ただ今、応接室で絶賛風紀委員のお手伝い中・・・・・・・とは言っても、雲雀さんは「咬み殺してくる」と言って、不良撲殺活動へと私に多くの仕事を残して行ってしまった。誰かあの人の傍若無人ぶりを治してやって欲しい(シャマルさんに頼んでみようかな・・・・)(いや、でも雲雀さん男だし、って、あの顔だったら女でも通用するんじゃないかな?!私のことが可愛いって見えるくらいなんだ、雲雀さんのことも女としてみる事なんて十分にできるはず!)(なーんてね。雲雀さん、サクラクラ病の件から物凄くシャマルさん嫌ってるもんなー)




目の前の書類は、とてもじゃないけど今日中に片付きそうじゃなくて、これは明日の土曜日にも呼び出されてしまうかもしれない。あぁ、また私の貴重な土曜日が奪われてしまう!折角の週休2日制も、風紀の手伝いをするようになってから、堪能できなくなってしまった。む、無念だ……!ゆとり教育が始まった当時は週休2日制を本気で喜んだ日もあるというのに。














コンコン。ドアがノックされる音がして私の動いていた手はとまる。ドアがノックされたと言う事はこれは絶対に雲雀さんではない。あの人、人にはノックしないと殴るよ、って言うくせに自分はノックなんてしない。まったく、どういう教育を受けてきたんだろう。あの性格もゆとり教育がもたらしたもの、なんだろうか(いやいや、そんなわけないよ。ゆとり教育に謝れ、私!)まぁ、雲雀さんの場合は、学校が休みになった事で、学校に来ても群れを見ることがなくなって、実はちょっとゆとり教育に感謝してるんじゃないかなー コンコンっていけない、いけない。ドアがノックされてるの忘れてた。












「はいはーい、どなたですかー」











まるで、家にお客さんが来たときのような対応の仕方をしてしまった自分。馬鹿丸出しかもしれない。これで風紀委員に馬鹿がいるぜ!なんて噂されたら私はきっと雲雀さんに殺されてしまうに違いない。やっべぇぇぇ!?」しかし、そんな不安も何のその。聞こえてきた声は草壁さんの声で、一般生徒ではなかった(良かった!草壁さんなら馬鹿丸出しでも気にしないでくれる!)私はドアの向こうにいるのが草壁さんだと分かると意気揚々と急いで応接室のドアを開けた。



目の前には草壁さん。あぁ、もう本当この人は癒し系だ!顔恐いし、大きいし、でも、心が澄んでるんだよ、草壁さんは。どっかの風紀委員長とは違って!












「どうしたんですか、草壁さん?」



「いや、これを渡そうと思ってな」











そう言って渡されたのは綺麗に包装された小さな箱。何だ、これは?と頭をかしげれば、「バレンタインのお返しだ。確か中身はクッキーだったと思うぞ」と言う草壁さんの声。うわー、やっぱり草壁さんは私の癒しです。まさか、ちゃんとお返しをくれるなんて、どっかの風紀委員長に見習わせてやりたいぐらいだ(別にお返し目当てであげたわけじゃないけど)(それに、雲雀さんがお返しなんて気持ち悪っ……!!)まぁ、どっかの風紀委員長は、一杯チョコレートを貰っているから一人に返したら全員に返さないといけなくなるから大変なんだろう、と思うことにしておく。


あ、でも草壁さんだったらどんなにたくさんの人にチョコレート貰ったとしても、ちゃんと全員にお返しをあげてそうだな。うん、草壁さんだしね!













「ありがとうございます。いや、本当ありがとうございます」




「はは、ただのお返しだ。チョコレート美味しかったぞ」














草壁さんの後ろに菩薩様が見えたような気がした。はは、と笑ったときにキラッと光った歯が素敵ですよ、草壁さん!私、絶対に草壁さんのファンクラブとかあったら絶対に入るのに。いや、本当に。並中には草壁さんのファンクラブとかないんだろうか……山本とか獄寺はありそうだよね(なんで、あいつ等がモテるんだ!)(特に獄寺は可笑しいだろ!世の中、顔じゃないと全世界の女の子に伝えたい)


それに雲雀さんとかもあれだけチョコレートを貰ってるんだからきっと影でファンクラブとかありそうだ。はは、それで雲雀さんが通るたびに
「キャ★雲雀さんだわ!」とか「やだ、今日も素敵!」とか思ったりしてるんだろうな、って、気持ち悪……っ!想像したら、なんか鳥肌がきちゃったよ!あー、本当、私人間顔じゃないと本気で思うんだよな。








もし、そのファンクラブの女の子達が雲雀さんと付き合う日が本当にもしもだけど、いや、本気でありえないとは思うんだけど、雲雀さんと付き合う日が来たらドメスティックな生活が始まる事は間違いないと思うよ。エムな人は大歓迎かもしれないけど、私そんな趣味ないし、まず雲雀さんが人間を好きになることが考えられないからなー「?」ハッと我に戻り、草壁さんの顔を見上げれば草壁さんは怪訝そうな顔つきでこちらを見ていた。


いけない。いけない。こんなくだらない事を考えてる場合じゃない。私にはまだ終わらせなければいけない仕事があったんだった。あの仕事を雲雀さんが不良撲殺活動から帰ってくる前までには終わらせないと、私は血を見ることになってしまう。もちろん、その血と言うのは、紛れもなく、私の血、である。













「じゃあ、俺は仕事がまだ残ってるから行くな。も委員長が帰ってくるまでには終わらせられると良いな」


「えぇ……まぁ、頑張ってみます」










多分、無理だとは思うけど。雲雀さんが私に託した仕事の量は、いつもより多い。あの人、本当鬼畜だ!と思いながら、私は遠ざかっていく草壁さんの背中を見届け応接室へと戻った。机の上に積み上げられた仕事の山。


ハァ、とため息を零しながら私は草壁さんから貰った箱を机の上におき、自分の為に紅茶を淹れた。割れないように気をつけないといけないと、思うのはこのコーヒーカップが見るからに高そうなものだからだろう。本当、この応接室にあるものはすべて金をかけすぎだと思う。中学生には中学生に合ったものがあると言うのに(とりあえず中学生にこんな高そうなコーヒーカップは似合わない!……いや、まぁ、雲雀さんにはすっごく似合うんだけど、ね





まったく、この教室だけ、どこかの社長室のような雰囲気をかもし出している。この応接室にある、と言うだけでどんな物でも高いものに見えてしまうから不思議だ。きっと、雲雀さんの雰囲気がそうしているんだろう(あの人から中学生なんてオーラまったくないからねー!)さて、と気を取り直し私は紅茶を一口、口に含んで再び仕事を始めた。今日帰れることを願いながら























私が仕事を終えた時には、もういつもなら晩御飯の時間だ!と心躍らせている時間帯だった(食い気ばかりの女の子で申し訳ない!)グヘーと女の子……いや、男の子でもだしそうにない奇妙な声を出しながら背筋を伸ばす「何、その声」ふと聞こえてきた声。チラッと視線をずらせば、ドアをあけた雲雀さんが立っていた。なんとも恥ずかしい声を聞かれてしまった、なんて思ったりもしたけどそんなことを思うような間柄でもないので気にしないことにした。それよりも、雲雀さんが私に気づかれずにこの応接室にいたことのほうが気になるし(マジで何者なんだ、この人!)(絶対、絶対、人間ではない、な)




スタスタといつものように歩きだし、いつものように自分の席につくと思ったのだけど雲雀さんは、いつもとは違い私の前のソファーへと座った「これ、なに?」雲雀さんの視線を追えば、そこには置いたままの草壁さんから貰ったクッキー。え、雲雀さんにはやりませんよ!?……って、雲雀さんはこれが何かを聞いているだけで別に頂戴、といったわけじゃない。自分の食い気は底なしだ。女の子失格!













「あ、草壁さんからクッキーを貰ったんです」



「・・・・・・草壁から?」



「はい」











なんで、と目で言われたような気がした。いや、でも、ここでホワイトデーだからです。なんて言ったらまるで、雲雀さんにお返しを催促しているようには聞こえないだろうか。まぁ、雲雀さんのことだから聞こえたとしても別に関係ないとは思うけど「もしかして、お返し?」私は、雲雀さんの言葉に驚いた。



まさか、雲雀さんがホワイトデーの存在を知っているとは!それもホワイトデーがちゃんと何の日か分かってる!す、凄いですよ、雲雀さん!と声に出していたら、雲雀さんに咬み殺されること間違いないことを考えながら、私は「そうです」と答えていた「ふ〜ん」とそっけない雲雀さん。雲雀さんも、私は別にお返しなんていらないけど、本命の子からもし貰えたんならお返しはちゃんとしていたほうが良いですよ、と心の中で伝える。さすがに、口に出す勇気は私にはない。











「ねぇ、紅茶淹れてくれない?」




「あ、はい。分かりました」







いつもの雲雀さんの言葉に私は立ち上がり、紅茶を淹れようと動いた。でも、「」と雲雀さんに名前を呼ばれて止まる「なんですか」雲雀さんの方を見ながら言えば、雲雀さんはこちらに一つの紙袋を差し出してきた。何、これ?と考えてみてみれば、それは並盛でも大人気のお店のケーキだった。うわ、うわ、うわ!自分、気持ち悪い!「これも一緒にだして。僕は何でも良いから、君が食べたい方を選んで良いよ」一瞬だけ、雲雀さんが神に見えた瞬間だった。やった!と意気揚々としながら、私はその紙袋を受け取り、紅茶を淹れに行く。












「(雲雀さんなりのお返しだったりして)」











なんて、そんな事あるわけがないか!雲雀さんがお返しなんて、ありえるわけがないし。ケーキの入った紙袋の中を見れば、ケーキの箱とともに、別の箱が一箱入っていた。さすがにこれは勝手にあけてはいけないだろう、と思い、雲雀さんにどうすれば良いか聞こうと振り返れば、そこには雲雀さんが立っていた。い、いつの間に!?「ひ、雲雀さん?!」と思わず声がでる。






「ど、ど、どうしたんですか?!」


「・・・・・言い忘れたことがあったんだよ」



「え、言い忘れたことですか?」



「それ、君のだから」














クイッと雲雀さんの顎が動き、私の持っている箱を指す。これが私の?「開けてみなよ」雲雀さんの言葉に素直に従い、私は箱を開けた。これで、びっくり箱とかだったどうしよう、と思うとドキドキする。この人、こう見えて子供っぽいところがあるからそれも十分に考えられる。


まったく、もし、びっくり箱だったとしても絶対に驚かないぞ!と覚悟を決めて、私は静かに箱を開けた。でも、中に入っていたのは一つのマグカップで、びっくり箱でもなんでもなかった(よ、良かった・・・・)マグカップを取り出して、見る。ひよこのプリントされているそれを見て、雲雀さんの周りで見かける黄色い可愛いあの鳥を思い出した。













「マグカップですか?」




「・・・・・・・応接室のカップを割られたら困るからね。今度からはそれをつかいなよ」












ありがとうございます、と言う言葉は思うよりも先に出た言葉だった。どうやら、このマグカップは私専用の応接室のマグカップらしい。高いカップに囲まれた私専用のマグカップ。応接室にこれから来ることがまるで決定されているような、マグカップの存在に、私の苦労はこれからも続くんであろうと、ハァ、と息を吐いた。でも、嬉しいと素直に感じる。だって、雲雀さんが私の為に何かをしてくれるなんて、とてもじゃないけど考えたことなんてないし、このマグカップを買っている雲雀さんを想像すると頬が緩む(緩むを通り越して少し爆笑してしまいそうではあるけど)











「大切に使いますね!」



「・・・・・さっさと、紅茶淹れてくれない」







フイッと雲雀さんは踵を返して、またソファーの方へと歩き出していた。私も雲雀さんの言葉に早く紅茶を淹れないといけない、と思い雲雀さんに背中を向ける。後ろから聞こえてきた「あと、チョコレートまずくはなかったよ」と言う雲雀さんの言葉で今、私が持っているこのひよこのマグカップがバレンタインのお返しなんじゃないかと、そんな事を考えてしまった。雲雀さんも意外に律儀な性格をしているのかもしれないと思いながら紅茶を淹れていれば、私の肩に止まった雲雀さんの黄色い鳥が私の名前を呼んだ「」奥から聞こえてきた雲雀さんの声に、私は急いで紅茶を雲雀さんの方へと持って行った。もちろん、ひよこのマグカップも一緒に。







場違いなマグカップ



(でも、私にとったらどんな高そうなカップよりも高い)













(2008・03・14)

ひよこのマグカップはお返しにはなしだったでしょうか?