸さんに気づかれないように家に帰れば良いだけのこと。きっと、正門の方で待っている骸さんには悪いけど、今日の私は裏門から帰らせてもらう。







ふふ、と思わず頬が緩むのを感じれば、私の近くにいた友達のりりんが、気持ち悪い、と呟いた(し、失礼な!)(りりんに私の気持ちが分かるっていうの?!とてつもなく良い案がうかんだ私のこの気持ちが!)












「あんた、今から良いことでもあるの?本当気持ち悪いわよ」



「りりんはさ、私が傷つかない人間だと思ってその事を言ってる?もっとオブラートに包んで欲しいんだけど、って言うかむしろ包め」










酷い友達を持ったものだ、と心の中で嘆く。まぁ、どんなに嘆いたところでこの友達が変わることがないのは分かりきった事なので、何もいえないけど。いや、でも、もう少しぐらい優しくしてくれても良いと思う。だって、私いっつも苦労してるんだよ?りりんが知らないところで、マジであり得ない状況に置かれたりすることもあるんだよ?
そんな、私に少しぐらい優しくしたってバチなんて当たらないに決まってるのに「ー」ふと呼ばれた名前に、私はその声が聞こえてきたほうを見た。クラスの男子、えっと、えっと・・・・・・・誰だったっけ?名前はその、うん、ちょっと、忘れてしまったんだけど、クラスの男子が珍しく私の名前を呼んでいた。一体話した事も数回あるかないかの男子が私の名前を呼ぶなんて、と思い男子の方を見れば、男子の視線がドアの外へと移動した。私もその視線を追うかのように、ドアの方を見る。






ドアの外からこちらを爽やかな胡散臭い笑顔をうかべながら見ている、骸さんがいた。それも、何故か私の学校の制服を着て(もちろん男子の制服だということは先に言っておく)













「あら、機嫌が良かったのはあの人のせい?、いつの間にあんなかっこ良い彼氏ができたのよ」




「か、彼氏なんかじゃないやい!」











何故、あの人がここにいるんだ!なんて言葉は出てこなかった。もう、なんだ、この虐め。正直泣きたい。骸さんには私の行動なんてすべてお見通しだったのか「」と名前を呼ばれてクラス全員の視線が私に集まる。それと同時に青くなる私の顔。まったくやってらんねぇよ!明日からどうやって学校に来れば良いんだよ!登校拒否になったらこれ、絶対骸さんのせいだ!と思いながらも、私はクラス全員の視線に耐えられなくなって鞄を持って、骸さんの方へと向った「お幸せにね〜」後ろから聞こえてくるりりんの声が妬ましい。


そんな幸せになれるわけがない。骸さんがいるかぎり。教室から出た瞬間に私はキッと目の前にいる骸さんを睨みつけた。それでも骸さんは笑っている。まったく性質の悪い人だ。










「どうです、。驚きましたか?」



「驚きを通り越して、殺意を覚えますよ」



「クフフ、そんな事言って本当は僕が
「はいはい、後は外で聞きますから、さっさと学校からでますよ」











骸さんの台詞を遮り、私は歩き出した。廊下を歩けばみんなの視線が骸さんにいっていることにすぐに気づく。もちろん、妬みの視線が私に集まっている事も。隣で嬉しそうに微笑んでいる骸さんに湧く殺意はきっと本物だ。今、目の前に包丁でも出されたら、させる気が凄くする。それに、誰一人気づかないんだろうか。確かにこの人は現在、この学校の制服を着ている。でも他校の生徒なのだ。見覚えのない生徒がいることに誰も違和感を覚えないのだろうか、と考えてやめた。



この学校はマンモス校なんだ。覚えのない生徒なんてたくさんいるに決まっている。だから、きっとみんな何も言わないんだろう。少しだけ歩くスピードを速め、私はすぐ後ろをついてくる骸さんの気配を感じながら学校をでた。言っておくけど学校から出るまで骸さんは後ろから何回も話しかけてきた。私はそれをすべて無視した。それだけ、私のイライラはたまっていたんだ。

















でも、さすがに学校をでて、何回も私の名前を呼んでくる骸さんが可哀想になって「なんですか?」と一言だけそっけなく返した。チラッと骸さんの顔を見れば、骸さんは少しだけ困ったように笑っていた。








「すみません、。さすがにこれはやりすぎました。君の気持ちも考えなければなりませんでしたね」







すみません、ともう一度言う骸さん。骸さんが謝るなんて珍しくて、私も無視したことに罪悪感を覚えてしまった。それにそんなに切なそうに微笑むなんて反則だ。それじゃあ、もう無視なんてできるわけがない。









「もう良いです、怒ってませんよ」




「さっすが!優しいですね!」




「(こいつは……!)」








満面の笑みを貼り付けている骸さん。騙されてしまった、と思ってももう遅い。彼は演技も上手かった。くそ!骸さんのくせに!街中でそれもホワイトデーと言う日に、かっこ良い男の子を睨みあげる平凡な女の子。周りから見た時私はどんな風に見られているんだろう。願わくはば、かっこ良い男の子に振られた女の子が腹いせにその男の子を睨んでいる、と見られていなければ良いと思う。骸さんにふられた、なんて、思われるだけで気分が悪い。







「さて、今日はホワイトデーですからね!ちゃんとお返しを持って来たんですよ!!」




「へぇ」




「反応薄すぎませんか?!もっと、こう、キャー、やだ骸さんったら★みたいな態度はできないんですか?!」




「いや、それ私に期待する方が間違ってるでしょ。今まで私が貴方にそんな態度とったことありますか?」




「もしかして、僕以外の男にはあるって言うんですか?!」




ねぇよ。あー、もう本当駄目だ、この人。








ねぇ、あるんですか?!としつこく聞いてくる骸さんに私ははっきりと「ない」と伝えた、私がそんな態度とるなんて気持ち悪くて想像もしたくないと言うのに、まったくこの人は。もうため息さえでやしない。呆れるなんて、もう当に越している。目の前で我が学校の制服を着こなす骸さん。このコスプレ野郎が、と心の中で悪態をつく。







「なんと、お返しはウェエディングドレスを持ってきま
「あんた本当に黙れよ。それか、本気で死んでください」





「えっ、ちょっと死んでくださいは酷すぎませんか?これも愛の試練なんですか?!




「そんなわけないじゃないですか。愛の試練なんかじゃないです。勘違いも程ほどにしてくださいよ!」








私が思いっきり怒鳴りながら言えば骸さんは「ちょっとした冗談じゃないですか」なんて、胡散臭い笑みを浮かべながら言った。骸さんの場合冗談が気持ち悪いし、ましてや冗談に聞こえないから辞めてほしい。それに骸さんだったら本気でウェディングドレスも、他校の制服も、準備してしまいそうで恐い。本当に恐い……!

骸さんに対する恐怖を覚えながら、私は目の前の骸さんを見た「クフフ、本当のお返しはこちらですよ。きっと、も喜ぶと思います」嬉しそうに笑う骸さんが差し出してきたのは紙袋だった。受け取り中を確認すれば、箱がいくつか入っている。なんだ、これは?それもこんなに一杯貰って良いのだろうか?と思い、じとーと骸さんを見れば、骸さんは、クフフ、といつもの笑みを零した。










「僕が選んだ取っておきのチョコレートですよ。僕はチョコレートには煩いですからね、きっとも満足すると思います」








意外にも意外。まさかの骸さんからのお返しはまともなものだった「犬と千種からも渡してくれと頼まれたので持って来ました」そう言って、新たな紙袋を取り出す骸さん。一体どこに隠し持っていたんだろうか。とは思うけども相手は骸さんだ。もう、このさい気にしないことにしておく。チラッと中を見れば、犬くんからは大量のお菓子、千種くんからは、料理の本を貰ったことが分かった。どちらも、私にとっては嬉しいもので、もちろん骸さんからのお返しも凄く嬉しかった。









「ありがとうございます、骸さん」








微笑んで言えば、骸さんもにっこりと微笑んでいた。本当、いつもこんな笑みをうかべていれば良いのに。あんな胡散臭い笑みとかじゃなくて(さすがにそんな事本人にはいえないけど!)(って、それよりもひどいことを言ってるような気がするよ、私!)


だけど、明日からのことを考えると憂鬱で仕方がない。きっと、クラスメイトからは、骸さんが誰なんだ、とせわしく聞かれる事は間違いないし、もしかしたらその、うん、か、彼氏とか勘違いされてるかもしれないし・・・・・・・まじで、学校行きたくないかもしれない。それも、この人、制服似合いすぎなんだよ。そもそも、その制服どこで手に入れたんですか、って感じだし。でも、そんな事恐くて聞けないし、な。まぁ、今はそんな事考えてもしょうがない。どうせ、運命はかわれないものなんだ。









「犬くんと、千種くんにもありがとう、って言っておいてください」



「あぁ、それなら僕が言わなくても自分で言えば良いじゃないですか」



「は?」







どうせ、今日会う予定がないから骸さんに頼んだって言うのに、自分で言えば良いというのはどういうことなんだろう。嫌な予感がして冷や汗が私の背中に流れるのを感じた。







「今日はは僕達と一緒に晩御飯を食べるんですよ。今頃きっと千種が作ってると思いますか」



「いや、でも、私、吾郎のご飯を」



「それなら安心して下さい。君のお兄さんにはもう了承も貰いましたから。彼も、今日は部活の友達と食べてくるそうですよ」







もう決定事項らしい。私に拒否権なんてないなんて、人権は何処に行ったんだろう。でも、千種くんの料理が食べれると言うのは美味しい条件かもしれない。明日はどうせ休みだし、今日は騒いでも明日ゆっくり休めるだろう。そう思い、私は骸さんが私の手をとるのに抵抗することはなかった。繋いだ骸さんの手は少しだけ冷たい「、楽しみですね」うっすらと笑う骸さんに、私は「そうですね」と返していた。









君といるのは楽しい

















(2008・03・14)

骸さんとホワイトデー
コスプレ骸さんで申し訳ないです